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第7話 『賢者の過去』

レネ・ヴィルケ・プロイセンは、優れた剣士を輩出する名家の生まれだ。

 かつては勇者に仕えた剣士もいたという。

 レネの剣術は中級者程度の冒険者には通用するかもしれないが、剣士というには話にならなかった。

 そのことは自身でも自覚していて、毎日兄弟より早く起きては素振りや鍛錬を欠かさず行っている。

 しかし剣の腕があがることはない。


 四人兄弟の三番目であるレネは、兄弟との差を見せつけられる日々を過ごしていた。


「ヴィルケ兄さんならユルゲン兄さんに追いつけるよ!」

「はは。そうかな」


 弟のロニーは健気に応援してくれていたが、無邪気さは重圧としてレネにのしかかっていた。


 心から休息できるのは、森で魔法を練習している時だけだ。

 どういうわけかレネはあらゆる属性の魔法を負荷なく使うことができたのだ。

 人には得意な属性と不得手な属性がある。

 不得手な属性の魔法を使うと魔法回路に負荷がかかり頭痛や吐き気を覚えたりするのだが、レネには不得手な属性というものがなかった。


「だからって、魔法だけ優れていても剣士としては認められるはずがないんだけどね」


 レネは兄弟の中で飛び抜けて魔法を心得ていた。

 そのことが父ヴァルターの逆鱗に触れていると知りつつ、レネは魔法の探求を止められないでいた。


「お前はプロイセン家の恥だ。剣士の家系に魔法の使い手はいらん。ロニーと手合わせしろ」

「ヴィルケ兄さん……」

「うん。ロニー、手合わせ願うよ」


 勝負は呆気なかった。

 レネが先制攻撃を仕掛け、見切ったロニーのカウンターが決まりそこですべてが決まった。


 レネは家を出ることになる。

 これまで遠出らしい遠出もしたことがなかったレネにはあらゆることが前途多難だった。

 だけど今まで生きてきて感じたことのないほどの身軽さを感じていた。

 まるで呪縛が解けて自由になったかのように。


「でも、ロニーを泣かせちゃったな……。兄さんたちにも呆れられちゃったし。失ったものも多いのかもしれない。だけど、俺は俺のしたいことができる」


 それからはあらゆるところへ赴いては魔法を知り学び、魔導書を読み勉強をした。

 気づいたときには「賢者」と呼ばれ、あちこちから声がかかる大物に大成していた。


「あいつも昔は落ちこぼれだったんだよ。俺とは違ってな」

「だけどそれは、レネさんが魔法の才能があったってだけの話だよ」

「才能があっても何も知らず何も学ばずでは、開花するものもしない」

「…………」

「お前には成りたいものはないのか?」


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