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2.素敵に無敵。


 と、まぁそんな感じで私が異世界に来て早くも三ヶ月が経ってしまった。


 折角前に友人が褒めてくれ茶髪もすっかりプリンになってる。本当はもっとこう、ミルクティーみたいな色にしたかったんだけど校則で怒られるから暗めのブラウンにした。欲を言うならインナーにオレンジとか赤とか入れたかったんだけどね。

 でも頭プリンになるならこのくらいの色の方が違和感はないから、これはこれでよかったのかもしれない。いつも広場にいるお弁当屋さんのシンちゃんとか染めてたことにすら気付いてなかったし。

 そういえばシンちゃんが会うたびに髪型チェックして「宇宙人対策?」とか聞いてきてたけどあれ何だったんだろ。スピリチュアル的なことはよくわかんないんだけどポニーとお団子と三つ編みのローテーションには何かそういう意味があったんだろうか。


 あれから特に大きな何かがあったわけでもなく、どういうわけかムキムキのオーナー兼仕立て屋の店長の所でなんとなく店番してなんとなく過ごしてる。いや、何もないのもダメなんだけど。

 ファンタジーみたいな不思議な力がーとか、剣を渡されて戦えーみたいなこともなく。なんでこの世界に来たとかの理由もわからないまま、ブティック『アルドラ』の住み込みバイトとしての日々忙しくしている。


 ここに来て変わったことといえばなんだろう?

 ちょっとこっちの文字が読めるようになったのと何人か知り合いが出来た事くらいかな?シンちゃんもそうだし本屋のおじいちゃんとか、精肉店の夫婦とその子供のマー坊とハーちゃんとか。


 あ、そうそう。最近ようやくわかったんだけどこの世界にはちゃんとムキムキ以外の人もいる。

 ただ人種的に筋肉の付きやすい人達がいたり、旅をして魔物を倒したりするために鍛えている人が多い、らしい。あと何よりこの街が大きな街道沿いの街で、この街を経由して違う街に行く人が多いから自然とムキムキな人が集まってくるんだとか。

 人の入れ替わりが激しいからこそ、あんまり気にする余裕もなかったけど私がこの世界に来た時もあんまり街の人に気にされていなかったらしい。それはそれでちょっと寂しい気もする。


 とにかく。

 見慣れない人でお金持ってそうな人を見たら、その人は他所の街からきてこの街にお金落としてくれる人だからしっかり接客しなさい。若くてお金を持ってなさそうな旅人を見たら、その人が大成したらこの街にお金を落としに帰ってきてくれるから丁寧な接客しなさい。

 というのが、私がこの三ヶ月で店長にみっちり叩き込まれた接客の極意である。

 そしておそらく、今目の前にいる四人組は後者のタイプの人なので丁寧な接客を心掛けていこうと思います。



「お連れのお姉さん綺麗ですねー。そちらのワンピースだとカーディガンとか合わせてみても清楚な纏まりになりますよー」



 胸元がざっくり開いたタイプのワンピースを試着しているエルフのお姉さんを見て真っ赤になっている男の子に擦り寄ってレース編みのカーディガンを差し出す。

 いや、すごく似合ってるよ?似合ってはいるんだけどお胸の主張が激しい。私ちゃんも大きいことにある種の憧れがあるんだけど、青少年にはこのお姉さんのおっきいおっぱいは刺激的すぎると思う。

 なんていうかこっちの世界の旅をしてる女の人って何故か皆服の布面積が少ないんだよね。魔物とかいっぱい出るんでしょ?大丈夫?危なくないの?


 一緒に来た別の人間の女の子に睨みを利かされてる男の子がちょっとかわいそうで、カーディガン出して来たけどあれは仕方ないと思う。私だってつい見ちゃうもん。おっきいことは良いことだ。

 でもまぁ私が小柄とかスレンダーとしか言われたことない側の人間なので個人的にはエルフのお姉さんよりも女の子の方を応援したい。



「い、いいと思うよ!羽織ってみたら?」

「ええ、よろしいですか?」

「どうぞどうぞー」



 あ、かわいい。

 男の子に薦められて少し照れながらカーディガンに袖を通すお姉さんすごくかわいい。

 『アルドラ』で働きだしてから思うようになったんだけど、服を選んでる時の女の子ってすごいかわいいなって。どう言ったらいいのかわかんないけど、なんかこう、きらきらしてる。


「あ、因みにラブいペアルックとかどうっすかー?」

「いただきますわ!」

「ちょっ、フィーネさん!?」

「店員さんも変なの薦めないでください!」



 だめか。お姉さんはノリノリだったけど女の子の方に却下された。いや、だめだろうとは思ったけどなんか言わなきゃいけない気がしたんだ。

 それにしても男の子もモテモテだな。お姉さんの方からはどストレートに、女の子の方からもちょっとわかりにくいけど好き好きオーラが出てる。後お店に来てからずっと男の子と手を繋いだままの十歳くらいの小さい子からもそうだ。

 真っ赤になってむせてるけど一体君の本命は誰なんですかね。



「君はお洋服そんなに好きじゃない?」



 と、まぁ私の感想は置いておいて。

 既にお店に飽きてきているちっちゃい犬耳の小さい子の方へ向き直る。



「だって服じゃお腹はおっきくならないもん」

「ちょっとマーノ!ごめんなさい、この子まだそういうのわかってなくて」

「いえいえー。ちっちゃい子は素直なのが一番ですよー」



 そっかー。服よりもご飯の方がいいかー。

 さっきもシンちゃんのお弁当屋さん行きたいって言ってたもんね。あそこのから揚げ弁当おいしいもんなぁ。


 それにしてもこの世界は本当に人種がグローバルだな。

 この四人組にしたって男の子と女の子は私と同じ人間だけど、お姉さんはエルフ特有のとんがり耳だし。マーノちゃんっていうこの小さい子にしたって獣人っていう動物と人、両方の特徴を持った人種だし。

 多分今ならドラゴンが話かけてきても驚かない自信がある。うそ、流石にビビる。



「マーノ子供じゃないよ!」

「おっと、ごめんねー。じゃあお姉さんだし、もうちょっとだけあっちのお兄さん達の事待っててあげてくれるかなー?」

「しょうがないなぁ。マーノお姉さんだから待てるよ!」



 残念だけどマーノちゃんにはもうちょっと大きくなったらお客さんになってもらおう。

 早い子は早いけどおしゃれよりお菓子とか遊びの方が好きな子だっているもんね。私だってちっちゃい頃は近所の男の子と走り回る方が多かったし。



「そっちのお姉さんも試着してみてくださいね」

「え、いや。あたしはいいわ。こんなかわいいのとか似合わないし」

「そう、ですか……」



 さっきエルフのお姉さんが持ってたスカートが気になってたみたいだからどうかと思ったんだけどな。

 無理に薦めても嫌な思いにさせちゃうしこういう所の加減が難しいんだよなぁ。店長ならうまい事この女の子も気に入ってくれる服見立てられるんだろうけどさ。店員三ヶ月の私ちゃんじゃ流石にそこまでスキルが追い付いてない。


 結局エルフのお姉さんにワンピースとカーディガンをお買い上げしてもらい、その四人組はお店を出ていった。お姉さんはラブいペアルックを諦めてなかったみたいだけど。

 途中で男の子が女の子の方を何か言いたそうに見てたけど、結局お店にいる間は特に何か話をする事もなかった。

 素直になれない女の子と人気者の男の子の甘酸っぱい恋模様とか少女漫画かな?



「ああいう時は雑貨コーナー薦めなさい」

「あ、店長」



 奥の作業場で針仕事をしていた店長が出てきたってことはもう私の休憩時間か。

 『アルドラ』の店員は店長と私しかいないから、そういうとこわかりやすくていい。店長曰く、私が来てから昼間に纏まった時間が取れるようになったから服を作る効率も上がったらしい。よくよく考えたらデザインから縫うのまでやってて、お店も一人で回してたとかすげぇな。

 一先ず店長に言われたことを心のメモにしっかり書き写して、買われ損ねたラブいペアルックを片付ける。残念だったな、君。今度は何とかして売ってやるからな。



「興味はあるしかわいいとは思うけど自分が着ても似合わないって思う子もいるのよ」

「そういうもんなんです?ここに来る人皆かわいいし、あの子も似合うとおもうんだけどなぁ」



 この世界の住人って基本的に顔面偏差値が高いのでどんな服でも似合いそうなんだよな。

 というか顔に自信がないとこの前見た貴族の女の子の着てたフリッフリのドレスとか、ギルドのある通りの方へ行くとよく見るムキムキのお兄さんお姉さん達の半裸に近い装備とかきこなせないと思う。



「アンタわかってるじゃない。そうよ、女の子は皆可愛いの」



 この人は。

 いつもしかめっ面だしムキムキだし初めてお店に来る女の子に怖がられてたりするけど、自分の仕事に関係することだとすごく優しい顔で笑う。

 自分でデザインした服を作ってる時とか、お店の商品を整理している時とか。今みたいなすごく楽しそうでちょっとだけ得意気な顔をしていることが多い。

 そういう時の店長はお店に来た女の子達みたいにキラキラしてるし、女の子達と一緒になってキャーキャー言ってて。なんていうか、私とはパワーが違う。



「綺麗な服を着て笑ってる女の子はね、皆強くてかっこよくて素敵なの」

「強くて、かっこいい……。それって無敵じゃん」

「ええ。無敵よ、無敵」



 好きな服着て思いっきりおしゃれしてる時とかって、すごく楽しいし私ちゃん最強じゃね?って思うもん。店長の言う素敵って、そういう気持ちの時の事だと思う。

 綺麗な服を着て笑ってる女の子が無敵なら、店長は女の子を無敵にしてあげられる服を作りたいんだろうな。

 なんか、そういうのっていいな。ちょっとわくわくしてきた。店長の考える素敵で無敵な服ってどんなだろう。きっと一人一人違って、その子が一番きらきらして見える服なんだろうな。



「休憩入っていいわよ」

「はーい」



 店長がレジカウンターにスケッチブックを広げて言った。多分さっきの四人から何かいいアイデアでも浮かんだんだと思う。後で新しいデザイン画が出来たら見せてもらおう。

 お店に来る女の子達みたいにきらきらしてたり、素敵に無敵だったりはないかもしれないけれど、私ちゃんだって綺麗なものや素敵なものは大好物なのだ。そういうものに触れるもの好きだし、そういう人を眺めるのだって大好きだ!


 だからそういう意味では、これはこれでよかったのかなぁ。なんて、思ったりして。

 まぁ、帰れるなら帰りたいけどね。友達とも会いたいし、続きの気になる月9のドラマだってあるし。

 うそ。やっぱ今の待って。やばい事思い出した。こっちに来る前に出された物理の課題やってない。提出期限とかとっくに過ぎてるしこれめちゃくちゃ怒られるやつじゃね?まずもって帰れるかどうか怪しいけど。


 一応課題はこっちの世界に来た時に持ってた鞄の中にある。

 まず第一に公式が異国の言葉にしか聞こえない。いや、異国で言葉は通じてるからそれ以外の何かになってるんだけど。これってやっておいた方がいい感じ?できれば遠慮しておきたいんだけど、帰った時怒られるのも嫌だなー。


 仕方ない、かくなる上は助っ人だ。

 そうと決まればお店の二階にある居住スペースから鞄ごと課題を引っ提げて、実はこっそり私と同じ境遇だった例のお弁当屋さんの所に行こう。

 店長に行先だけ伝えたら初めてこの世界に来た時と同じように通りを抜けてこの街の中心にある広場へと向かう。

 目的は勿論。シンちゃんのお弁当を食べながらフラミンゴみたいな名前の公式を教えてもらうため!



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