終
杉山の一件以来、毎日のように武田の霊はホームに現れ飛び込み続けた。
これまでは一ヵ月に一度程度だったのに、何故ここに来てこんなペースで現れ始めたのか。それに、どうして杉山の彼女は飛び込んだのか。
優香。
杉山が轢いたのは付き合っていた彼女だったそうだ。だから名前を知っていたのだ。
あの日、彼女は仕事中にも関わらず急に職場を飛び出し、そしてそのまま電車に飛び込んだのだ。
一体何が起きている。
武田は何をしようとしている。
一つ考えられる事があるとするなら、これは逆恨みだ。
あまりに身勝手な武田の怨念の所業というふざけた解釈だ。
――くだらん。
だから何だ。死人のせいだとして、認めるわけにはいかない。
“無視、したからだ”
当然だ。死んでいるのだから関係ない。
“認めないから、こうなったんじゃないんですか?”
認める事何一つない。ふざけるな。
今まで無視してきた。何も起きてこなかった。
私は認めない。悪いのはお前だ。お前の失敗だ。
武田はもういつものホーム以外の場所にまで現れはじめている。
ホームに入る度に武田の飛び込んだ顔を見ている。あの時と同じ、血走った怨念のつまった眼で。
次のホームでも。
次のホームでも。
武田は飛び込み続ける。
無視するなと言わんばかりに。認めろと言わんばかりに。
親友を助けなかった事を悔いろと言わんばかりに。
――お前は死んだ。お前はもういないんだ。
認めない。絶対に認めない。
お前の何もかもを、私は認めない。
「全部! お前が悪いんだろうが!」
ガゴン。
――……は?
ぎいいいいいいいいいいいいい。
ホームに電車が止まる。
窓に張り付いた血痕。それは、人間を轢いた紛れもない証拠だった。
――おい。何だよこれ。
悲鳴。怒号。
あの日と同じ。
武田を轢いたあの日と同じだ。
葬式には出た。会社の名目もあって、出ないわけにはいかなかった。だが一切見送る気持ちはなかった。墓参りなどもちろん一度も行かなかった。
だからか。
だからなのか?
一度もあれからお前を認めなかったから。
死んでなおも訴えるお前を無視し続けたから。
お前はずっと、怨念を育て続けてきたのか。
私が無視できないように。
認めざるを得ない事が可能になるほど、怨念を溜めて。
――ふざ、けるな。
そんな事の為に、関係ない杉山の彼女まで殺したのか?
認めない。それでも、私は……。
「うあ、うああああ」
杉山はだまされた。
武田が飛び込んできたと思ったら、実際は彼女の優香さんだった。
そして、今私も同じく。
飛び込んできたのは武田ではなかった。
一瞬、ぶつかる寸前に、本当に飛び込んできたものの姿が見えた。
「真紀……真里……」
こんな事が、あっていいわけがない。
認めるわけにはいかない。
あまりにも、こんなのあまりにも……。
「うああああああああああああああああああああああああああああ!」
しかし、感情は抑えられなかった。
吹き飛ばされ、地面に散らばったのが、自分の妻と娘なのだから。