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10 徳田一弥の日記(抜粋)



  ◆徳田一弥の日記


  3月24日 火曜日

 国民一世帯に三個のマスクが配布される件、テレビのニュースでボロクソに叩かれていた。やはり評判が悪いと感じたのだろうか? 低所得者層に対して戸別に二十万円が支給される事が決まったらしい。

 しかしその二十万円を受け取って何に使えと言うのだろう? 先週テレビのニュースでもやっていたが、スーパーなどでの買い占めが大騒ぎになっており、三連休が終わった今、完全な品不足で店はガラガラだ。

 電気代やガス代、携帯利用料の引き落としのため銀行口座に入れておく方法もあるけど、電気やガスがいつまで供給されるか分からなくなって来た今、あまり有り難くもないな。


 今日から俺も自宅待機、会社は無期限の休業に入った。顧客に対する売掛け金回収などの業務も停止し、リースした重機も回収を保留する、名実ともに凍結状態に入った。

 今月末の給料支払いは前倒しされ、ある程度まとまったお金も振り込まれた。退職金はまるまる出せないが雇い止め宣言もしていないから、大目に見てねと言う事なのだろう。まあ、いずれにしても大金を持っていても使い道が無くなるだろうから、それほどお金には固執していない。貨幣経済の終わりを感じているから、そのうち紙幣はただの紙切れに変わるだろうし、電子データは電力がストップした瞬間に消える。


 電気が止まるのは困る、親父たちと連絡が取れなくなるのは辛い。いずれは原始的生活を強いられる時が来るのだろうが……

 ホームセンターで大量のマグネシウムランタンとガーデニング用ソーラーランプを買っておいて良かった。これらが壊れるまでは、十年でも二十年でも闇夜に怯える事は無いだろう。



  3月27日 金曜日

 自衛隊に治安維持出動の命令が出て二日が経った。

 テレビはどのチャンネルでも、連日朝から晩までゾンビウィルス特集を放送しており飽き飽きしているのだが、普段から政府が大嫌いで事あるごとに反対を繰り返していたコメンテーターのオッサンが、何で自衛隊は早く助けてくれないんだと涙目になってたのにはちょっと笑った。


 まだ長野は静かで、俺の住む街はもっと静かだ。

 地方のニュースで長野市長がとにかく家に閉じこもっていろと口酸っぱく言ってたのと、全国ニュースで当たり前のようにゾンビの群れが群衆を襲ったり射殺される映像が影響しているのか、昼間もほとんど街に人影が無い。車やバイクの音もしない。静かなのか死んでるのかさっぱり分からない。


 だけど昨晩、俺は聞いた。深夜に徘徊する唸り声を聞いた。

 慌てて電気を消して窓を開け、何処からその唸り声が聞こえて来たのか耳を澄ますと、団地の下の方から聞こえて来た。

 家は長野市を北側から見渡す丘の斜面にある。家の下には団地があり、窓を開けた時に何戸かの家には電気が点いていた事から、唸り声に恐怖を覚えながらもまだ生きてる人々がいる事にちょっとだけ心が休まった。



  4月1日 水曜日

 エイプリルフールネタではない。今日二つのテレビ局が放送を終了した。放送局職員が集まらない事と、安全の確保が難しいらしい。

 もともと二つともバラエティ専門のチャンネルだったから、痛くもかゆくも無いのだが、いつかは笑いが貴重になる時期も来るのかも知れない。

 国営放送は相変わらず朝から晩までゾンビ特集を放送し、縮小された画面の外では様々なニュース速報が右から左に流れて行く。

 正直なところ朗報は一つも無い。自衛隊の治安維持は出遅れがたたって大都市は全てゾンビ天国。ウィルスは老若男女や貧富の差など関係無く近付く者全てに平等に感染し、大臣クラスの政治家も何名か死亡の速報が入って来ている。 いよいよ終わりか


 国営放送以外のニ局は放送するのが精一杯の状態で、懐かしの昭和歌謡や二時間ドラマを延々と再放送しながら、字幕テロップでニュース速報を流すだけ。CMもいつの間にか、全てが政府広報に変わっていた。


 佳美とは毎日連絡を取っている。と言うか、一方的に画像付きでガンガンメールを送って来る。

 最近、近所に同世代の女性がいる事が分かり、友達になったそうだ。知り合い同士力を合わせて乗り越えて欲しいと心から願う



  4月6日 月曜日

 いよいよ電気が止まった。昨日の夜いきなりプツンと終わった。

 二階の窓から長野市を見下ろすと、まだ市街地は電気が点いていたので停電かなとも思う。だからと言って復旧するとは思っていない、今、復旧工事が出来る者たちなどいないだろう。

 停電に腹を立ててもしょうがない、電気に気持ちが固執するとたちまち心が病みそうだから。キャンプ生活を楽しむと思えば良い。



  4月8日 水曜日

 今、夜の十時だが、ランプの灯りでこれを書いている。真夜中なのに空が燃えている、真っ赤に輝いているんだ。

 長野市の中心部で大規模な火災が起きていて、大きな火柱が何本も上がり市街地を焼き払っている。とうとう静かな街にも混乱がやって来たのだ。


 人為的な失火なのかゾンビによる混乱なのかは分からないが、あの炎の中にたくさんの人々がいると思うと胸が痛い。不注意な失火は気を付けよう……そう自分に言い聞かせる。



  4月11日 土曜日

 ひ ま だ

 だ れ か と は な し た い

 (以下、判別不明の書き殴り)



  4月16日 木曜日

 以前、外回りの仕事でとある現場に行った時。その現場の工事主任と話していた事を思い出した。

 「ヒビの入ったコンクリートの寿命は短い。あっという間にボロボロになる」と言う話を聞いた。


 原因は水、ヒビに入った水が冬の氷点下にさらされると凍結し、膨張してコンクリートを壊すのだそうだ。『凍結融解』と呼ぶそうだ。


 これだ! 理科の授業だったかで聞いたが、水の体積は温度で変化する。常温が1とすると、氷点下の凍結時では1・1に体積が増えると言うあれだ。


 これがゾンビ問題を解決する!


 人間の身体のほとんどは水分で出来ている。そしてゾンビは体温が無いから気温イコールゾンビの体温だ。

 これが氷点下続く長野の厳しい冬にさらされると、ゾンビの体細胞一つ一つが凍結して体積が膨張する。

 体積が増えて細胞壁が破壊されれば、解凍を失敗した冷凍肉のようにグダグダになる。


 だから来年の春! 来年の春まで我慢すれば良いんだ!



  4月20日 月曜日

 さ み し い

 ち か く に だ れ か い な い の か

 ゾ ン ビ の う な り ご え ば か り き こ え て あ た ま が お か し く な る !



 次回 最終回



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