表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クレイジー・ラブ

作者: 笹ノ葉 ツツム


 ひどい怪我か、ひどい病気か、死にかけた男が病院のベッドの上に横たわっている。

 そしてその傍らには、かつて男がとても愛した女がイスに座っている。

 2人はずいぶん前に他人になり、それから会うのは初めてだった。

 男は聞いた。 

 「幸せかい?」

 女は少し考えて「ええ」 と答えた。

 「きみの愛する人の顔を見せてくれ」

 女は少し考えて、バッグの中から写真を一枚取り出すと男に見せた。

 「よかった。ハンサムだね。やさしくしてくれるかい?」

 女は考えてから「とても」 と答えた。

 写真には、女に寄り添い微笑む男、そしてその間に男の子が写っている。

 「この子もハンサムだね。やさしくしてくれるかい?」

 女は笑って「とてもとても」 と答えると、楽しそうに愛する息子の話をした。

 「7歳になるわ。去年のわたしの誕生日には花をくれたの」

 女の幸せそうな笑顔は、男がかつて愛したそれだった。その顔を見ることが出来て男も嬉しそうに微笑んだ。

 女が愛する人達のところへ帰る時間になると、男は女に最後にひとつだけお願い事をした。

 「死んだら猫に生まれ変わろうと思う。そしたら、きみの側にいさせてくれるかい?」

 女は答えた。

 「いいわ」

 

 やがて女は、風のうわさで男が死んだことを聞いた。

 ある日、息子が痩せこけた汚い子猫を拾ってきた。

 女は猫に

 あたたかいシャワーをあたえ、

 たっぷりの食事をあたえ、

 すこやかな寝床をあたえ、

 かつて男と暮らしていたときに芽ばえかけて消えてしまった小さないのちに付けた名前をあたえ、

 そして女のひざの上で喉を鳴らし眠るときは、女は男が好きだった歌をやさしく歌った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ