ナイト7「負ける気なんてねぇよ」
騎士だからといって、持っている武器が必ず剣というわけではないようだ。
その証拠に、女子生徒は剣身が針のように鋭いレイピアで、メガネの男子生徒は小さな短銃、そして背の低い男子生徒は手に手袋のようなものをつけていた。
春時達のほうは、雪が刀、クロは手持ち剣、そして春時が素手、である。
≪・・・やべぇな・・・これ、どうみても不利だよ・・・≫
春時は冷静にそう思っていたが、負ける気など、一切なかった。
「ジェン!二人で攻めるわよ!あなたは男のほうを!」
「了解!」
早速、女子生徒の掛け声と共に二人が動く。
「あなた、サムライでしょ?言葉が桜語だし、少しはできるんでしょうね?」
「・・・笑止、なめてかかると、痛いわよ?」
次の瞬間、雪が走ってくる女子生徒に向かって動いた。
「くっ!!」
女子生徒がレイピアをたてに持った。
次の瞬間、見えない太刀筋が、女子生徒を横切る。
そしてレイピアが宙を舞った。
「・・・あら〜」
「だからいったでしょ?・・・なめてもらっちゃ」
「おやおや・・・あなたはとても強いようですね」
メガネの男子生徒が指でメガネをあげながら言った。
「剣術を極めたものはその攻撃すら風のごとく速く見えないといわれていますが、同年代でそんな剣術を見につけた人を見たのは初めてです・・・でも、これはチーム戦、一人だけが強くても、意味はないのですよ?」
そう言ってメガネの男子生徒はクロに向かって引き金を引いた。
「何をごちゃごちゃと、無駄よ!私は弾丸だってとらえれるんだから!」
そう言って雪は刀でその弾をはじいた。
「だ!だめだよ!その弾はただの弾じゃないんだ!!」
「え?なに?何か言った?」
クロの叫び声に驚く雪、だが、次の瞬間、刀が凍っていた。
「極冷弾、触ったものを凍らせる弾です、もう、刀は使えませんね」
「う、うそ?何これ?」
「さぁて、後は・・・あいつだけね?」
そう言って、女子生徒は不敵な笑みで春時の方を見た。
「いっくぜぇえ!!」
背の低い男子生徒の動きは雪ほどではないがかなり素早かった。
なにより次から次へと殴りかかってくるので春時もよけるので精一杯である。
「うおっ!ぬわっ!ちょっ!あぶねっ!はわっ!」
「なんだぁ〜、所詮一般人だなぁ?だったらかっこつけてしゃしゃり出てくんなよ!」
≪や、やべぇ・・・正直あの時の怪力さえあればこんなやつ一瞬なのに・・・でもなぁ、あの後岩殴ったけど俺のほうが傷ついたし、くそ!なんかねぇか?≫
そう思っていると、ふと、雪がひざをついている姿が見えた。
≪やべ、雪もやられたか?・・・!≫
春時は止まった、なぜなら、クロがあきらめず二人に応戦している所を、見たから。
どう見てもボロボロのクロ、それでも、彼は剣を振りかざし、戦っていた。
自分がいくら傷つこうと、絶対に、倒れることはなかった。
それをあざ笑うかのように、二人は容赦ない攻撃を下す。
雪が耐えかねて、やめてと叫んでいる。
「もういいでしょ!?これ以上やったら!」
「・・・だ、大丈夫だよ心配しなくても・・・まだ、戦える」
「でも!あなたボロボロじゃない!本当に大怪我でもしたら!」
「・・・・多分・・・もう降参した方がいいって、言っているんだろうけど、僕は、見習いとはいえ、騎士なんだ・・・逃げるなんてこと、したくないんだ」
クロの、強い意思が見えた。
≪・・・あいつが逃げたくないって言ってるんだ・・・俺が逃げて、どうすんだよ?≫
「なんだ?あきらめて降参か!」
背の低い男子生徒が、拳を振り上げて殴りかかってきた。
「かかってきやがれええ!!」
春時も拳を振り上げて殴りかかった。
二人の拳が、ぶつかり合った。
「!!!!」
背の低い男子生徒が、違和感を感じていた。
≪な、なんだ?・・・殴れている感じが?しな・・い?≫
次の瞬間、彼は後方へ吹っ飛ばされた、ギャラリーの垣根をゆうに越えて地面に落ちる。
「がはっ!?」
周りが一気に静まり返る。
「う、うそだろ?グローブをつけているジェンに力で勝ちやがった!?」
「つーかどんだけ吹っ飛ばしているんだよ!?ジェン生きているのか!!」
「お、おい・・・こいつ実は闘士か?だとしたらトップクラスのやつだぞ!?」
静かになったかと思えば、今度はギャラリーが騒ぎ始める。
驚きや興奮が抑えれないといった感じで、ギャラリーが熱を上げる。
「やれやれ・・・とんだ隠し玉ですね」
「やっぱり一般人なわけないわよねぇ・・・勝負挑んでくるんだから」
「・・・え?・・・春くん、そんなに強かったの?」
「・・・・・・・・え?」
クロと雪は唖然としていたが、二人はもう動き始めていた。
「スール!私が速さでこいつを惑わしとくから!あんたは銃でしっかりあててよ!」
「もちろん、任せてください」
女子生徒が春時と対峙する。
「闘士の弱点はスピードのなさ!どんなに力持ちでも私を捕らえれなかったら意味ないのよ!」
「へ、戯言並べてねぇで、さっさとこいよ?」
女子生徒はレイピアで突いてくる。
≪どんなに力持ちでも・・・一秒に6回突ける私のスピードについて来られるわけないでしょ?なにせ、スピードだけなら一級生徒に値するからあなたなんかじゃ≫
『ガシッ』
「え?」
春時は二秒でレイピアの動きを見切って、剣先をつかんだ。
「残念、俺は闘士じゃないんでね」
春時はレイピアを片手で粉砕した。
「・・・・えぇええええ!!!!」
女子生徒はパニックに陥る。
「く!闘士じゃないとすれば・・・あなたは何なんでしょうね?」
「さぁな」
「・・・いいでしょう、どっちにしろ・・・お強いことに変わりはありません」
「そうか?お前らが弱すぎるんじゃねぇのか?」
「力と速さであの二人を完封させたんですから、一筋縄じゃあいけませんね」
「・・・・」
「あなたほどの強者なら、多少弾も強いのを」
「お前、だらだら喋っているからこの三人の中で一番弱いだろ?」
春時がそう言うと、メガネの男子生徒の表情が曇った。
「・・・それは間違いだってことを、この弾を受けて解らせてあげますね!」
今度は三回、引き金を引いた。
≪ひとつは炸裂弾、そして極冷弾、さらに灼熱弾です、この三コンボは痛いですよ≫
春時にまっすぐ向かってくる弾丸、だが、春時は何の躊躇もなく、拳で叩き潰す。
≪それは弾ですよ?・・・触れば人体に何の影響もないわけがないでしょう?≫
だが、春時は構わず走り出した。
「な!」
「ほらな、てめぇは自信過剰すぎるんだよ、だから、弱い」
そう言って春時は銃を取り上げて、握りつぶした。
「・・・・で、でたらめだ」
メガネの男子生徒は真っ青な顔をして地面にへたり込む。
「・・・・え?勝ったの?」
クロがあっけに取られた状態から、ようやく我に返る。
雪はまだ驚いているようだ。
「や、やべぇ・・・あいつ何者だよ?」
「く、クロの友達?・・・クロってたしかにいいやつだけど・・・異国人とも仲いいのか?」
ギャラリーが騒がしくなってきた。
「・・・あ、ありがとう春くん・・・えへへ、助けられちゃった」
テレながらそう言うと、いきなりクロは倒れた。
「お、おい!大丈夫か!」
「ご・・・ごめんね、僕がしっかりしてれば・・・」
「・・・おいおい、お前がしっかり戦っていたから、勝てたんだよ・・・自信もてよ、クロちゃんは強い!」
春時は笑いながら、そう言った。すると、クロも笑った。
「さて、医務の先生を呼んでもらうか」
「う、うん、そうだね・・・僕も、限界だし」
「お〜い!先生呼んできたぞ!」
ギャラリーの誰かが呼んできてくれたようだ、白い白衣の女性が寄ってくる。
≪・・・全く、何とか乗り切れたな≫
一安心する春時だった、が、まさかこの後ものすごく気まずいことになるとは、思ってもみなかった。