ナイト6「試合といこうじゃねぇか」
翌朝
昨夜は父さんがパーティーだといわんばかりに騒いだので目覚めがいまいちスッキリしなかった二人。ちなみに店主の名前はシルバーなのだが、父さんと呼べと言われたので春時はそれを受け入れることにしていた。
「ったく、父さんはすげぇ元気なんだな、母さんも大変だろ?」
「まぁ、母さんはなれているでしょ、それにあの人マイペースだし」
お母さんというのは、その言葉通りの人なのだが、やさしい笑みが印象的なおばさんだった。
「さてと・・・クロちゃんは学校なんだよな?」
「うん、セイントスター学園の四級生徒だからね」
「四級?・・・ってことは、昇級試験で上がると三級生徒になるのか?」
朝ごはんのパンを口にくわえながら春時は聞いた。
今起きているのは二人だけだった、父さんはまだ寝ているし母さんは外で洗濯をしている。ミナもまだ寝ていた。
「そうそう、一級生徒は騎士同然の位で、年齢がくれば自動的に騎士になるんだ、二級生徒も年齢がくれば自動的に騎士になるんだけど、一級生徒よりはもちろん位が低い、三級生徒は小さな依頼をこなせるぐらいの見習い騎士、そして四級生徒は少し慣れた見習い騎士で、五級生徒が新人、それで二十歳になるまでこの学園で勉強するんだ」
「ふ〜ん、ま、クロちゃんはまだまだ見習い騎士って事なんだな」
「あはは・・・そういうことですね」
げんなりするクロ、春時は少し笑いながら謝った。
「わりぃわりぃ、で?・・・俺はどこで通訳士をすればいいんだ?」
「あぁ、それなら、学園に来ればいいよ」
「え?・・・なぜ?」
「学園は役所も兼ねているからなんだ、魔物の被害がひどすぎてね、役人の人たちは先生たちに守られながら仕事をするんだ」
「ふ〜ん、大変だな」
「そうだね、でもたいてい役所に用があるときは学園に行けばいいってことで簡単といえば簡単なんだけどね」
「というか、通訳士って役人なのか?」
「うん、外交関係とかは役所の仕事だからね」
「おいおい、俺みたいなやつが役人になれるのかよ?」
「簡単だよ、名前と面接で受かるさ」
≪いや、本当に簡単だなオイ≫
そんなわけで春時はクロと一緒に学園に行く事となった。
徒歩で学園を目指す二人。
服装はクロがいかにも騎士の様なブーツに青い下地に軽そうな防具、そして腰には剣。
マントも羽織ってかっこよく決まっている。だが顔はどうもへらへらとして締りがなかった。
春時は毛糸の白い上着に綿のズボンで至って普通の格好だった。
「一応父さんからの推薦状もあるし、春くんは自信を持って通訳すれば大丈夫だよ」
「そうか、それはよかったぜ・・・お、いよいよ見えてきたな」
春時はそう言って大きな城を見上げた。
塔が確認できるだけで10はありそうだ、だが窓は数え切れないほどある。
玄関というよりその大きな門は洋風の中世の城そのもので、鎖のついたあの橋が川の上にどっしりと横たわっていた。
その門をくぐる生徒の数は正直まばらだ、それより一般人のほうが多いようだ。
「なぁ、もしかしてほとんどの生徒は寮生活のなのか?」
「うん、そうだよ」
門をくぐって中へ入ると、確かに軽装ではあるが見習い騎士の姿がたくさん見えた。
「役所の受付はあっちの棟だから、推薦状はあるね?じゃ!がんばってね!」
「あ、あぁ、クロちゃんもな」
春時とクロはそこで別れることにした。
役所の受付は案外すぐに見つかった。
なにせ一般の人が向かう場所へ行けばよかったのだから簡単だった。
そこで受付をしてもらおうとしたら予想以上に行列していたので春時はのんびり待つことにした。
白い壁によりながら待っていると、一向に列が進まないことに気づいた。
「・・・はぁ〜、いったいどうしたんだよ?」
春時が痺れを切らして前の人に聞いた。
「すみません、なんで列が進まないんですか?」
すると前に並んでいた男性が快く答えてくれた。
「いやぁ〜、どうやら今受付をしている人が異国人でね、言葉が伝わらないようなんだよ」
「東洋人なんですか?」
「さぁ?・・・そういえば君は東洋人か、なるほど、君なら通訳ができそうだね」
「ちょっと前に行ってみますね」
春時はそう言って受付の一番前に向かった。
「す、すみません、今は通訳士もいなくて・・・賢者の先生も魔法使いもいないんです」
受付をしているらしい女性が必死にそう言っていた。
「ねぇ!もう!何言っているのかわっかんないわよ!いいからお父さんを出して!」
やはり春時にとってはどちらも日本語に聞こえるという奇妙な会話がされていた。
そしてやはり言葉の通じない異邦人はサムライの格好をした少女だった。
「あぁもう!誰か言葉の通じる人はいないの!」
「まぁ落ち着けって、俺が通訳するから」
春時がわざわざ仲裁に入っていった。
「あ!も、もしかして言葉のできる方ですか!」
受付の女性がほっと安心した表情になる。
「さて、伝えたい事は?」
「あ!あんた言葉が話せるんだね!全く、一時はどうなるかと思ったわよ」
少女はそう言って伝えたい事をしゃべった。
「私はお父さんに会いたいの、ここの学園の実技教師のシラサギっていうの、そこへ案内してほしいって言って」
春時はそのまま受付の人にそう言った。
「そ、そうなんですか、わかりました、でも・・・別に役所へ来るほどの用ではないですね」
「やっぱりそうですか・・」
それを春時はそのまま言った。
「えぇ!ここ役所なの!?・・・・し、失礼しました」
春時はその言葉も伝えて話はついた。
「て、手間取らせたわね」
「いいさ、どうせこれからもこういった仕事をする予定だからな」
「へぇ、通訳士になるの?まぁ桜後と聖語がわかるもんね」
少女はそう言って役所の棟を出ようとしたが、また戻ってきた。
「どうした?」
「そっちこそなんで止まるのよ?」
「いや、俺はこっちに用があるからだよ」
「・・・女の子一人を言葉も通じない所へほっぽり出すんだ・・・へぇ〜」
「素直に付いてきてほしいって言えばかわいいものを」
「う、うるさいわね!」
どっちにしろ受付にはかなり行列ができてはいたし、少しの人助けなら構わないだろうと春時は思い、ついて行ってあげる事にした。
役所と反対方向にある棟に入った二人はとりあえず教師を探すことにした。
「ところで先生は一体どんな感じなんだ?」
「さぁ?私の所では威厳のある先生ばかりだからわかりやすかったけど、こんな所初めてだからわからないわ」
「俺もだ」
「あら、あなたも桜花国から来たのね、いつごろ来たの?」
「あ、いや、実は俺記憶喪失でさ・・・」
春時は簡単に説明をした、それを少女は黙って聞いていた。
「大変なのね・・・そう、魔物に・・・」
「まぁ本当かどうかはわかんねぇがな」
「・・・そういえば、お名前は?」
「あぁ、水戸春時だ」
「私は燈乃国雪、見習い剣士よ」
「へぇ、剣士か・・・」
春時が感心して頷くと、雪はうれしそうに頬を赤くした。
「お父さんも剣士?」
「そうよ、今回は特別に学園の実技講師を兼ねて新たな人材育成に励むんだから!」
「はぁ〜・・・俺にとっちゃ別次元の話だな」
「そんなことないわよ、ねぇ春時!あなた私たちのような異国人の専属通訳士にならない!?」
≪そんなポジションのジョブがあるんだな・・・≫
「異国人グループの専属サポーターならギャラもいいし、なにより安全よ!四六時中腕の立つ猛者達と一緒なんだから!」
「う〜ん、でもなぁ、俺この街を離れるわけには・・・」
「そ、そっか・・・異国人グループはいつも全国を駆け回るものね・・・ここにいたいなら、仕方ないわね・・・」
「悪いな、でも、せめて雪がここにいる間だけでも、専属通訳士でいてやるよ」
「本当!ありがとう!」
うれしそうに笑う雪を見て、春時も笑顔になった。
「にしても・・・お父さんはどこにいるのかねぇ?」
「う〜ん・・・ばったり会えれば簡単なのに〜」
二人がどうしようもなく歩いていると、中庭のような広場で、人だかりができていた。
「どうしたのよクロ?また負ければ通算20敗よ?」
「だめですよティナ、そんなこと言ったら彼が惨めでしょう?」
「まぁ、どう転んでも惨めだけどな」
春時はそんな台詞を聞いて内心あせる気持ちがした。
≪・・・おいおい、クロってもしかして≫
春時は何も考えず、その人だかりに走り寄っていた。
「は、春時!?」
雪もあわてて追いかけてくる。
春時は生徒をかき分けて中央を見た。そこには、やはりクロの姿があった。
服装はボロボロで、所々こげた跡もある。
それでも剣を握って立っているクロ、だがどう見ても立っているので精一杯なのがわかった。
「ひでぇよな、三対一で勝負なんてよ・・・」
「しかも三人とももうすぐ三級生徒になる実力者だぜ?それに、クロだって一応三級生徒への昇級に一番近い生徒っていっても、相手が三人じゃなぁ・・・」
「噂じゃあ、あの三人、クロに怪我を負わせて昇級させない様にしてるらしいぞ?」
「マジで?・・・まぁ、どうせあのティナがそうさせているんだろ?あいついっつもクロいじめてたし」
そんな会話まで聞いてしまった春時に、黙って見ているなどという選択肢はあるわけがなかった。ゆっくりとクロに近づく春時、それに、クロが気づく。
「は!春くん!だめだよ!危ないから!」
クロが必死にそう叫んでいたが、春時は構わずクロに歩み寄った。
「・・・大丈夫かクロ?」
「だ、大丈夫だから、こ、これは練習試合みたいなものだから」
クロがなんとか笑顔をつくって言う。
「おいおい・・・練習試合で大怪我したらどうするんだ?・・・昇級したいんだろ?」
「わ、わかってるよ・・・わかっているけど・・・さ」
下を向いたクロに、春時は何も言わなかった。
「・・・おい、これが練習試合だっていうなら・・・人数的にそっちが卑怯なんじゃねぇのか?」
春時がゆっくりと三人にそう言った。
だが、涼しい顔で中央にいる女子生徒は言った。
「いいじゃない?クロが別にいいって言ったんだから」
「じゃあ、俺がクロ側に入っても、問題ねぇな」
春時はそう言って、三人を睨んだ。
「いいわよ?・・・怪我してもいいならね?」
「だ、だめだよ!春くん!これは騎士同士の戦いだから!」
「い〜や、黙っていられねぇな・・・友達が傷ついているのを見ているだけなんて・・・俺は、男として戦う・・・理由ならそれで十分だろ?」
春時は口だけ笑って、目は鋭く相手を睨んだまま言った。
「全く、一般人が適うわけないじゃないですか、おとなしく引き下がったほうがいいですよ?」
メガネをかけた見るからにして嫌味な男子生徒がそう言う、だが、春時は一切動じない。
「ったく、めんどくせぇなぁ」
もう一人は背は低いやつだが、運動神経はよさそうな体格だ。
「じゃあ、三対二で、はじめましょうか」
「冗談でしょ?・・・三対三よ」
そう言ったのは、雪だった。
「お、おい、いいのか?」
「あら、相手にも女の子がいるんだから、これでようやく対等よ?」
そう言って雪は刀にてをかけた」
「・・・じゃあ、試合を・・・始めますか」
三人同士が睨みあい、いよいよ、勝負は始まった。
さぁ!いよいよ勝負だ!!
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