ナイト5「クロだってさ」
「クロコダイル・ゼフ・ダミリオン・・・です」
短い金髪で、肌が雪のように白いその少年はそう名乗った。
「い、いや〜、女の子じゃなかったんだ・・・ごめんなさい」
「い、いや、いいさ、まぁ・・・よろしく」
「うん、春時くんかぁ、東洋人なんだね」
「まぁ・・そうだな」
春時はクロコダイルに案内されながら母屋に入っていった。
「父さんしゃべり好きだから大変だったでしょ?」
「いや、そんな事ないさ」
「そっか・・・そういえば魔物に襲われたんでしょう?」
「うん・・・まぁ、記憶はないけどな」
「そ、そっか・・・えっと、その・・・うん・・・ここは、いいところだから、大丈夫だよ」
「あぁ、ありがとな」
かなりおどおどしているが、春時はクロコダイルは良いやつだと思っていた。
しかし、魔物に襲われたわけではないので結構良心は傷ついていた。
≪はぁ〜、にしても・・・住むところはこれで良いが・・・後はどうすっかな?≫
「あ、あのさ!春時くん!」
いきなりクロコダイルが突然声を出した。
「え?どうした?」
「・・・・剣術・・・って、得意?・・・だよね!」
≪いや・・・全然≫
「だって!東洋人だもんね!サムライなんだよね!剣術はサムライが一番だって学校でも教わったし!」
≪おいおい・・・ここではどんな教育がなされているんだよ?≫
「お願い!春時くん!・・・今度昇級試験があるんだ・・・相手は親が一流ハンターで有名なクロアさんっていってさ、槍を使うのがすごく上手なんだ・・・ていうか同年代の子では絶対かなわないような子なんだ・・・それでも・・・それでも僕!騎士を目指しているんだ!絶対に!絶対に騎士にならなくちゃだめなんだ!・・・お願い!力を貸して!」
懇願するクロコダイル、だが、春時が手伝えるようなことはなかった。
「・・・わ、わるい、俺、剣術は知らないんだ・・・」
「あ・・・ごめん、記憶喪失だったよね・・・あ、あはは、僕何言ってるんだか」
「・・・・だが、クロコダイル!・・・お前が、強くなりたいっていう意思は、わかった!」
春時はそう言ってクロコダイルの目を見て言った。
「俺自身は剣術を使えねぇ!だが!剣術の大まかな動きは知っている!・・・ちょっとした手助けにしかなんねぇが、それでもいいか?」
「・・・あ、ありがとうございます!」
二人は堅い握手をした。
「ここは一応在庫置き場なんだけど、最近は戦いが多いからさ、道具も飛ぶように売れてさ、まぁ、あんまり喜ばしいことじゃないけどね」
クロコダイルは悲しそうな目をしてそう言う。
春時は少し気になり質問をした。
「なぁ・・・もしかして、今戦争でもおきているのか?」
「・・・いや、戦争は一応ないんだけど・・・魔物がよく現れるようになったんだよ」
春時はそう言われても納得はできなかった。
そもそも魔物だの悪魔などといわれても、見たことがないのだからそりゃピンとこない。春時は思い切って聞くことにした。
「なぁ・・・その、俺記憶があやふやだからさ・・・魔物って、どんな感じだっけ?」
「・・・え?・・・えっと・・・そうだなぁ、理性のない殺戮兵器、って感じだね」
≪あれ?なんか思ってたのと違う≫
「人型みたいなのから怪物のようなものまで、いろいろあるんだけどその全てに共通するのが人を見境なく襲って破壊行動に走るところなんだ、そして、それを操っているのが・・・悪魔なんだ」
「・・・その悪魔についても、詳しく」
「うん・・・悪魔っていうのは、人でなくなった者の事なんだ・・・魔物を召還して人々が襲われる所を見て喜んでいる・・・時には自ら人々を襲うときもあるんだ、悪魔自身も強くて、人の持っていない特殊能力を持っているんだ・・・彼らに共通することは灰色の服装、時には異国の民族衣装だったり紳士服だったり、後・・・春時くんの今着ている服とも似ている悪魔がいたと思うよ」
そう言われて春時は面食らった。
今自分が着ている服は緑のパーカーにジーンズ、それとよく似たということは、もしかすると自分と同じ、異世界から来た人なのかもしれない。
「・・・でも、悪魔なんだよな?」
「うん・・・はっきり言って、悪魔は最低なやつらだよ」
それはわかっている、春時も店主から話しは聞いたのだ、今更悪魔がもしかすると自分と同じ人間かもしれないとは思っても、だからといって会いたい気などこれっぽっちもない。
「・・・それで?・・・魔物が増えているって事は」
「・・・悪魔が、増えているんだろうね」
クロコダイルは悲しそうに言った。
「そうなのか・・・」
「でも!・・・そんなやつらに対抗するために、騎士見習いである僕らがいるんだ」
クロコダイルは誇らしそうに言った。
「悪魔に対抗しているのは何も騎士だけじゃない、魔法使いも、賢者も、闘士もハンターだって、悪魔や魔物から一般人を守る人々はたくさんいるんだ、そして、僕もその一員になりたい!」
そう言って、軽くはにかんだ。
≪・・・そうか、そういう世界観なんだな・・・≫
「なぁ・・・俺ももしかして・・・その、騎士見習いとかなれるのか?」
春時は興味本気で聞いた、しかし、クロコダイルは少しまずそうな顔をしてつまる。
「・・・・えっと・・・そうだ!春時くんは剣術が使えるんだよね!」
「いや、だから俺自身は使えないんだって」
「うっ・・・えっと、え〜・・・あ!そうだ!聖語も桜語も使えるんだから頭いいのかな!?きっと賢者に!」
「おいおい、俺はさっきまで魔物すら知らなかったんだぞ?記憶喪失者に勉強はちょっとな」
「・・・・ご、ごめん、だとしたら・・・そういった職業には向いてないよ・・・」
「ふ〜ん・・・ま、それもそうか」
春時はそう言って納得した。
≪誰もかれもなれるわけねぇわな、そんな魔物とかと戦うのが、楽なわけねぇもんな≫
「・・・じゃあさ、俺って明日から普通の学校にでも行くのか?」
「え?普通の学校って何?何を学ぶところ?」
「え・・・だから、高校とか中学とかさ」
「なにそれ?」
≪・・・・そうか、ここではそんなものないんだな・・・ってことは学校とかはどちらかというと特別な人間の育成機関ってところか・・・≫
「い、今のはあんまり気にしないでくれ」
「ふ〜ん、いいけど・・・つまり春時くんは明日から仕事がしたいって事だよね?」
「そうそう!そういうことだ」
「だったら通訳士とか翻訳家は?結構重要な仕事だし春時くんなら絶対なれるよ!」
≪ふむ・・・元の世界では英語が10点しか取れなかったが、この世界では俺は言葉が聖語と桜語がわかるみたいだし、まぁできる仕事があるんならそれが一番だな≫
「そうか、じゃあ、早速明日それをやってみるかな」
「・・・記憶喪失なのに働く意欲があるなんて・・・きっと春時くんは真面目な人なんだよ!」
≪うん、どうかな?≫
そう思っていると、先ほどの少女、ミナがドアの前にやってきた。
「・・・・ご飯、だよ、クロちゃん、春くん」
「クロちゃん?」
春時が誰のことなのか一瞬わからず声を上げる。
「わぁああああ!み、ミナちゃん!その呼び名だけは!」
「・・・・だめ?」
今にも泣きそうな顔のミナ。
「うっ!・・・・いや、うん、いいです」
「ぶっ!・・・・はっははははは!!!そうか!クロコダイルのクロちゃんか!いいなそれ!」
「は、春時くん!」
顔を真っ赤にさせてクロは怒った様子を見せた。
「・・・ほら・・・春くんも・・・ご飯」
「なるほど、俺は春くんか、いいなそれ・・・よし、じゃ、いくか」
三人は笑顔で広間へ向かった。
そろそろアクションにはいりたいぜ