ナイト4「けなげな少女だと」
う〜ん、アクションはまだまだかな?
「あの〜、ごめんね、お兄ちゃんお金持ってないから」
春時は少女に優しく説き伏せる、だが少女はキョトンとしているばかりで手は放さない。
「う〜んと、え〜だから・・・」
「・・・聖語話せる・・・それに・・・東洋人・・・桜語話せる・・・でしょ?」
「セイゴ?オウゴ?・・・話せる?・・・東洋人?」
春時はそこでようやく少女の言いたい事がわかった気がした。
「つまり・・・お兄ちゃんが東洋人だから、桜語がわかると?」
「・・・うん」
少女はパッと笑顔を咲かせて頷いた。
≪う〜ん・・・どうかな〜?・・・でも、オレと同じ東洋人っていうのは気になるな・・≫
春時は考えているが、少女はかまわず店に春時を連れて入った。
店内は結構広い、そして甲冑や槍、そして剣と盾が所狭しと置かれている。
どれも手入れは行き届いているのか輝いて見える。
そんな品物だらけの場所の入って右奥に、店主らしき男性と着物の着た男が話し合っていた。
レジ越しに話し合う二人、だが、どうも会話があっていないようだ。
「すまんが何を言っているのかわからん、買いたいものがあるのか?」
「オレは道を尋ねているのだ、道だ道、セイントスター学園への道を教えてくれ」
見事に合っていない会話、だが春時にはどちらも日本語に聞こえる。
≪おいおい・・・なんちゅう会話をしてるんだよ・・・≫
「・・・お父さん・・・言葉のわかる人・・・見つけた」
少女が店主の男性にそう言った、すると、立派な髭がトレードマークの銀髪の店主が春時を見た。
「おぉ!さすがだミナ!これで会話ができる!」
店主の男性は春時にむかって手招きをする。
「すまんな、ちょっと通訳を頼む」
「え、あぁ、はい」
春時は呼ばれるがままに店主と着物の男に近寄った。
「で、このお客さんの言っている事なんだが」
「言葉の通じる者か?道を尋ねていると言ってくれ」
二人が一度に喋ってくるが、春時の耳にはどちらも日本語に聞こえるので特に問題はない。
「えっと・・・道を尋ねていますね、この人」
「道か、いや、こりゃ早とちりしたな、で?どこへ向かうと?」
「・・・どこへ行くんですか?」
春時は着物を着た男の目を見て聞いた。
「うむ、セイントスター学園、あの騎士育成ではトップの学校だ」
「・・・セイントスター学園だそうです」
春時は半ば馬鹿馬鹿しくも店主にそう言った。
「セイントスター学園か!さてはこのサムライさんは新任の先生かい?」
店主がそう聞くので、春時も同じ台詞を着物の男に言った。
「うむ、そうだ」
「・・・そうですって」
「おぉ!これはこれは、先生を足止めしちまったな、いや、本当にすまなかったな」
「えっと・・・足止めして申し訳ない、と」
「いえ、急ぎではなかったので大丈夫だ」
「・・・大丈夫だから心配には及びません、と」
「そうですか、じゃあ、ちょっと地図を描きますから」
そう言って店主は地図を書き始めた。
そして地図を手渡し、話はついた。
「かたじけない、そなたも、手助けありがとう、では」
着物の男はそう言って頭を下げて店を出て行った。
「・・・ありがとう、だそうです」
「そうか、いや〜、助かったよ兄ちゃん、まさか異国語で話しかけられるとは思わなかったからさ〜」
「はぁ、そうですか」
「・・・そういや、見ない顔だね?もしかして旅人?」
「・・・いや、そういうわけじゃないんですけど・・・」
≪う〜ん、ここで異世界から来たなんて言っても信じてもらえないしなぁ・・・≫
春時が困っている顔をしているが、かまわず店主は話を続ける。
「でも東洋人だろ?桜語もわかるみたいだし間違いないよな?でも聖語もわかるんだよな?・・・魔法使い?じゃあないわな、魔力がないようだし、ってことは勉強したのか?この二ヶ国語をマスターするなんて、兄ちゃんもしかして賢者?」
よく喋る店主に圧倒される春時、どうやら言い訳を考える暇もないようだ。
「で?結局何者だい?」
「・・・えっと・・・信じてもらえるといいんですけど・・・」
春時は記憶喪失のフリをする事にした。
「気がついたら・・・なんか森にいて・・・そこで運良く人と会って、まぁこの街まで来たんですけど、途方に暮れていたら、その子に・・・」
春時はそう言ってミナと呼ばれていたあの少女に目を向けた。
「・・・あんた・・・さては魔物に襲われたのか!」
店主は先程とは違う表情で春時を見ていた。
「え?えっと・・・そうなのかな?魔物一回も見てませんが・・・」
「いや!間違いねぇ、あんた魔物にやられたんだよ、それで記憶が・・・ハァ、かわいそうに・・・不憫だよ」
「いや、はぁ、ありがとうございます」
「・・・実はよ・・・ミナの、両親も・・・魔物にやられたんだよ」
「・・・え?」
「・・・・悪魔のペットだったそうだ、ミナは一年前、家族をその悪魔に襲われたのさ、お父さんが一流の騎士だったからな・・・悪魔共からも恐れられていた騎士だったんだ、オレも、あいつの為に、よく剣を打ったものさ・・・だが、あの夜、悲劇は突然起きた・・・悪魔共がミナを人質に、ミナの両親を脅したんだ・・・だが、ミナの父さんも一流の騎士だ、悪魔と戦う術は心得ている・・・それで、自分の命を身代わりに、ミナを取り返し、見事助けた、だが・・・翌朝、倒された魔物の死体と、父親と母親、そして姉の死体の中で、ミナだけが泣いていた」
春時は頭の中が真っ白になっていく感じを、リアルに体感していた。
何も考えれない状態、だけど、その惨劇だけは、頭の中で映像となった。
「・・・こいつは、俺が引き取る事にした・・・もちろん、今のように話せるようになったのはホンの3ヶ月ほど前からだ・・・それまでは、本当に一部の人にしか、言葉を交わさなかった・・・そんな、こいつが・・・見ず知らずのあんたに声をかけたんだ・・・あんたを、信用している部分があるからか、それとも、同じ感じを受けたのか、それはわからないが・・・これも何かの偶然だ・・・行く所がないのなら、ここにいるといい」
店主の男は、優しい笑みでそう言った。
「・・・あ、ありがとう・・・ございます」
春時は、なぜか涙を流していた。
悲しみの分、ミナの辛い過去を聞いて、悲しんだのか。
心配の分、全くの異世界で、元の世界に帰れるのかどうかもわからない、不安からなのか。
安心の分、快く、受け入れてくれた、ミナと店主の気持ちが、嬉しいからか。
どれかは、わからないが、その涙は、暖かかった。
「ちょ!・・・父さん!?なに女の子泣かしてるの!?」
ふと、そんな声がしたと思ったら、かわいい顔をした少年がいつの間にか現れて、春時を見ていた。
≪・・・って、は?≫
初めて女の子に間違えられた瞬間だった。
そういやもうすぐ一年も終わるな、あと何時間だろ?
見事にどうでもいいことを口走っている作者でした。