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ナイト10「オレの大切なものはなぁ」

 学園長室を出て、春時は唐突に言葉を発した。


「・・・悪い、一人になっていいか?」


あっさりとした物言いだが、顔を見せてくれない春時の後姿を見て、二人は何も言えなかった。


「・・・静かな場所なら、ここの廊下を左に進んで、三番目に見えた階段を上がって行くと屋内菜園につながっているから・・・そこが静かよ」

ミーファは静かにそう言って、右に廊下を進んで行った。

「・・・はる・・・・」

雪は小さな声で春時を呼ぼうとしたが、春時が黙って左に進んで行ったので、言いそびれてしまった。そして、雪も渋々ミーファの後を追った。



春時は無言でミーファの言われたとおりの道を進んでいた。階段への道のりはたいしてなかったものの、階段の段差の数は多かった。一段一段を確かに踏みしめて、春時は大きな扉の前まで来た。そして、数秒のためらいの後、勢い良く扉を開けた。


最初に目に飛び込んで来た映像は、少女の後姿だった。

その後姿は、確か見覚えのあるものだった。

「・・・・シェナ」


「え?」


振り返った少女は、やはり、シェナだった。

黒髪は相変わらず艶やかで、少女の瞳は透き通った黒。黒が目立つ色彩なのに、彼女自身からは光の色がもれている気がした。

春時はじっとシェナを見つめていた。

「あ、あ!その!な、なんでここに?っじゃなくて!すみませんでした!」

シェナが何か口走っているが、春時には聞こえていないようだ。

「その!・・・命の恩人なのに、その人を信じる事もしないで、それなのに・・・・平然と、帰る場所があなたにもあるなんて・・・無神経にも言っちゃって・・・ほ、本当にごめんなさい!!」

春時は慌しく動くシェナを見て、数秒後にようやく我に返った。

≪・・・見惚れてた・・・のかな?≫

「わ、私最低ですよね。いや、ドジとかは良く踏むんですけど、人を傷つける事までするなんて、弁解の余地も言い訳もありません!どうぞ私を殴るなり蹴るなりしてください!」

「・・・いや、とりあえず落ち着こうか」

春時は滑稽な動きをするシェナを見て、笑いそうになるのを堪えた。

「・・・ここ、よく来るの?」

「え?・・・いえ、たまにしか来ません・・・」

「ふ〜ん・・・つまり、落ち込んでいる時、良く来るわけか」

「うっ・・・・何でわかるんですか?」

シェナが気まずそうな表情で言うと、春時があっさりと返した。


「俺も今・・・落ち込んでいるからだよ」


天井と前方がガラス張りの屋内菜園。今日は太陽が強いのか日差しは暑かった。

名前は知らないが大きな葉をつけた植物やらきれいな花を咲かせている植物やら、見たことのあるものも無いものも混ざってはいるが、自分の元いた世界と特に変わらないのだな、と、春時は思いながら、結構広い菜園を歩き始める。そして、同時に話を始めた。

「俺・・・帰れないんだってさ・・・元の世界に」

「・・・・そ、そうなんですか?」

「そもそもここへどうやって来たのかすらはっきりとしていないもんな、帰れるわけ無いか」

「・・・・・・・寂しい・・・ですか?」

シェナが緊張しながら、後ろから聞いてくる。

「・・・だろうな」

春時は素直に答えた。

「・・・向こうにはさ、弟もいたし、父さんも母さんも、友達だっていた・・・あと・・・」

「・・・・春時くん・・・・」

「・・・この世界には・・・絶対にいない・・・そんな奴らを・・・いっぱい向こうに残してきたんだよ」

春時は絶対に振り返らなかった。シェナはそんな様子の春時を、見ることしかできなかった。

「・・・は、はる・・・ときくん・・」

春時の心情に同化され、シェナは涙が出てきた。

「・・・俺さぁ・・・一番手放しちゃあいけないもん・・・向こうにおいてきちまった」

「・・・もう、いいよ・・・」

「・・・そいつとはさ、毎日顔あわせてよ・・・あわない日なんてなかった」

「・・・もう・・・いいから」

「もう・・・何年も一緒にいるからよ・・・俺にとっては・・・大切な存在なんだよ」

「・・・・春時くん・・・」

「あいつがいなきゃ!オレはどうにかなっちまいそうなんだよ!!」


「私が!・・・私がその代わりになるから!!」


シェナが、力一杯そう叫んだ。春時は驚いて振り返る。

そしたら・・・涙をボロボロ流したシェナが立っていた。

「私が!春時くんの大切な存在になるから!!春時君の寂しさを埋めてあげるから!!」

「・・・いや・・・シェナじゃあ・・・・代わりはちょっと」

「確かに!・・・すぐに・・・春時くんの大切なものには成れないと思うけど!がんばるから!絶対!絶対に成れるようにがんばるから!!」

「・・・いや・・その・・・あの〜」

春時は真剣な表情のシェナに対して・・・物凄い罪悪感を感じていた。


≪・・・今更・・・それはパソコンですなんて・・・言えないじゃねぇかよ・・≫


「・・・うん・・・まぁ・・・ありがとう」

「それで!春時くんの大切な人ってどんな人なんですか!」

≪い、いや・・人じゃないんですけど≫

「男ですか!女ですか!」

もはや語尾が強い調子に慣れてしまったシェナ、そして春時は更に慌てる。

「・・・お、落ち着いて聞いてくれシェナ」

「はい!男だったとしても私がんばります!!」

「・・・この世界でも・・・オレは元の世界と同じものを手に入れたんだよ」

「え!?それはなんですか!」

春時は一息ついてから、ゆっくりと話した。


「・・・父さんも、母さんも・・・妹も・・・そして大切な親友や友達・・・シェナ、お前だって、友達なんだぞ?・・・お前はもう、俺にとっては大切な存在なんだからな」


春時がそう言うと、シェナはやっと、涙を止めたようだ。

「・・・う、うん・・・えっと・・・わかりました」

「よろしい、じゃ・・・みんなの所に帰るか」

「う・・うん・・・あ!でも!」

いきなり声を上げるシェナ、春時は怪訝な顔をして訊いた。

「どうした?」

「春時君の一番大切な人は?毎日会っていたんでしょ?」

「・・・なぁ・・・一応訊くけど・・・・」

「うんうん」

興味心身で聞くシェナ。そして、春時は口を開いた。


「・・・パソコンって・・・この世界にある?」


「・・・・は?」

「な、ないよな・・・あるわけないよな!うん!もういい、気にしないでくれ」

「ありますよ?」

「マジで!!ちょ!本当!?嘘じゃない!?嘘じゃないよね!!!」

「・・・・も、もしかして春時君の一番大切なものって・・・パソコン?」


「・・・・・・・まぁ・・・そうかな」


春時がそう言うと、シェナがなぜか下を向く。

そして、なにやらブツブツと唱えていた。

「・・・えっと・・・シェ〜ナちゃ〜ん?」

「・・・私の」 「はい?」



「私の涙を返してよ!!!ばかぁああああ!!!!!!!」



なぜかシェナの手には杖らしき棒があって、そこから電気のようなバチバチとしたスパークがあって、それが大量に放出されて、春時を菜園ごと包み込んだのだった。




シリアスぶっ壊れ。うん、これが本性。

そしてまさかの魔女娘。初めて書きました。

何はともあれ感想お待ちしてます!!

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