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ゾンビ化症候群  作者: 梶原冬璃
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 令嬢と魔女が廊下でコソコソと会話している。


「え?出会って3日目に告白だなんて魔女ちゃん軽すぎるよ。で、どうなったの?」


令嬢はやや驚きつつも冷静を心がけて魔女に尋ねる。


「……多分、気付かれなかった」

 

魔女は落ち込んだように言った。


「……そっか」

 

 令嬢は魔女に同情するように俯いた。

 ちなみに魔女と令嬢は同い年だ。ここで8人の年齢を明らかにしておく。全員の年齢を初日の時点で記憶してしまった令嬢はさほど考えずにサラサラと言っていく。


「勇助君とナースが20歳。

 私と魔女ちゃんとマドンナとスパイが23歳。

 ドクターさんとオーナーさんが25歳か26歳だったね。

 魔女ちゃん、告白が失敗したのは残念だけど、スパイとは同い年なんだからタメ口でいいと思うけど。まず友達としてもっと仲良くなるところからはじめなくちゃ」


「まぁ、そうだけど……そうだね」


「でしょ。まずはそこから。魔女ちゃんは料理が上手だし可愛いから、すぐ落とせると思うな。スパイがそういうのに鈍感そうなのがあれだけど。……ねぇ、やっぱり、スパイを好きになったのって、一目惚れ?」


「そ、それもあるけど……」


 魔女がわかりやすく頬を紅潮させる。彼女は何か言おうとしたが


「二人とも、お話し中済まないんだけど、リビング集合だってさ」


 と、スパイに割り込まれたために、恋話は打ち切られた。


「はい……じゃなくて、うん! ありがとね。スパイさん」


 魔女は敬語を使わないようにという令嬢からのアドバイスを早速取り入れて、少しはにかみながら返事した。それを受けてスパイは追い越す間際


「敬語じゃないほうがいい。今のでいい。あと、別に俺のこと呼び捨てでいいから」


 とさりげなく言った。魔女はスパイが去った後で再び頬を紅潮させて

「今の話聴こえなかったかな……?」

と令嬢の方を見た。令嬢は少しニヤニヤしながら

「きっと聴こえてないよ」

と囁いた。




ーーリビング


「ゾンビが何故、昼に出現したかを俺なりに考えてみた」


ドクターはそう言って少し間を空けてから


「今、雨降ってるだろ?」


と皆を見回しながら言った。ごく普通の真実のようだったがオーナーだけは反応した。


「雨……?珍しい」

 

ドクターがそれを受けて解説する。


「ここの地域は年間を通して雨が少ない。それはゾンビ化症が流行してからも変わってない。ゾンビがはじめて夜に出現するようになってからというもの、ずっと昼は晴れだったでしょ?……いやまあ、みんながこの家に集まるまで一体どこで生きてたかなんて知らないから雨が降った所もあるかもしれないけど……。でもまあ、少なくともこの地域では今日、はじめて曇り空になった」


「つまり、昼でも薄暗い日はゾンビが現れるって事か?」


 スパイがそう尋ねる。ドクターは「その通り」という感じで深く頷く。


「なるほど。すごいわ、ドクターさん」


 マドンナが感心したように言う。ドクターはそれを聞いて一瞬照れたように顔が崩れかけたが、すぐにそれを悟られまいと真顔に戻る。


「勇助の話によると、ゾンビは目茶苦茶な走り方をしていたらしいが、かなりの速度で追いかけてきたそうだ。だから外出する時は本当に周りに警戒してほしい。また、少しでもゾンビに気付かれそうな気配があったら躊躇わずに殺していいと思う」


 ドクターがそう言うと、他のメンバーは不安げに俯いたり顔を引きつらせて笑ったりと様々な反応を見せた。ドクターはそれを見てから意を決したように言う。


「で、俺、明日、夜に外出てみようと思うんだ」


「……っ!?」


 全員が面食らったようにドクターのほうを向いた。まず勇助が発言する。


「危険ですよ、やめたほうが良いですって。昼、ゾンビに会いましたけど、結構やばかったですし……」


「そうよ。危ないわ。」


 マドンナが勇助に同調した。ドクターはそれらの反対意見に負けないように強く述べる。


「ゾンビがどういう行動をしているのか、俺らはもっと知るべきだ。今、毎日、世界中の誰かがゾンビ化症生き残り対象者から除外されている。いずれ人間を捕食するゾンビも人間がいなくなって自滅するかもしれないし、その前に飢えたゾンビに人が食べ尽くされるかもしれない。どちらにせよ近い将来、人類は一人残らず滅亡するだろう」


 シリアスな雰囲気に押さえられるように、7人は黙りこくった。部屋にドクターの声だけが響く。


「俺はできるだけ早くゾンビ化症の新薬を開発しようと思っている。ただそれが人類滅亡までに間に合うかは分からない。だからその前にゾンビを殺して全滅させるという選択肢もなくはない。どちらに転がるとしてもゾンビを研究しておく事が大事だと思う。最悪の事態は避けたいからな」


 ドクターはスラスラとそれを述べた。こういう時の彼の目はいつにも増して生き生きとしている。彼が情熱を込めて語るものだから他のメンバーは反論しづらく感じバラバラと小さく頷いた。

オーナーがドクターの同行を申し出た。夜間に外出する時は2人以上でなければならないというルールがあるため、ドクターはそれをすぐに承諾した。すると


「じゃあ私も行きます!」

 と、ずっと黙っていた魔女が発言した。

 ドクターは険しい顔をする。


「同行は一人で十分だよ。それに魔女は女の子だ。危険過ぎる」


「私が女の子だからぁ? それを多分、差別っていうんですよ!」


「え、いや別にそういうつもりじゃ……」


ドクターは魔女の珍しく強気な態度にやや押された。魔女はキリッと顔を引き締めて続ける。


「私は魔女。自分の事は自分で守れます。それにテレパシーが使えるから万が一の時は家にいる人に助けを呼ぶ事だってできますからきっと役に立ちます。私はもう、ゾンビによって誰かが死ぬのは嫌なんです。守れるものなら守りたいんです」


 ドクターは魔女の意思の固い言葉に対して言い返す事ができず、渋々、承諾した。

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