表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビ化症候群  作者: 梶原冬璃
21/24

勇助とナース

 翌日の朝、今日は魔女とナースとマドンナが朝食の準備をしている。昨夜寝るのがいつもより遅くなったせいで令嬢は起きれなかったようだ。やはり今朝も一番早起きの魔女は朝ごはんを前にして、料理に加えて掃除、メンバーを起こすなど、バタバタと行動している。

 魔女がリビングのテーブルでぐったりと伏せているドクターに声をかける。


「ドクターさんがこんなに早く起きてるなんて珍しいですね~。昨夜は徹夜で起きてたんですか?」


「うん。オーナーが当番してたから、俺は一晩中作業しながら勇助とオーナーとしゃべってた」


「研究室で3人でお喋りしてたんですか?」


「いや、俺がリビングと研究室を行き来してた」


「……ですよね。今、オーナーさんと勇助が顔を合わせたらギスギスしそうですもん」


魔女がそういうのも、オーナーは昨夜の出来事が起こって以降、勇助について悪く言うようになったからだ。


「それな」


 そこまで話し終えたドクターは溜息をつき、彼は今度はキッチンにいる一瞬手が空いたナースのほうを見て言う。


「ナース、時々勇助の様子を見に行ってあげてよ」


 ナースがその言葉に対して小さく「え」と反応する。


「嫌?」


「そういうわけじゃないですけど……」


「勇助と同い年だし、話しやすいかなと思うんだけど」


 すると魔女も発言した。


「ナースは勇助と一緒にいる時間が一番長いでしょ?勇助も安心できると思うよ」


 ナースが少し顔を赤くしてボソッと


「わかりました……」


 と呟いて台所の片付けをはじめた。ドクターは


「ありがとう」


 とにこやかに言ってから魔女のほうを向いてコソッと話す。


「そうなの?」


「何がですか」


「ナースが勇助と一緒にいる時間が一番長いって事」


「ああ……ドクターさんは引き篭ってたから知らないんですね」


 魔女はちょっとニヤニヤしながらドクターに近寄って話す。


「ナースってほら、ちょっと人見知りでシャイな所があるじゃないですか。それで会話に入れない事が多くて、気づいたらナースがいなくなってるって事よくあるんです」


 ドクターは想像してみる。女性4人が会話をしていたとする。きっとその輪の中心は魔女やマドンナだろう。その2人が盛り上がっている所に令嬢が時々鋭く突っ込みを入れる。そして残ったナースは聞き役に徹する事になるわけだが、ナースだけ年下なのもあって1歩も2歩も気後れして先輩方の会話について行けない……。そしてその気まずさに耐えられなくなったナースがその場を静かに立ち去る……。

 なるほどうまく想像できてしまう。ドクターは納得したようにウンウンと頷いた。

 魔女が続けて言う。


「けどナースは勇助とはよく喋ってるんです。すごい良い笑顔で……。同い年だから気が合うんですかね」


 そう言う魔女の明るい声からは嫌みや悪意は感じられない。ドクターは「へぇ」と微笑みながら返し、会話を終えて一旦リビングを後にした。


 ドクターは研究室の隠し扉を開けるとすぐに


「朝食もうすぐだけど、どうする?」


 と声をかけて仰向けになってる勇助の顔を覗き込んだ。勇助は「んー……」と悩むような声を出して目を横に逸らす。


「……今、食欲無いからいいです」


 勇助のそう言う声があからさまに元気なさげだったので、ドクターは勇助のおでこに手を当てた。


「熱は無さそうだな……」


 ドクターはそう言ってベッドの横の椅子に腰掛けた。勇助がドクターのほうに顔だけをゆっくりと向ける。


「あのドクターさん……」

「ん?どうした」


 勇助が悲しげな声と顔で言う。


「鎖、外してくれませんか。……痛いんです」


 ドクターは迷った。勇助は目を覚ましてからというもの一晩中大人しく縛られていた。少々情緒不安定な所もあったがだんだん落ち着いているし反抗した様子もない。寧ろ反省しているように見える。ただその態度が演技なのか本心なのかが気にかかったのだ。


「人を襲わないって約束できる?」


 ドクターはそう確認する。勇助は少し間を空けてコクンと頷く。ドクターは「不安だな……」と率直に感想を述べ、


「朝食の後、鎖を外すから会議に参加してよ」


 と言った。勇助は若干渋々な態度で承知した。


 ドクターが研究室を出てからしばらくしてナースが入れ代わりで研究室に入った。彼女はオドオドした声で「勇助君……」と声をかけた。


「ナース?」

「うん。えっと、朝ご飯早く食べ終わったから……」

「そう……」


 勇助の元気がない。ナースはいつも気さくで明るい勇助を見慣れてたせいでオロオロしてしまっている。


「……もしかして鎖が痛いの?」


「うん。痛い」


「分かった。外すね」


 勇助は予定より数分程早く解放された。彼は起き上がって伸びをする。ナースは勇助の役に立てた事が素直に嬉しかったようでさりげなく微笑む。勇助はナースの顔をまじまじと見つめてから


「僕が怖くないの?」


 と尋ねた。ナースは困ったような顔をして答える。


「ちょっと怖いかな……」


「そっか……」


 勇助は内心やや落ち込みながらも冷静を装った。ナースは少し悩んでから「でも!」と言う。


「勇助君は悪い人じゃないって知ってるから大丈夫……」


 ナースが悲しそうな顔をする。勇助はそれを見て、心がズキズキと痛むのを感じた。ナースは続ける。


「ちゃんとみんなに説明してほしいの、殺害動機……。スパイさんが同情の余地があるって言ってるし……。みんなに勇助君が誤解されるのは嫌だから、えっと……」


 ナースが切実にしどろもどろに訴える。勇助はそれに対して泣きそうな声で返した。


「ごめんね……殺害動機を言って理解してもらえるか分かんないけど、ちゃんとスパイさんに謝って、みんなにもちゃんと言い訳するから……ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ