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ゾンビ化症候群  作者: 梶原冬璃
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7人の会議

 気絶して研究室に運ばれた勇助が目を覚ました。


「夢……か」


 勇助は思わずそうつぶやいた。と言いながらも彼は夢の内容なんて覚えていなかった。何か夢を見ていたと思うけど思い出せない。そういう感触だった。

 彼は100mを全力で走ってきたかのように息遣いが荒く全身に汗をビッショリかいていた。また、彼は目が覚めた時その夢が夢であったことに気づいてホッとしたのだった。これらの事実が彼の見た夢は悪夢だったと物語っていた。


「勇助、スパイとのことは夢じゃないぞ。……それはそうと気分はどうだ」


 ドクターが勇助に声をかけた。勇助は怪訝そうな顔をした。眠る前より以前の出来事の記憶はぼんやりとある。それとは別に嫌な夢を見たのだ。勇助はそれを言おうとしたがなんと言えば良いのか分からなかったのでそれには触れず、仰向けのままでドクターほうに顔を向けた。そして勇助は起き上がろうとしたが思うように動けなかった。


「ごめん、縛ってみた」


 ドクターが勇助の様子を見てそう言った。勇助は首を起こして彼自身の体を見た。大の字に手首と足首が鎖でベッドのさくに縛りつけられている。彼は数秒間状況が飲み込めず呆然としていたが、落ち着くと別に抵抗するでもなくドクターのほうを見た。ドクターは無表情だった。

 ドクターが勇助にさらに声をかける。


「気絶する前に何があったか覚えてる?」


 そう尋ねられた勇助はまだボンヤリする頭で、記憶を改めて呼び起こし、順序立てて思い出していった。


「はい。殴られた所まで覚えてます」


 勇助はよく覚えていた。チェンソーで切り裂かれたゾンビの体から噴き出す血の色。スパイの手首をギチギチと握り絞めた感触やスパイに自分のことについて話した内容までも。


 勇助はドクターにいくつか質問をした。それに対してドクターはテンポ良く答えていく。


「ここはどこですか?」

「研究室。オーナーいわく、人を一人監禁するには最適の場所なんだそうだ。現にゾンビ1体を監禁する事に現在進行形で成功している」


「僕を気絶させたのは誰ですか?」

「魔女」


「どうして僕達の居場所が分かったんですか?」

「魔女が人探しの魔法を使ったから……のはず」


「え、何それ?」

「知らん。魔女にきいてくれ」


「……スパイさんは無事ですか?」

「無事。片方の手首のアザが濃いけど」


「僕はどれくらい気絶してました?」

「……6、7時間だな。ちなみに今は深夜2時だぞ」


 勇助はそこまで質問をし終えて小さく溜息をついた。ドクターはゆっくりと口を開く。


「ごめんな。勇助が気絶してる間にみんなで話しあったんだが、とりあえず今夜は体を縛っておこうって事になったんだ」


 ドクターの声は心苦しそうな感じがにじみ出ていた。それを聞いた勇助は少し捻くれた気分になって、うっすらと笑いを浮かべながら


「大丈夫です。僕は殺人未遂の現行犯ですから」


 と爽やかに言い返した。勇助は何となくドクターの反応を見てみたくなった。ドクターは苦い顔をして何か言おうとしている。


「けど誤解しないでくれ。みんな、勇助を心配してる。勇助がスパイを殺そうとした理由をみんな知らないから……」


「え?スパイさんから聞いてないんですか?」


 勇助はてっきり、‘‘みんなが僕の殺人動機を把握した上で僕を縛る事にした‘‘と思い込んでいたので少し驚いた。

 ドクターが答える。


「10時頃に会議したんだけどな、もちろんスパイに勇助の殺人動機を尋ねたけど……」

 という出だしで、4時間前の会議の様子を事細かく説明しはじめた。



ー4時間前


 家から帰ってきたメンバーが夜食を食べ終え、シャワーをし、衣服の洗濯など、いろんな事が一段落して落ち着いた頃だった。家中のカーテンを閉め切り、照明の光もできる限り抑えているので全体的に薄暗い。本来ならこの時間はメンバーはそれぞれ寝る準備をしたり当番が静かに雑談していたりと、消灯間近ならではの行動をしているはずだ。今日のように、地下のリビングにほとんどのメンバーが集まっているのは珍しい。

 オーナーが人数を確認する。


「1、2……7。揃ったね。はじめようか」


 オーナーのその声を機に会議がはじまった。勇助を除いた7人がテーブルに着席している。オーナーが最初に口を開いた。


「何が起きたかはみんな知ってるよね?」


 オーナーの問いに対してメンバーはバラバラと頷いた。オーナーはそれを見てから次はドクターに


「今、勇助はどうしてる?」


 と尋ねた。ドクターは答える。


「勇助はまだ気絶している。念のために軽い睡眠薬を嗅がせておいたから、数時間はぐっすり眠るはずだよ」


 そしてドクターはスパイのほうを向いて問う。


「勇助がお前を殺そうとした理由とか聞いてないのか?」


「聞いたよ」


 スパイは即答した。しかし続けて


「けど言わない」


 と言った。ドクターは怪訝そうな顔をする。


「どうして?」


「勇助は俺に秘密を告白してくれたんだ。今までその秘密のせいで必死だった事とか苦しかった事とか……俺が勝手に話していいような内容じゃないと思う。それに勇助が俺に理由を話す前、あいつ、"まぁいいか、これから殺す予定だし"というような事を確かに言ったんだ。秘密を墓場まで持っていきたかったんだろうよ」


 スパイは心苦しそうにそう言ってから俯く。スパイの意思が固いと感じてドクターはそれ以上問い詰める事はしなかった。代わりに


「これから勇助をどうするべきだと思う?」


 と話題を転換した。それを受けてみんなが真剣に「うーん…...」と悩む。沈黙が長く感じられる。秒針が1周回っても誰も何も言わないのでドクターが

「俺の頭の中に選択肢が3つ浮かんでるんだけど……みんなとっくに思い付いてるようなことだろうけど、とりあえず聞いてもらっていい?」

 と仕切りはじめた。


「1つ目。何事も無かったように普通に接する。

 2つ目。監禁する」

 3つ目。家から追い出す。

 以上の3つ。自由に発言していいからみんなの意見を聞かせてくれないか」


 ドクターがそう言うと、まずオーナーが反応した。


 オーナーは言う。

「1つ目はないだろう。運よく未遂で済んだけど、あの時もう少し俺達が来るのが遅かったら、スパイが死んでたかもしれないんだぞ?」


 スパイが言う。

「勇助のゾンビを殺す動きや握力が……正直、人間のものとは思えなかった。もしまだ勇助が落ち着いていないようなら危険だ。1つ目は難しいかもしれない。でも3つ目にも賛成しかねるな……」


 ナースが言う。

「あの……1つ目の考えですけど、そ、その……武器を没収すれば普通に接してもいいんじゃないでしょうか。勇助君だってきっと反省してると思いますし……」


 普段、ナースは一言発することはあってもハッキリと意見を言うことは滅多にない。そんな彼女が勇気を出して発言したので皆が注目した。ナースがその視線に気づいて恥ずかしそうに俯く。

 スパイがナースの意見に対して答える。


「武器を没収してもちょっと無理だ……」


「何故ですか」


「勇助は少し自暴自棄になってるしそれにあいつは武器なんてなくても……ごめん、勇助のプライバシーに関係する事だからこの先はちょっと……」


「そう……ですか」


 ナースが今度は残念そうに俯く。だがすぐに顔を上げて


「でも3つ目には絶対反対です!勇助君は訳もなく人を殺すような酷い人じゃないです……」


 と訴えるように言った。他のメンバーが面食ったような顔をする。スパイは答える。


「確かに勇助は根は良い奴だと俺も思うよ。殺害動機も同情の余地がある気がするし……」


「ですよね……」


 ナースが少しホっとしたように微笑む。


 マドンナがスパイを見て少しいらついてるように言う。

「あなたは随分と勇助の肩を持つようだけど、こっちは勇助の殺害動機がわからないから何とも言えないわ」


 令嬢が付け加えるように言う。

「そうだね……勇助の意見が1番大事だよ。今夜は束縛して、朝になったら勇助にも話をきこうよ」


 みんながバラバラに頷く。

 会議はまた明日。それで全員一致したのだった。

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