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ゾンビ化症候群  作者: 梶原冬璃
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壁をのぼるゾンビ

ーこの状況をもう少し具体的に説明しよう。

 まず、家がゾンビに囲まれている点について。

 一応ベランダからザっと数えると50匹はいるように見える。ベランダから見えない範囲を含めるとさらにいるだろう。でも囲まれている事自体はさほど問題ではない。多分、全員予想しているはずだ。だからこそ夜に外出する事に対して反対意見が出るのだ。

 問題は、ゾンビが壁をよじのぼろうとしている点だ。

 1匹のゾンビがベランダの手すりに長く鋭く赤黒い爪をかける。黒く痩せこけたような腕が覗かせる。そのゾンビはスパイと目が合うと、充血したような真っ赤な目をギラギラとさせて、ガバッと口を開けて唾液を吐きながらスパイのほうに飛び込もうとした。スパイは驚きつつも的確にそのゾンビの口の中に銃弾を撃ち込んだ。だいぶ引き寄せてから至近距離で撃ったので外すという事はありえないとでも言うようにスパイは冷静だ。ゾンビは後頭部から血を噴き出して彼の目の前で倒れた。


 ゾンビは壁をのぼるのはあまり得意ではないようだ。壁を引っ掻くように爪を鋭く立てて登っているのだが滑り落ちるゾンビが多々いる。1匹1匹のゾンビから、他の奴を蹴落としてでもという執念がにじみ出ている。スパイは彼らの目がそう言ってるような気がした。2匹目のゾンビがベランダに到着するまでまだ少々時間がかかりそうだ。命の危機でない限り、無駄に殺傷するまでもあるまい。スパイは先ほど殺したゾンビを見下ろしてから溜息をついた。


「ていうかギャーギャーうるさいな……」


 複数のゾンビのギャーギャーという不協和音にスパイは憂鬱になった。そしてスパイはふと気になった。


ーーそういや寝てる時にゾンビの声に悩まされて眠れないなんて事、1度でもあっただろうか……


 すると1階からドタバタと複数の足音が近づいてくる。勇助が誰かを起こしたのだろう。勇助が1番乗りでベランダに到着した。


「スパイさん!さっき、発砲音が聞こえたんですけど大丈夫ですか!?ひっ……」


 勇助がゾンビの死体を見て一歩退く。スパイは勇助に声をかけようかと思ったが、その前に2匹目のゾンビが近づいてきたことに気付き、銃を構えて1匹目の時と同じように殺した。スパイは再び溜息をついてから勇助に愚痴る。


「……さっきから唾液のシャワーでさ、汚いの何のって。見てくれよ、服にすごいかかってさ。俺、実はまあまあ潔癖症だから結構堪えるんだけど」


「てか、スパイさん、なんでそんなに肝がすわってるんですか?」


「え?……慣れかな」


「え?」


 勇助がキョトンとした所で3匹目が手すりから登場したのでスパイはまた射殺した。スパイはゾンビの態度に違和感を持ちはじめていた。

 いつのまにか数人が二階に集まっていた。にも関わらずゾンビはスパイだけを狙ってるように見えた。


「おいスパイ!一旦戻れ!ゾンビは何故かお前に過剰反応している!」


 ドクターがスパイに呼びかけた。ドクターはスパイが感じた違和感にほぼ確信を持っていた。勇助がスパイの腕を軽く引っ張って、家の中に戻るよう無言で訴える。


「けど4匹目のゾンビがもうすぐベランダに……」


 と、スパイは銃を構えたまま、戻るのをためらった。すると勇助が腕を引っ張る力を強めて無理矢理スパイを中に引き込んだ。その力のあまりの強さにスパイは驚いた。


「多分、窓を完全に閉めて鍵かけちゃえば大丈夫だと思う!」


 誰もベランダに出てないことを確認してからオーナーはそう言って慌てて窓の鍵を勢いよく閉めた。途端、ゾンビのけたたましい叫び声が遮られて静かになった。ドクターがすかさずピシャっとカーテンを閉める。そして2人は慎重に窓から離れた。勇助はドクターとオーナーだけを真っ先に起こしたらしく、男4人が2階に集まっていた。ドクターがオーナーのほうを向く。


「オーナー、窓は強化ガラスでできてるからとりあえずは大丈夫なんだよな?」


「ああ……多分」


 オーナーが発した、最後の"多分"という言葉が自信なさげだったせいか、勇助が不安そうな顔をする。スパイは「大丈夫なんだろ?大丈夫……」と勇助を励ます。するとドクターがギロっとスパイと勇助を睨んだ。


「どうしてこうなった?どちらかが窓開けたのか?」


 そう言う。身に覚えのないスパイは勇助のほうを向いた。勇助は伏し目がちに黙って俯く。ドクターがその様子を見かねて勇助に近づき、優しく声を和らげて話しかけた。


「……別に誰か怪我してしまったわけじゃないし、お前らを責めたいわけじゃないんだ。しょうもない事でもいいから話してくれないかな……」


 しばしして勇助は口を開いた。


「外の景色を見たかっただけなんです……2階からほんの少しカーテンをめくるだけなら大丈夫だと思って……ベランダにゾンビが来てるなんて思いもよらなかったから……。そしたら手すりにいたゾンビと目が合って……。手すりにいたゾンビは落っこちたみたいなんですけど、周りのゾンビが少し騒ぎはじめて、大変だって思ってスパイさんに報告したんです……すみませんでした」


 勇助は負い目を感じているのか、俯いたまま誰とも目を合わせずに言った。ドクターは勇助を気遣うように笑いかけた。


「そっか。なら仕方ない。それよりゾンビが壁を登れるって事が分かった事のほうが重要だよ。大事には至らなかったし、他のメンバーにも明日伝えて、今後みんなで気をつければいいからさ。そんな落ち込むなよ……」


 勇助は少し顔を上げてコクンと頷いて応えた。


 しかし本当に大丈夫なのだろうか。ゾンビはこの家に人間がいる事を知ってしまった。この家の中にいれば絶対的に安心……本当に?


スパイ、オーナー、勇助は少々不安だった。ドクターいわく、しばらく静かにしてゾンビから距離をとれば一応今のところは大丈夫だと思うとの事なので、他の3人はそれにしたがった。


「スパイ、お前は何故かゾンビに過敏に反応されるみたいだから、しばらく地下の研究室に避難しよう。来て」


 ドクターがスパイにそう誘った。リビングでの当番はオーナーと勇助に任せてスパイとドクターは研究室へ向かった。

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