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その者、大小を伴って候 前編

刀。サムライ。ファンタジー。

それだけでお話を作ってみたくなりました。

 とある国。とある辺境の都市。人魔入り乱れる土地に、生きる者達。

 冒険者。行商人。宿屋の店主。鍛冶職人。其々の職に励む者達。


 当然、人智の及ばぬ領域には、人外の者共が蠢いていた。

 人の生き死にが身近であっても、人の営みが繰り返される場所。

 人と魔の領域争いは珍しくなく、今日も何処かで人の領域を広げ、或いは奪われていた。


 開発の進む辺境の都市にて、橋渡しの事業在り。

 都市と都市を隔てる川に、交通網となる橋を建てる事業であった。

 拡大を続ける都市を支えるには、物資の流通が不可欠。生産地から都市部へ運送するための道の中でも橋梁は大きな事業である。


 事業には大量の人足が雇われていた。都市間を結ぶ運送用の橋は巨大だ。物資を運ぶもの。物資を加工するもの。組み立てるもの。作業を監督するもの。大勢だ。


 そこに魔から人足達を護衛する者共も含めれば、二百は下らぬ人の群だ。

 種族も様々。監督者には長寿族。物資の加工には鉱人族。輸送や組立には人族や獣人族が。

 誰彼も騒がしく、互いに罵り合いながら、されど手助けすることは躊躇わない。

 棲み分けはあれど、同じ辺境で暮らす者として、独特の連帯感があった。


 そこに見慣れぬ風体の男が一人。

 布一枚に袖を通し、帯で縛っただけの着流し。ボサボサの黒の長髪を、後ろで一本に纏めた髪型。

 ともすれば浮浪者にしか見えない男であったが、周りの者達は誰一人、彼を追い出そうとはしない。


 この男、人の良さそうな笑みを浮かべ、言葉が通じぬながらも人の二倍も三倍も働くものだから、周りの人々はすっかりと絆されていた。

 はだけて見える肉体は、一目で見て取れるほど鍛えられており、重い橋梁の部材を軽々と運んでいく。

 周りの者にも手を貸しながら、笑みを絶やさず、朗らかに働くその姿に、最初は怪訝に思っていた者達も、警戒を緩めた。

 元々辺境に出来た街だ。色んな者が流れ着くとさほど気にされなくなっていた。


 ある日の事。その日もうだる日差しの下を、男を人足が働いていたときのことである。

 未だ人智未踏辺境には、多くの危険が潜んでいる。

 橋渡しの事業は川べりで行われていた。人域の外ならば、当然、元々水飲み場として利用していた者がいる。


 突然、爆音が辺りを支配した。

 続いて響く、川を打ち鳴らす幾つもの破片と人。

 大樹の如き体格に、牙を生やした四足の怪物だ。人や柱を散々に弾き飛ばして暴れる怪物に、護衛の者共も手が出せぬ。

 また一人、怪物に踏み潰されんとした時である。ボロのような布を纏った男が、残った柱を器用に跳び伝い、怪物の背にソリのある片刃剣を突き立てた。

 思わぬ反撃に怪物は叫び身を震わせる。それでも男が離れぬと解ると、怪物は柱へと突進する。

 これには敵わん、と男はすぐさま飛び降りた。怪物は柱を轢き倒すと、そのまま森へと逃げ込んでいった。

 一息ついた男を見て、周囲の者共は喝采を上げた。戦闘を生業とする者共より、何と勇なる者であることか。

 男は首を振る。あの者共が居たから、自分は怪物に跳びかかって行けたのだ。同じように真正面で対峙すれば、自分とてああなっていたやも知れぬ。

 言葉を紡げぬ男は変わりに、橋の方を指さした。事業は失敗。人足達は糧を得る術を失い、溜息を付いたが、男に一言礼を言って去っていった。

 当然男もしのぎを失い困っていたが、それより困るのは怪物に突き立ったままの片刃剣の行方である。

 ボロのような風体の男が、後生大事に抱えていたのが、あの剣と、もう一本の大剣である。

 かさばる大剣は宿に在る。片刃剣を取り返すにせよ、丸腰では怪物と戦えぬ。男は一先ず宿へ戻ることとした。

 街の宿に戻ってみれば、怪物の出現は既に知れ渡り、宿の一人娘も大いに男を心配したと口にする。

 その気遣いを察してか、困った笑顔で頭を掻く男。これから自分は森へ入り、あの怪物を追わなくてはならない。言葉が通じぬ異国で良かったと、男は内心ほっとしていた。

 少女の気遣いを振り切ってまで、剣一本を取り返しに行くことは出来ない。ここで引き止められてしまっては、男は迷い立ち止まってしまう。

 色々と話しをせがむ少女の相手もそこそこに、男は部屋に引っこんで怪物を打倒す策を練るのであった。



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