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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア編

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第七十話、理不尽な要請

 部屋を宛がわれた慧太けいたたちだったが、休む間はなかった。


「申し訳ないが……宮殿の外の宿をお使いいただきたい」


 リンゲ親衛隊長は、厳しい顔つきの熟練の騎士といった風貌だが、今は威圧感よりも歯切れの悪さが先行した。

 セラフィナ姫に頼まれ、連れの方々の部屋を用意する、と言った。

 だがその舌の根も渇かぬうちに、主である王族――次期国王であるリーベル王子から、追い出せといわれる始末。これでは立つ瀬がない。

 何とも気の進まない役割とはいえ、忠誠を誓う王族からの命令とあれば無視は出来ない。


「要するに――」


 慧太は皮肉げに口もとを歪めた。


「出て行って欲しいんだろう? オレたち小汚い傭兵が、リッケンシルト王家の住まう宮殿を歩き回るのが不愉快だってことだ」


 リンゲは一瞬口を引きつらせたが、この不遜ふそんな若造に怒りをぶつけたりはしなかった。

 セラフィナ姫の恩人とあれば、極力穏便に済ませたいと思っているリンゲである。その彼ら――いや慧太の言い分は、つまるところ王子の本音を言い当ててているのだ。


「オレたちは、セラからライガネンまで同行するよう依頼されてるんだが?」

「契約の違約金か? それなら、リッケンシルト国が立て替える用意がある」

「……つまり、もう用はないってことだな」


 慧太が首を振った。ユウラは肩をすくめた。


「そういうことですね。セラさんが宮殿に逗留とうりゅうしている間に王都で待っていろ、ではなく、もう帰っていいってことですから」

「ふむ……なあ、隊長さんよ」


 慧太は自身の腰に手を当てた。


「セラは何て言ってるんだ? このことについて。当然、知ってるんだよな?」

「わしは知らぬ」


 リンゲは仏頂面である。……いくら役割とはいえ、この傭兵の口調には少々不快に感じている。そもそも、セラフィナ殿下を呼び捨てとは、本人がいないとはいえ無礼が過ぎる。

 所詮は、身の程知らずの傭兵といったところなのか。


「あ、そう。……セラも知らないってことか」


 態度についてはともかく、理解が早い連中だとリンゲは思った。そのあたり、外見に似合わず傭兵としての経験は十分に積んでいるのでははないか。


「本来なら、セラ本人の口からでなければ、納得しかねるが……」


 納得するしないの問題ではない――リンゲは心の中で呟く。

 リッケンシルトの王位継承者たる王子がそう言ったのならそうなのだ。傭兵程度が逆らえることではなく、ひとたび王子が機嫌を損ねれば、反逆者として捕らえその首を刎ねることなど造作もない。


「オレたちは傭兵だから、国や王族に忠誠を誓っているわけじゃない。従う筋合いはないが……王族と揉め事をしたいわけじゃない。ここは引き下がろう」


 もったいぶったが、案外すんなり認めた。……所詮、傭兵などこんなものなのだ。仕事に関してはドライというか、案外冷めているというか。


「で、隊長さんよ。さっき違約金、立て替えてくれるって言ったよな?」


 慧太は、いかにも金にうるさい傭兵らしく言った。


「結構、お高いんだけど……払ってくれるよな?」



 ・ ・ ・



 宮殿から追い出された。

 セラの顔も見ず、別れの挨拶もなし。……そう言うと、悲壮や怒りなどがない交ぜになっていそうであるが、慧太は実にさばさばしたものだった。

 リアナは無表情。一方で加わって日の浅いアスモディアは何か言いたげな顔をしている。

 ユウラは呆れも露に言った。


「違約金も何も、そもそも報酬受け取るつもりなかったですよね?」


「あ? 何のことだ?」


 慧太は嫌味な笑みを浮かべた。


「詐欺ですよ、慧太くん」

「そうか? ライガネンにたどり着いたら、セラ次第で報酬あるかもって約束だぜ? まんざら嘘でもないだろ」

「意外ですね。こういう理不尽な扱われ方されて、もっと怒るものと思ってましたが」

「え? オレ怒ってるよ」


 笑顔で慧太は言った。

 内心では憤っているし、リンゲ隊長はともかく、王子に会ったら罵声のひとつも浴びせてやろうかと思っているくらいには怒っている。


「……少しもそのように見えないのですが」

「そりゃまあ……」


 慧太は自身の髪をかいた。


「普通ならセラと切り離されて軽くショック受けるところなんだろうけど、オレ、シェイプシフターだし」


 その言葉に、リアナとユウラは小さく笑みを浮かべた。アスモディアだけは意味がわからなかったようだが。


「とりあえず、王都で適当な宿とろうぜ。金はあるんだし」


 慧太は先頭きって宮殿の庭を抜け、正門へと近づく。シンメトリーに作られた庭。貴族的というか、庭師が丁寧に手入れをしているだろうことが見て取れる。

 宮殿を取り囲む防壁には、見張りの兵がおり、宮殿の敷地の内外に目を光らせている。……城でなく、平地の宮殿の時点で、すでに防御能力はお察し。周囲を囲む防壁さえ越えれば、あとは造りが豪勢な屋敷でしかない。


 ……。


 慧太はそれとなく周囲を観察し、そして言った。


「そんで、暗くなったらセラの様子を見にここに戻ると」

「宮殿に忍び込むつもり?」


 アスモディアが目を回せば、慧太は振り向き、白い歯をのぞかせた。


「任せろよ。オレに忍び込めない場所なんてないんだぜ?」 


 たぶん――

 潜入任務は、特殊なシェイプシフターである慧太の十八番である。

 その気になれば宮殿制圧だってやれる、と思ったが、そこまでの必要性は感じなかったので、慧太は黙っていた。


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