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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
シファードの町編

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第六十三話、初めての殺人

 空を見上げれば、雲は多いが太陽は顔を覗かせていて明るかった。

 エーレ街道。王都エアリア目指す道。その両側は鬱蒼うっそうとした森が広がっている。清々しい空気――は破られた。

 突如、飛来した矢をあっさりかわした慧太けいただったが、結局のところ、両側の森から、わらわらと飛び出してきた小汚い武装集団に囲まれることになった。

 ざっと見たところ十五人ほど。森に隠れているのがまだ数人いるようだ。多分、弓を扱う者が数人。

 盗賊のたぐいだろう。


「へへ、なんでか知らねえが、シファードから人がこなくてよぉ」


 リーダーらしい男が、唇をひん曲げた。


「ま、ようやく来たお客さんだ。大人しくしてりゃ、殺しゃしないぜ」


 周囲の盗賊どももダガーや斧を手に凄んでみせる。


「えーと、女が三人……上玉が揃ってんな、いやツイてるね。げひひっ」


 卑下た笑いが波のように広がる。

 ユウラが皮肉げに言った。


「こういう場合、大人しくしてれば男は見逃してもらえるんですかね」

「仮に見逃してくれても、女性陣は襲われるだろうよ」

「なしですね」

「なしだな」


 降伏したら最後、ろくなことにならないのは予想がつく。

 となれば、戦うか逃げるかだ。セラやリアナが盗賊どもに蹂躙される様は、誠にもって不愉快極まりない。……いや、リアナだったら多分ひとりでも盗賊連中、全滅させられそうな気がした。


 どう対処したものか。

 盗賊どもは相変わらず威圧はするが、踏み込んでこない。こちらがユウラとアスモディア以外、武装しているせいだろうか。特に女二人が武器を持っているから、何とか生け捕りにしたいと思っている連中にとっては面倒なのだろう。

 厄介なのは弓矢を持っている奴らだ。あれで狙われるのが非常にまずい。とくにセラやユウラあたりが。


「マスター、ここはわたくしにお任せを」


 アスモディアがそう告げると、セラや慧太の間を抜けて、正面の盗賊連中へとゆっくりと近づいた。


「ほう、シスターさん。降伏のお話かい」


 ぐへへ、と盗賊のリーダーと思しき男が顔をニヤつかせる。

 シスター服姿のアスモディアは丸腰アピールである。そうしていると、背は高いが『普通に』敬虔な修道女に見える。


「皆様、どうぞ武器をお納めになってください。無駄な流血は好みません」

「さすがは神のしもべだ。慈悲深いねぇ……でも、おれたち飢えてるの。ひゃははは」

「服ごしでもでけぇ乳だなァシスター。その服、脱いで裸になってくれよ! そうしたら言うこと聞いてやってもいいよ! ぎゃはは!」


 ――うーん、下衆だねぇ。


 慧太は口もとを引きつらせた。……絶対、言うこと聞かないパターンだ。清らかなる神のしもべが、言葉を真に受けてストリップでも始めたら嘘だと言って絶望させる、とか何とか。

 セラも顔をこわばらせ、盗賊どもの物言いに憤りを覚えているようだった。当のアスモディアは、柔らかな笑みを浮かべた。


「脱いでも……いいんですか?」


 その言葉に、慧太は思わず額に手を当てた。――あの変態女め。

 盗賊たちが歓声を上げた。


「わかってるなぁ、シスター! いいぞ、脱げ脱げ!」


 アスモディアが、さらにリーダーらに近づく。

 すっかりその気になっている正面の盗賊連中は修道女に夢中だった。彼女は胸元に手をかける仕草のまま、近づき――服の上からその手を自身の身体に沿って這わせる。

 ……それ娼婦がやってるのを見たぞ。慧太はシファードの町の娼館での例の歓迎――分身体が受けたやつだ――を思い出す。


 すっとアスモディアが修道服に入ったスリットから、白いおみ足をちらり。


 盗賊たちが鼻の下を伸ばした、まさにその時。


 紅い槍が風を斬った。ヒュン、ヒュンと鳴ったそれ。シスターの手には赤槍スコルピオテイル。目にも止まらぬ早業は、正面にいた盗賊五人の顔面を切り落とし、首を跳ね飛ばしていた。


 場が騒然となる。

 周りの盗賊たちが何が起きたか理解するのに数秒――そしてその数秒は、慧太たちが行動を起こすに十分だった。


「セラ、右の奴らを片付けるぞ! リアナは左の連中だ!」

「はい!」

「わかった」


 弓使いもアスモディアがリーダーを血祭りに上げたのに気をとられて反応が遅れる。


「アル! お前も本気出していいぞ、ゴーレム!」


 黒馬の姿だったアルフォンソが、慧太の声に弾かれるように形を変える。

 まるで風船のように身体が丸く膨らんだかと思うと、次の瞬間、高さ三ミータ(メートル)強の人型に変形した。

 がっちりした体躯は鋼の如し。赤い単眼を輝かせるのは一つ目巨人(サイクロプス)――というより一つ目のメカ人形のように角ばっていた。

 セラにシェイプシフターだと正体を明かしたことで、もはやアルを馬のまま放置する必要はないのだ。


 突然、湧いて出た巨大なゴーレムの姿に、盗賊たちの視線はそちらに集まった。それが慧太やセラ、リアナらの突撃を援護することになる。


「光よ、我が敵を撃て!」


 セラは白銀の鎧を展開。瞬きの間に可憐にして凛とした戦乙女が現れ、それと同時に光弾魔法を放った。

 慧太は手にしたダガーを投擲とうてきする。弓使いをまず吹き飛ばし、または突き刺し、盗賊連中との距離を詰める。 


「おお、神よ、罪深きわたくしを許したまえ」


 アスモディアは謳うように言った。赤槍を股に挟むように持ち、さながらポールダンサーのような姿勢。


「嘘つきで、ごめんなさぁい。わたくしは流血、だーい好き」

「!?」

「お次に地獄に行きたいのは、だぁれ?」


 野郎――と、盗賊二人が武器を手にアスモディアに迫る。


「お姉さん、よ。野郎じゃない、わ!」


 残る二人も瞬く間に赤槍に貫かれ死亡する。


 森の右側は慧太とセラ、左側はリアナと援護のユウラであっさりと始末がついた。

 盗賊と言ったところで、その戦技など大したことはない。たまに熟練者がいるが、大半は戦場に行けば雑兵程度である。


「まあ、こんなもんだよなぁ」


 慧太はセラと共に街道に戻る。

 反対側ではリアナとゴーレムと化したアルフォンソが盗賊を一掃。アルの巨大な手には返り血がべっとりついていて、その巨腕で敵を潰しただろうことがうかえる。

 慧太は視線を傍らのセラに向ける。

 お姫様は、なにやら黙り込んでいる。怪我などはしていないようだが、その表情は硬かった。


「どうした?」

「……初めて」


 セラは右手についた血を、じっと見つめる。


「人を殺しました」

「……マジで?」


 魔人や魔獣のたぐいはこれまでも倒してきたはずだ。

 そう考えて、ふと、そういうことか、と察しがつく。


「人と直接戦ったことはなかったと」

「ええ……」


 セラは深く息を吸いこんだが、すぐに顔をしかめた。


「思ったより普通だなって」

「いままで魔人とか斬ってきたからだろ」


 慧太はポーチからハンカチを出して、セラの手の血を拭った。

 あ、と声を漏らすセラだが、抵抗することなく慧太に行為を委ねる。


「……オレも最初に殺した人間は、ああいう盗賊だった」


 ショックだった。


「でもやらなければ――」

「――やられる。今の場面だって、戦わなければこちらが殺されていた」


 セラは視線を上げた。その青い瞳は真っ直ぐ、ここではない何かを見つめる。


「同情するような相手じゃない。……でも」


 セラは、それ以上言葉が出ないようだった。

 わかっていても、割り切れないことはある。普通だといいながら表情が険しいのはそういうことだろう。

 慧太は静かに息をついて、「ああ」とだけ言って頷いた。


 その時だった。


「ケイタ!」とリアナの鋭い声。

 振り返ったその時、そこにはアスモディアが立っていて。


「ちょっと、お姫様……油断するのは早すぎるのではなくって……?」


 リアナが素早く弓に矢を番え、放った。


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