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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
シファードの町編

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第六十二話、犬猿の仲

 夜の鳥の声が耳に届く。

 ゴルド橋を渡り、対岸にたどりついた慧太けいたたち。橋が架かるとすぐに先行したリアナがリッケンシルト国の小隊を沈黙させ、障害はなかった。

 昏倒している兵たちを見やり、セラは何とも言えない顔をしていたが、橋を渡った事情が事情だけで、見てみぬフリを決め込んだらしい。……そういう大人な判断ができるところが、こういう時はありがたかった。

 橋の直後には、リッケンシルト国の王都へ繋がるエーレ街道が真っ直ぐ伸びている。

 街道は、黒々とした森の間を走っており、軍隊が行軍するに十分な幅があった。もともと街道というのは、通商よりも軍隊の移動用として整備される傾向にあるのだ。

 街道を辿るだけなら、たとえ夜間でも迷子になることはない。……夜行性の獣が襲い掛かってくることがあるという危険はあるが――


「どうやら魔人の部隊はいないようですね」


 ユウラが言えば、シスター服のアスモディアは一礼した。


「仰せのままに、マスター。全力でレリエンディールに帰投せよと命じましたから」


 その顔に、小さな笑みが浮かぶ。


「本来なら部隊集結をはかるところですが、それすら時間が惜しいほどの急変が母国で起きたと言いましたから。兵どもは昼夜を問わず、走り回っているでしょう」

「素晴らしい」


 ユウラは、しかし小首を傾げる。


「でもゆっくり帰ってもらってもよかったのに」

「部隊合流する余裕を与えると、わたくしの不在を不審に思う者もいるかと思いまして」

「ああ、なるほど。合流できないのは、あなたも全速力で帰国しているから、というわけですね」


 ユウラは納得するのである。聞き耳を立てていた慧太は口を開いた。


「町の対岸にいた連中はどうやってバーリッシュ川を渡ったんだ? 橋は落ちていたし、大雨のせいで増水していた」

「橋を落とす前に渡ったのよ。あなたたちがしたように、闇夜に乗じてね」

「あーなるほど」


 魔人どもが移動した時はまだ橋が落ちていなかったとなれば、そりゃ渡れるか。


「……じゃ、帰りは?」

「川に沿って移動しているんじゃないかしら? 適度に渡れるようになるまで迂回してるでしょ」


 闇の中、街道を進み、やがて小休止をとる。

 リアナが適当に薪拾いをして集めた枯れ枝に、アスモディアが魔法で着火した。

 ……こういう時、魔法って便利だよな、と慧太は思う。日本にいた頃でも、野外でこうも簡単に火はつかないのだ。

 街道わきでの焚き火。暗闇のなか、温かな火は自然と心をホッとさせる。ついでに夜食とばかりに、堅焼きパンや水をとるが――


「そ、それをわたくしに近づけないで……!」


 アスモディアがやや怯えた声を出した。

 リアナが薪拾いの合間に、捕まえたヘビを焼いたものだった。

 狐人の暗殺者は、捕まえたヘビの首を一刀のもとに切り落とす。その後、皮や内臓の処理も的確にこなし、手早く串を作成――手ごろな細枝を削る作業もまた早かった――、蛇一匹を料理してしまった。

 リアナのアウトドアな料理を見るのは、慧太やユウラは慣れたものだったが、セラやアスモディアは物珍しそうに見ていた。

 いい塩梅にヘビ焼きが出来た頃にリアナは、アスモディアにそれを譲ったのだが、先の反応である。

 リアナは無表情だったが、どこかがっかりしたように見えるのは気のせいではないだろう。


「魔人だから蛇肉も普通に食べるかと」

「わたくしはこれでも高貴な生まれなのよ? 蛇なんて貧民の食べ物、食したこともないわ」

「……」

「なに、その何か言いたげな目は?」

「……別に」


 リアナは、ヘビ肉をセラに突き出す。銀髪のお姫様も遠慮した。続いてユウラへ向けるが、彼もまた辞退した。……慧太には最初から向けなかった。シェイプシフターが低燃費であることを彼女は知っている。


「味は悪くない」


 狐娘はヘビの丸焼きにかぶりついた。熱いのだろう。はふっとリアナは息をついた。一人だけ温かい食事だが、周囲が断ったので何も悪くない。


「それにしても意外だ」


 慧太は言った。


「お前がヘビが苦手なんて」

「苦手というか……」


 アスモディアは口を尖らせた。


「食べ物ではないわ」


 それよりぃ――とアスモディアは立ち上がると、慧太の背後に回り、その背中に抱きついてきた。


「ねえ、ケイタ。暇だし、少しタノシイことしないィ……?」

「あ? 何だよ急に」


 背中に柔らかな弾力を感じる。

 ユウラの召喚奴隷になったことを受け入れたのだろうか。開き直りなのか、とにかく、アスモディアは慧太に対しては親密だ。やたらくっついてくる……というか、セラの目が怖い。怖い!


「人前で、あまりベタベタしないでくれます?」


 案の定、セラの冷たい視線。


「目障りですし。静かにしてくれませんか?」

「何故?」

「何故って……わかるでしょう? ケイタも迷惑してます」

「迷惑なの、ケイタ?」

「見てわかるだろう」


 慧太もそっけなく振る舞う。正直、セラの機嫌を損ねているのが大変よろしくなかった。


「つれないこと言わないでよ」


 アスモディアは慧太の首もとに手を回し、じゃれついてくる。修道服ごしの胸もまた、これでもかと押し付けてくる。


「いい加減にしてください! 不愉快ですっ! ……魔人のクセに」


 すっと顔を背けるセラ。ふっと、アスモディアの手が慧太の肩を押さえ、その反動で立ち上がった。


かんに障る言い方ね……人間のクセに」

「……!」


 つかつかとセラへと歩みよるアスモディア。対するセラも立ち上がり、二人の視線は交錯し火花を散らす。


「仲間づらするのは早すぎるんじゃない? アスモディア」


 口火を切ったのはセラだった。


「私はあなたを仲間だなんて認めてませんから」

「貴女が認めようが知ったことではないわ」


 アスモディアは一ミータ(メートル)挟んでセラと対峙する。身長は女魔人のほうが高いので、自然と見下ろす形になる。


「わたくしは、マスターの下僕(しもべ)。貴女の指図は受けないし、仲間になったつもりもないわ」

「仲間でないのなら、ケイタと接触しないで」


 ――え、何でそこでオレの名前が出てくるの?


 慧太は視線を配れば、ユウラは我関せずと言った顔。リアナは……ヘビ肉をもぐもぐと噛みながら、興味深げに二人のやりとりを見つめていた。


「いいじゃない、わたくしがケイタとイチャイチャしたって。お姫様にとって何か困ることでもあるの?」

「ケイタは私の仲間です。魔人に誘惑されるのを見ていられるとでも?」

「あら、魔人でなければいいみたいな言い回しね。……大丈夫、いまのわたくしは、レリエンディールの魔人ではないわ」

「そんな出まかせを――」


 憤るセラ。アスモディアは胸の前で両腕を組んで、その豊かな胸を強調する。


「何? まさか貴女妬いてるの? わたくしがケイタをとってしまうのではないかって」

「な、何を、突然!?」


 カッとセラが赤面した。それは怒りか、はたまた羞恥心なのか。傍からは判別が付き難かった。


「あら、図星ぃ? 可愛いところもあるのね」


 にんまりと笑みを浮かべるアスモディア。漂うのは大人の余裕。

 セラはその青い瞳を慧太に向けた。慧太も同じく見つめ返していることに気づくと、さらに顔を赤らめた。


「か、関係ないですよね、今その話は!」


 セラはアスモディアに食って掛かるが、当の女魔人はどこか勝ち誇っていた。


「関係あるわよ。だってわたくし、ケイタを自分のモノにしたいと思ってるもの」

「は!?」

「え?」


 その声はセラと慧太で同時だった。アスモディアが目配せする。


「ほら、前にも言ったでしょケイタ」

「前っていつですかケイタ!?」


 セラが詰め寄ってくる。……飛び火したー。慧太は目を閉じた。

 これは大変よろしくない。そう、よろしくなかった。


 突然、ビクっ、とアスモディアがその身体を震わせた。


「あ、ちょ……あふん、こんな……時に――」


 頬を赤らめ、アスモディアが悶える。豊かな胸、そして下腹部に手を当てつつ、その場に膝をつき、もじもじとし始める。

 彼女の下着――シェイプシフターの分身体が震動しているのだ。彼女の希望通りの機能を発揮した結果、セラとの口論どころではなくなった。


 ――余計な手間とらせやがって。


 慧太はそ知らぬ顔をしつつ、内心では舌打ちしたい気分だった。


「何ですか、突然……」


 セラが目の前で妙な声を上げて悶える女魔人を、心底呆れたような目で見つめる。


「……馬鹿みたい」


 しらけたことで怒りが吹っ飛んだのか、セラは焚き火に戻った。リアナが食べるヘビ肉の串焼きを見る。


「それ、少しもらっていいですか?」

「……ん」


 状況を静観していた金髪碧眼の狐娘は、食べかけの肉を差し出すのだった。

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