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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
シファードの町編

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第六十一話、橋を架けるシェイプシフター

 夜にも関わらず、シファードの町の表通りは明かりが焚かれていた。

 旅人などが疲れを癒したり食事をする夜の店が開いているからだ。

 ただ、現在ゴルド橋が分断され、川を境に往来がストップしているため、普段に比べて閑散としているという。


 その日は雲が多く、月もほとんど見えなかった。

 日が変わる深夜、慧太けいたらは宿を出た。

 川さえ渡れば、リッケンシルト国の王都エアリアは徒歩で二日の距離だ。携帯食四日分を買い足し、準備を整えた四人と一頭はゴルド橋へと向かった。


 橋の手前の広場では、数人の姿が見えたが、いずれも適当な場所で座り込んだり、横になっていた。大方、酒で酔っ払い休んでいるか、お金がなくて宿がとれなかった者たちだろう。

 特に注目されることなく、ゴルド橋を踏みしめる。

 先頭を行く慧太はランタンを手に進む。木製の橋は数え切れない人間や乗り物が通過してもなお頑強だ。

 他に明かりがないため、眼下を流れるバーリュッシュ川は黒々としており、水の流れる音が大きく耳に届いた。その強さからして、まだまだ川の流れは激しいようである。


 肝心の分断箇所――二番島と三番島の間に差し掛かる。

 橋は約十ミータ(メートル)ほどの間がなくなっている。人間が跳んだ程度で超えられないのは一目瞭然りょうぜんだ。


 さて――慧太はランタンと橋の上に置いた。そしてすっと目を凝らす。

橋の向こう側に人の姿があるかを確認……。


 ――……?

 

 慧太は目を瞬かせた。見間違いと思い、じっと対岸を見つめ――


「ユウラ」


 振り返り、蒼髪の魔術師を招く。彼は隣までやってくる。


「トラブルだ。……対岸に明かりが見える。さっきまではなかったのに」

「つまり……」

「ああ、照明を持った誰かが、橋の向こう側にいる」


 予想外の事態だ。これから橋を架けようとしているところを、人に見られるわけにはいかないのだ。


 魔人の待ち伏せ――ユウラがそれを口に仕掛ける。


「ではないですね。……彼らが明かりを焚くとは思えない」


 アスモディアが裏切った、という可能性を彼は否定した。夜目の利く魔人もいるだろうし、わざわざ自らの所在を明かして待ち伏せする馬鹿もいない。


「可能性としては……」

「向こうからシファードにやってきた旅人か商人」


 ゴルド橋が落ちていることを知らない連中だろう。慧太は舌打ちする。


「……ここまで来て、引き返すなんてできないぞ」


 振り返り、小首をかしげているセラを見やる。

 先を急ぎたいという銀髪のお姫様はもう限界のはずだ。それに何と言い訳するつもりだ? 対岸に人がいるから渡れません、なんて納得できるか?


「強硬手段で行くしかないですね」


 ユウラは淡々と言った。殺しもいとわない任務において彼が見せる冷淡な一面だ。


「向こうの人たちには悪いですが、少し眠ってもらいましょう」

「……わかった」

 

 慧太は頷くと、小さく口笛を吹いた。控えていたリアナが小走りにやってくる。


「状況は把握しているな? ……向こうにいるのが何者かわかるか?」

「武装してる」

 

 狐人フェネックの少女は答えた。


「……リッケンシルトの兵士みたい。複数……五、六人」


 鋭敏な狐人の耳が、離れた場所にいるそれを掴む。だがわずかに彼女が額にしわを寄せたのは、川の流れる音や風などが一種の雑音となっているからか。


「国の兵士なら、最小でも分隊以上で行動していると見るべきでしょう」


 ユウラは口を挟んだ。


「すると十人くらいか」

 

 慧太は眉をひそめた。少なくて十名以下、多いとそれ以上。


「何だって、兵隊なんか……」

「ゴルド橋が落ちたという知らせを受けて、調べにきたのかもしれませんね」

「ありうるな。……橋を架けると同時に、オレが先導して連中を無力化する」

「セラ姫がいるんですよ?」


 ユウラが異議を挟んだ。


「彼女の前であなたはシェイプシフターの能力を使えない。……リアナさん、お願いできますか?」

「承知」

 

 リアナは愛用の二本の短刀を抜いた。慧太は言った。


「相手は十人くらいいるぞ? やれるか」

「楽勝」


 無表情だがリアナは頷いた。……頼もしい。

 ユウラも頷く。青髪の魔術師は、待機しているアスモディア――シェイプシフター製のシスター服姿だ――と二言ほど話した後、黒馬アルフォンソの荷物を降ろし始めた。

 入れ替わるようにセラが慧太の隣に立った。


「何があったんですか?」

「何も」

 慧太はそっけなく応じた。対岸のことをお姫様に知らせる必要性はない。

 セラは何か言いたげな表情になった。リアナが傍らで武器を抜いたのだ、何もないわけがない。だが、小さく息をついてそれ以上追求しなかった。慧太が言わないなら聞くまいと判断したらしい。


「それで、どうやって渡るんですか?」

「……実は、いままで君に黙っていたことがある」


 まるで他人事のような口調で慧太は言った。


「アルフォンソだが……本当は馬じゃない」

「馬じゃない……?」


 セラは視線を、アルフォンソへと向ける。荷物を取り去った黒馬は、のそのそと近づいてくる。


「私には馬にしか見えないのですが。……まさかロバだとかそういう冗談ではないですよね?」


 冗談ね――少し軽口に似たことを言える関係になったのかな。慧太は唇の端を吊り上げた。


「君が魔人嫌いだから、言うのを躊躇っていたんだが。アルフォンソは魔物だ」


 すっと、セラの目元が僅かに厳しくなったように感じた。


「シェイプシフターって知っているか?」

「……いいえ。初めて聞きます」

「姿を変える化け物だ」


 慧太は感情を込めずに告げる。だが内心では妙に緊張し、声がかすれないか不安になった。


「お化けとも妖怪とも言われている。姿を自由に変えることができるんだが……」

「姿を、変える? ……人間に化ける、とか」


 思わず慧太は笑い出したいのをこらえる。ここにまさに人間の姿をしているシェイプシフターがいる。


「まあ、そうだな。そうやって人を驚かせたりするらしい」


 自分自身のことではあるが、他人事のように振る舞う。

 セラは問うた。


「何故、それを今言うんですか?」

「シェイプシフターの能力を使ってゴルド橋を渡る」

「橋を、渡る……」


 銀髪のお姫様は、傍らで止まった黒馬をじっと見つめる。


「そんなことができるのですか?」

「できる」


 慧太は即答した。アルフォンソの首筋に手を当て、頭の中のイメージを送る。

 アルフォンソの影が伸びる。分断された箇所から黒いそれが伸びて、対岸側の分断箇所へと伸びていく。

 数秒で、シェイプシフターの分身体から伸びた影が向こう側に繋がり、即席の橋をかけた。慧太が頷けば、リアナが足音もなく橋を一気に駆けて行った。

 セラが「今のは?」と言いたげに視線をくれたので、慧太は「対岸の偵察」とだけ答えた。


「こんな簡単に橋を架けてしまうなんて。……ここ二日の足止めは何だったのかな」

「人前ではあまり使いたくなかった。町の人を驚かせたくないし」


 慧太は視線をセラに向けた。


「君が嫌がるかと思ったんだ。……アルゲナムのことがあるから、魔物と聞いて怒るんじゃないかなって」

「私に遠慮してたと」


 セラは睨むような目を向けてくる。


「確かに、あまりいい気はしませんね。……アルフォンソが魔物だって、私に隠してた」

「余計な気遣いはかけたくなかったんだ」


 自身の頬をかく。


「悪かった」

「いえ……」


 セラは俯いた。


「気を使わせてすみません。……ユウラさんやリアナも知っているみたいですけど……このシェイプシフターは危険がないと思っていいですね?」

「ああ、たぶん大丈夫」

「たぶん?」


 片方の眉を吊り上げるセラ。慧太は肩をすくめた。


「大丈夫だ。問題ない」


 ちょうど、対岸から定期的な金属音が聞こえた。剣戟――ではなく、一定のリズムで放たれるそれは合図だった。……リアナが対岸を制圧したのだ。

 さすが、リアナ。闇をついての奇襲はお手の物か。


 慧太は、アルフォンソの影から伸びたシェイプシフター体の橋に一歩を踏み出す。

 夜風がやや強かったが、幅も十分のため、よほど脱線しなければ落ちることはないだろう。


「頼もしい味方だよ、シェイプシフターは。……いちおう確認するけど、橋を渡ったら追い出すとか言わないよな」

「……言いませんよ」


 間があったのは気のせいか。


「だって彼――アルフォンソも、ケイタや傭兵団の仲間なんでしょ?」


 セラは小さく笑ったが、すぐに真顔になった。


「あの人に比べれば、アルフォンソは可愛いほうです」


 少しトゲがある言い方になったのは、ユウラの背後にたたずむ赤毛の女性――アスモディアにだった。


 ――そうだ。彼女がいるから、シェイプシフターだってバラしたんだ。


 慧太は意地の悪い顔になる。女魔人に比べたら、アルフォンソは如何にも無害そうだ。


 アルフォンソの架けた橋を渡った慧太は、ランタンで後続のために道を照らす。セラが抜け、アルフォンソが通過した。ユウラとアスモディアが分断箇所を渡り終わったのを確認した後、慧太はアルの分身体を回収させた。


 結果、橋は元の寸断された状態に戻るのだった。


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