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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四七八話、潜伏中隊の撤退


 レリエンディール近衛軍第二偵察大隊第三中隊は、リッケンシルト国王都エアリアから離れたメンヒ村――廃村になっているその場所の近くに潜伏していた。


『中尉殿』


 呼びかけられたコルドマリン人の将校――コメータ・アラテッラは、顔を上げた。異国風の顔立ちの、同族にしてはやや背の低い青年将校は、二メートル(ミータ)越えの長身の下士官のグリン曹長を迎えた。


『何かあったか?』

『エアリアに潜入させていた偵察が戻りました』


 表情ひとつ変えない無骨なグリンの報告。アラテッラは『うん?』と首をわずかに傾けた。


『定時報告とは違うようだね』

『はっ。敵に気づかれたとのことで、分身体を脱出させて第一報を』

『……それはよろしくないな」


 アラテッラは真顔になった。

 擬装天幕から出て、廃村の方を見やる。寒風が彼の青い肌に突き刺さる。まだまだ春は遠い。


『こちらの正体がバレたかな?』

『自爆で騙せたと思いたいですが』


 グリンは言った。


『ウェントゥス軍の主力がシェイプシフターであるなら、気づかれる可能性はありますが……』

『相変わらず、こちらも連中がシェイプシフターなのか人間なのか掴みきれていない』


 アラテッラは顔をしかめる。

 ウェントゥス軍にシェイプシフターがいるのは間違いない。彼らが使う偵察鳥は、まさにシェイプシフターであった。

 捕まえてみたものの、隙をみて自爆されて情報はとれなかった。結局、アラテッラたちは、ウェントゥス軍にどの程度のシェイプシフターがいるのか把握できていない。


『接触すれば早いんだが』

『しかしそれは敵にもこちらのことを知られることになりますから』


 グリンはアラテッラの横に立った。


『接触が原因で、どちらに転ぶかもわかりません。最悪こちらが乗っ取られる可能性もある』

『僕らはギャンブラーではないからね。危ない橋を渡ることはできない』


 とはいえ――アラテッラは天を仰いだ。


『何もかもこちらの都合よくいってくれないものか。ついでにウェントゥス軍もこちらの陣営に――』

『中隊長』


 グリンは遮った。それ以上はいうものではない、と顔に書いてあった。


『すまんな、ちょっとした現実逃避だ。なにぶんじっとしている時間が長すぎた』


 ウェントゥス軍がシェイプシフターを偵察に活用しているのなら、どこで見ているかわからない。ちょっとした動きが察知され、通報される可能性がある。

 冬の間は動物や植物など少なく、昆虫などはほぼ出歩かないが、それらが活発に動き始めたら、そしてその中にシェイプシフターが混じっていると思ったら空恐ろしい。今は季節に助けられているが、それでも窮屈なのだから、そろそろ動物が動き出すのは潜伏する身にはつらい。


『敵がこちらの探りに気づいたのなら、ここまでだな。陣を引き払おう』

『了解です』


 グリンは頷くと、背筋を伸ばし胸を張った。


『撤収よーいっ!!』


 先任曹長の号令を聞き、中隊の兵たちが潜伏拠点の片付けを始める。即時移動ができるよう作業時間はさほどかからない。痕跡を消すほうが少し時間がかかるかもしれない。


『肝心の慧太(けいた)氏は、はや前線に移動して王都にはいない。今度はそちらの線で追ってみるか』


 アラテッラが呟くと、グリンは振り返った。


『しかし、彼は今はアルゲナムに入っていると聞きますが』

『アルゲナムとの国境の前線ではなかったのか?』

『ご存じなかったのですか?』

『そういえば、情報交換をここ最近やっていなかったな』


 苦笑するアラテッラである。


『ここにいると、日々変化がなくてつい忘れてしまうんだ』

『外の情報くらいしか刺激がありませんからな、ここでは。あまり派手なこともできませんし』

『それが潜伏というものだろう』


 きっぱりとアラテッラは言った。自身も撤収のために装備を取る。


『それはそうと、慧太氏はアルゲナムに潜入しているのか』

『そのようです。偵察によると、アルゲナムの姫君を連れた上でずいぶん上手く浸透しているようです』

『姫君は本物か?』

『はい、あれはシェイプシフターではありません。扱いが丁寧過ぎます』

『ははっ、そうだろうな』


 シェイプシフターが化けているのであれば、雑な扱いもわからなくもない。表向きシェイプシフターの件は伏せているウェントゥス軍である。人前では姫として扱っても、誰も見ていないところならば敬う態度も必要がない。


『こちらが覗き見していることがバレているんじゃないだろうね?』

『さすがに潜入工作中ですから、覗き見されているとわかれば、即時排除するはずです。気づかれてはいません』


 馬鹿正直に工作を敵に見せるなんてあり得ない。こちらが何者か把握していない以上、レリエンディール軍のスパイであると思うのが自然であり、であれば工作が通報されては彼らの潜入は無駄になる。以上、気づいていて放置はない。


『こちらもリッケンシルトの情報は得られた。肝心のウェントゥス軍についてはガードが固すぎて、いまいちではあるが……探ろうとして見つかっては本末転倒だ』


 アラテッラが装備をまとめると、部下たちが集まってきていた。グリンが『整列!』と兵たちに号令をかける。


『集まりました!』

『よろしい。近衛軍第二偵察大隊第三中隊は、偵察行動を終了。アルゲナム国境まで後退する。敵はこちらの動きを察知し追撃してくる可能性もある。くれぐれも油断なく、素早く静かに行動せよ。以上――曹長』

『撤収!』


 偵察中隊は森を移動し、廃村からさらに距離をとった。目指すは国境である。


 ――慧太は、今頃何をしているのやら。


 アラテッラはうっすらと曇る空を淡々とした表情で見上げ、そして森を後にした。

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