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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四六七話、オルセン村の戦闘


 それは突然やってきた。

 街道を固めていた魔人軍歩兵中隊は、視界に青い何かが現れたことに驚いた。


『なんだ、あれは……?』


 森からいきなり、熊が飛び出してきたような。あまりに唐突過ぎて、呆然としてしまった。


『こっちへ来るぞ!?』

『構えろ! 配置につけっ!』


 青肌のコルドマリン人の指揮官が叫ぶ。雑兵でもある豚系魔人であるセプラン人歩兵が槍を構えて、村への侵入を阻止する。

 すでに街道を封鎖している形なので、その配置はほとんど変わらない。


『突っ込んでくるっ!』


 兵たちは動揺を隠せない。

 向かってくるのは大柄の角猪にも匹敵する巨体。ジャイアント種族が棍棒を振り回して突っ込んでくれば、歩兵にとっては大惨事であるが、それと同じことが起こりそうな気配がビンビンである。

 コルドマリン人指揮官も、緊張から唇を舐めた。


『あれは、魔鎧機というヤツか……!』


 第四軍がルガンという機械兵器を作ったという話は聞こえている。それらは、人間たちが使う魔鎧機という魔法、もしくは機械兵器に対抗する意味もあったとかどうとか。


『我が軍でなければ、アルゲナムゲリラか!』


 冗談ではない。コルドマリン人指揮官は毒づく。あんなもの、敵として想定されていない。

 その間にも青い魔鎧機は、重量ある足音を響かせて、猛スピードで突っ込んでくる。これは当たったら跳ね飛ぶだけでは済まない――特に正面の魔人兵らは、己に降り掛かるであろう運命を悟り、青ざめた。

 だが周りは横列でぎっしり固めて壁を形成しているため、自分だけ抜け出すということはできない。


『槍を向けろ! 串刺しにしてやれーっ!』


 指揮官としては珍しく、コルドマリン人は叫んだ。セプラン人たちが怯えている。正面にもいないが自分も震えていた。兵たちが逃げ出さないよう、鼓舞するために声を張り上げた。

 だが――


『おらおらーっ! 逃げねえと潰れるぞぉっ!』


 青い魔鎧機から女の声がして、耳を疑ったのもつかの間、歩兵の壁は激突した。槍は折れ、正面に立っていた魔人兵が潰れ、それは壁に伝染した。

 ドミノ倒しよろしく、密集していたからこそその勢いに巻き込まれて壁は崩れていく。


 青い機体――グラスラファルは、その腕を振り回し、倒れた壁、そして無事だった兵を薙ぎ払った。

 吹き飛ばされ、近くの民家や、獣除けの石壁にぶつかり、さらに犠牲が増える。

 吹っ飛んできたセプラン人の死体を押しのけ、コルドマリン人の指揮官は立ち上がる。


『囲めっ! 倒せーっ!』


 魔鎧機は立ち止まっている。そこを数で攻めれば何とかなる。動きを止めて、中に乗っているだろう人間を引きずり出してやる――


 怒りで自らを奮い立たせるコルドマリン人指揮官。

 だが、次に飛び込んできたのは、グラスラファルの手から生成された氷塊。それらが放たれ彼の胴体を分断した。

 射線上にいた兵たちもまた氷塊に貫かれ、あるいは潰された。


 魔鎧機は、ただの機械ではない。魔法に似た攻撃を使える鎧でもある。そしてグラスラファルは、むしろこうした氷塊を飛ばす魔法攻撃が得意な機体であった。



  ・  ・  ・



 放たれた矢は、民家の屋根から周囲を見ていたセプラン兵の目を穿ち、その脳を貫いた。それは糸の切れた人形のように、屋根から転げ落ちる。


 ――相変わらず、いい腕だ。


 慧太は、リアナの弓術に感心しつつ、身を低くしながら村へ迫っていた。セラ、サターナもまた走り、先行したヴルトら狼人らが石壁に辿り着く。

 数名が壁を乗り越え、村に侵入を図る。そしてヴルトは、石壁の前で構えた。


「ボス!」

「おう!」


 足場になってくれる。慧太は石壁を乗り越え、反対側へ。サターナ、セラも狼人のサポートですぐに壁を超えた。

 左手方向で、派手な衝突音と魔人兵らの悲鳴が聞こえてきた。どうやら、アウロラがグラスラファルで派手に暴れているらしい。


「始まった」


 慧太は、セラたちに合図すると、村の中央目指して動く。

 通りを覗き込めば、魔人兵の一部が、村の出入口で起きている騒動の増援に向かって行くのが見えた。

 いい陽動になっている。グラスラファルは単機ではあるが、歩兵を凌駕する機動性と、遠隔攻撃が可能な点で、一対複数の相手も充分に時間稼ぎができる。


 ――まあ、アウロラなら、全部やっつけてしまっていいんだろう、くらい言うんだろうが。



  ・  ・  ・



 アルゲナムゲリラは、広場近くに民家に追い詰められていた。

 広場での村人と捕虜となった同志の処刑の場に突入したのだが、魔人軍は表だけでなく、裏にも兵を潜ませていた。


 結果、四方八方から矢が飛んできて、突入した半分が、あっさりやられた。勢いをなくしたゲリラは、負傷者を抱え、近くの遮蔽に隠れるが、半ば包囲された形で、さらに犠牲者が増え、ようやく近くの民家に逃げ込んで、殲滅を免れた。

 だが矢に撃たれて、動けなくなった何人かは、魔人兵らに新たに捕まり、抵抗した者はその場で殺された。


「隊長、お怪我を……!」

「大丈夫だ」


 元アルゲナム近衛隊長、メイア・マグノーリアは、腕をかすめ流れた血を拭った。


「毒でも塗られていれば別だが、そうでなければ掠り傷だ」


 気丈にも、同志たちの士気を下げないように言ったメイアだったが、表情は険しい。

 処刑がゲリラを誘い出す罠なのは、予想していた。しかし助けに逸る同志たちを止めることができなかった。

 その結果が、さらなる仲間たちの死と、ゲリラ戦闘部隊の壊滅。悔やんでも悔やみきれない。我々が全滅したら、誰がアルゲナムを支配する魔人軍に抵抗するのか。


「あるげなむの反乱分子にツげる!」


 家の外から、下手くそなアルゲナム公用語が聞こえた。


「抵抗はムダだ。ただちにこうふくせよ!」


 指揮官である魔人が投降を呼びかけているのだ。捕虜に代わりを言わせるとかできるだろうに、わざわざ自分たちで言うのは、魔人なりのプライドだろうか。


「ふざけたことを……!」


 同志の一人が吐き捨てる。


「降伏したら、そのまま処刑するつもりだろうに……!」


 どうあっても、最後まで抵抗するしかない――アルゲナムゲリラが覚悟を決めた時、それは起こった。

 離れた場所から聞こえた轟音と、戦場音楽。何者かは知らないが、魔人軍に抵抗する者たちの到着を告げる調べが、ゲリラたちの耳に届いたのだった。

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