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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四五八話、イレギュラーは起こる


 ナシューンの町にほど近い森。というより町と町の間を走る街道の周りは、手つかずの自然、つまりは広大な森が広がっている。


 魔人軍が制圧している町に堂々と乗り込むわけにもいかないので、近くを通る時は自然と森に入ることになる。


 この森に入るという行動は、ある種の緊張を慧太(けいた)は感じる。平源からは、森の奥は見えないが、逆に森からは平原が丸見えだ。

 敵の斥候が潜んでいれば、その時点で通報の伝令が走るだろう。


 警戒のために、リアナやヴルトら嗅覚、聴覚の強い前哨を送ってはいるが、それで充分かと言われると疑問である。

 飛行型シェイプシフターでは、森の上空から偵察は難しい。こちらの斥候が用心して、森に近づいても、それとはまったく違う遠い場所から目撃される恐れもあるのだ。


 とはいえ、そこは前もって潜入していた部隊が、魔人軍に入り込み、こちらの侵入ルートに魔人斥候が行かないよう手を打っていたりする。阻止が不可能な場合は、こちらに知らせてくるので、タイミングを変えてやり過ごしたりもできる。


「じゃあ、何が不安なのよ?」


 サターナが、緊張の表情を浮かべている慧太に問うた。相変わらず表情を見抜くのが上手い。


「敵ってのが、魔人軍だけじゃないからさ」


 町を追われ、逃亡の果てに盗賊になったアルゲナム人とか。魔人軍に取り入るネタを探して彷徨いている者もいるかもしれない。


「あとは、正規の軍とは離れて行動している特別部隊とかさ」


 ナシューンの町の魔人軍とは別の命令系統、行動を取っている部隊がいると、発見、通報の可能性もある。


「聞いた話だと――」


 潜入部隊からの報告を思い出して、慧太は言った。


「なんでもレリエンディール本国から、魔人の傭兵がちらほら軍に協力するために出稼ぎにきているんだそうだ。軍にくっつくこともあれば、軍での雑務を実行している、とかさ」

「ああ、そう」


 サターナは納得したような顔になる。


「ここらだと、食料調達部隊とか、あるいは残党狩り、町などからの逃亡者を捜索とか、かしら」

「まあ、そんなところだろうな」


 慧太は視線を飛ばす。幾ら睨んだところで、森に隠れている者を見つけるのは難しい。動いていれば、目にも留まりやすいのだが、じっとしている場合は特に困難だ。

 だから、突然茂みから頭を出されると、反射的に身構えてしまうわけだ。……ウェントゥス兵だった。

 前衛組がすでに森に入り、警戒済みということだ。慧太は部隊に合図し、急いで森へと移動させた。


 リアナやヴルトたちが、展開して敵性存在が来ないか監視していた。それをみて、ようやく一息つく。


「森の淵に沿って移動する」


 セラが、町を一望したいというお望みだ。平原を歩いている敵がいれば、こちらはすぐに森の木や茂みに伏せられる。


 用心を重ねて、潜入部隊は森から平原が見える位置を、街道のある平原に沿って歩いた。森の奥側には亜人組がその聴覚と嗅覚を動員して警戒している。


 やがて、ナシューンの町が見えてきた。外壁に囲まれた町だが遠景過ぎて、ここからで町の様子は見えない。


 ――これは、セラの望みとは違う展開だな。


 慧太は心の中で呟いた。

 彼女のことだから、町の様子が見える場所へ行きたいという希望だっただろう。しかし実際は、高さの関係上、町の中は見えない。

 しかし、遠くから見える場所という、約束自体はこれでも果たしているからたちが悪い。そう、約束は違えていないのだ。


 ――さて、セラに何て返そうか。


 これから起こる可能性を頭の中でシミュレートする慧太だったが、事態は悪い方に転がる。

 上空警戒のシェイプシフターバードからの通信が入る。


『イーグルより、モグラ。町より、そちら方面に移動するものを確認』


 こちらへ来る――慧太は歯噛みした。


「パトロールは、こっちに来ないはずだ」


 ウェントゥス斥候兵の情報ではそうだった。

 イレギュラーだ。慧太は仲間たちにハンドシグナルで伏せろと合図しつつ、魔力通信機に呼びかける。


『モグラよりイーグル。詳細送れ』

『こちらイーグル。どうやら町からの脱走のようです。民間人三名。うち一名は幼児の模様。大人に背負われています』


 くそっ――慧太は悪態を内心に留めた。町からの脱走が本当なら――ナシューンから出てきたならその可能性が高いが、子供連れとなると見過ごすのは難しい。


「厄介ね」


 そばにいたサターナが、通信を聞いていたようで、俯きながら言った。キアハたちといたセラが、こちらへしゃがみながら近づいてくる。部隊を止めた理由の確認だろう。


「ケイタ?」

「町から民間人が森に向かっているらしい……」


 嘘をつくわけにもいかないので、慧太はありのまま答えた。茂みから頭をゆっくり出して、町の方向を見る。鷹の目――シェイプチェンジで視力を強化。双眼鏡で見るように拡大。


 ――いた。


 フード付きの外套を来た二人。さらに小さな子供がひとり、大人に背負われているらしい。


「民間人?」

『イーグルよりモグラ。町から武装した小部隊が出てきました。脱走者を追尾する捜索隊のようです』

「最悪だ。追っ手がついた」


 町の魔人軍守備隊も、中々早く動いた。これはますます面倒になった。民間人が森に逃げ込めば、敵捜索隊も森に入ってくるだろう。潜伏するこちらとの遭遇、戦闘もあり得る。


 ――それだけじゃ済まないよな。


 魔人兵に終われている以上、セラだけでなく、潜入部隊の大半が民間人の救助を考えるだろう。つまり、敵との衝突不可避だ。

 慧太の中では、すでに民間人を救助した上で、町に通報されないように敵捜索隊を殲滅する作戦プランを考える。

 こういう突発事態にも対応してこその潜入部隊だ。


「ケイタ、民間人は――」

「わかってる。森に入ったところで、保護。追っ手は待ち伏せで仕留める」


 セラが、アルゲナムの民を助けようというのはわかりきっている。だから彼女にも、慧太がその先を考えていることを理解してもらう。


 助けるつもりだから、勝手に飛び出さないように。言葉にしなくてもわかってくれるだろう、というのは思い上がりである。命がかかっている戦場での意思疎通は、しつこいくらいに確認するのが、失敗を回避する近道である。


「全員へ。敵を待ち伏せる。森に入るまでに不用意に飛び出すな」


 敵の一部に町へ報告に戻られれば、さらに面倒になるから。

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