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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四五六話、張り詰めていた糸


 慧太たちアルゲナム国潜入部隊は、セラの故国に足を踏み入れた。


「わかっていると思うが、今ここは敵地だ。油断するな」


 そう口にした時、慧太は舌先がざらつくのを感じた。セラが刹那、表情を硬くしたのを見たからだ。

 自分の国が、魔人たちによって支配されている。自由に歩けたその土地が、今や普通に歩いただけで捕まる――それを考えれば、セラが眉をひそめるのも無理はない。

 アウロラがやってきた。


「それで、将軍。あたしらはこれからどうするんだ?」

「偵察だよ」

「いや、そうじゃなくて」


 褐色肌の魔鎧騎士は、地平線を指さした。


「ここからどっちへ行くんだ? あっち? それとも、こっち?」

「そっち」


 街道が走っているそこから離れた位置を、慧太は指さした。


「基本、街道を通っていけば町について、そのまま進んでいけば、いずれ聖都に続いている。ただ――」

「町や集落は、第六軍が占領している」


 サターナが背伸びした。


「馬鹿正直に街道を歩くなんて、見つけてくださいって言っているようなものね」

「だがその街道は、アルゲナム奪回の時に使うことになる」


 慧太は歩き出した。


 街道は、人が通る道だ。しかも中央の聖都から国境まで通じている道は、大抵、馬車などでも通行が可能なように整備されたものとなる。つまり、軍の進撃路でもある


「だから当面は街道に沿って歩く。これも偵察の一環だ」


 下見が任務でもある。セラが追いついてきた。


「街道から離れてますけど、大丈夫でしょうか?」


 平原であれば、街道からもこちらが視認できる。その指摘だろうが、慧太は天を指さした。


「使い魔が飛んでいるよ」


 シェイプシフター鳥が、常時空にいて、地上を監視しているので、たとえばレリエンディール軍の小部隊が移動していようが、こちらを捉える前に通報される。

 リアナやヴルトらが前衛につく中、潜入部隊は、所々に雪が残るアルゲナムの地を歩く。


「……セラ、気になっていたんだけど」

「何です?」

「それ」


 慧太は、さりげなく言った。


「最近、余所余所しくなってない?」


 気になっていた。リッケンシルトで魔人軍と戦っていた頃は、かなり打ち解けてタメ口だった。

 ところが、リッケンシルトの王都エアリアを出て、敵を追撃している頃から、初めて会った頃の敬語に戻っていた。


 緊張していたり、あるいは先日打ち明けてくれた『自分のせいで、ケイタたちを付き合わせているのではないか』という不安のせいかとも思った。

 しかし、それ以後も変わらず、今も敬語だった。


「あー、えっと……」


 セラは指先で頬をかきながら、視線を彷徨わせた。


「その……こういうのはきちんと線引きが必要と、思うの」


 恥ずかしがっているように声を落とすセラ。慧太は首を捻る。


「線引きとは?」

「あなたは、ウェントゥス軍の将軍でもあって――」

「それを言ったら、君はアルゲナムの姫君だ。オレの方が君に敬語を使わないとな――」

「それはやめて」


 セラは首を横に振った。


「でも、そのある程度の線引きは必要だと思うの。……その、私は一応、王族で、姫。でもあなたは――」

「平民で、どこの馬の骨とも知れぬ傭兵?」

「そういう言い方もやめて」


 ああもう、とセラは、わずかに苛立ちを見せる。


「ごめんなさい。上手く言えないんだけれど……その」


 お姫様は声をさらに落とす。


「私たちは、その……かなり、親密な関係……だと思う」

「そうだな」


 同じベッドで眠ったりするのは充分親しいだろう。肌が触れることはあっても、性的な行為はないというのがまた不思議なところではあるが。


「だから、周りから誤解されたくないというか……」

「誤解?」


 慧太は小さく笑った。段々話が見えてきた。


 周りに話が聞こえていないように声を落としているが、警戒しながら歩くサターナがニヤニヤしている。おそらく聞き耳を立てているのだろう。キアハはアウロラと話していて、こちらには気づいていない。


「つまり、君はこう言いたいわけだ」


 慧太は真面目ぶった。


「オレと君が親密な関係であるのを、周りに悟られないように、わざとオレに対して距離をとって、将軍とお姫様の立場を演じているわけだ」

「……」


 頬が赤いと指摘したら彼女は怒るだろうか。セラは視線を逸らしている。


「すっごく、今さら感ない?」

「こういうのは、大事なんです」


 セラも真面目に応じた。


「そう、確かに近しい人たちは、それとなく知っているでしょうけど――」


 ププっ、とサターナが笑いを噛み殺した。笑ってやるなよ、と慧太は気づかぬフリをする。


「ウェントゥス軍や、リッケンシルトの人たち、アルトヴューの人たち、獣人の方々もいるわけで……そういう人たちは知らないわけじゃないですか。さらにこれからアルゲナムの人たちとも会うでしょう? そういう時、距離感ってとても大事になってくると思う」


 ――確かに。特にアルゲナム人からすると、セラは自分たちのお姫様だからな。

 親しいが親密とあれば、地元民たちにとっては大きな問題だろう。


「だけど、その理屈でいけば、敬語を使わなければいけないのは、むしろオレの方では?」


 ウェントゥス軍の将軍と、アルゲナムの姫君。どちらが立場が上かと言えば、断然後者だろう。一傭兵軍の将軍は、別に王族でもない。もちろん探せば貴族の傭兵将軍はいるかもしれないが。


「以後、気をつけます、セラフィナ・アルゲナム姫」

「だからぁ……あぁ、ほんとに」


 セラが頭を抱えた。


「違うの。あなたには呼び捨てでもいいから、セラって呼んでほしいの」


 ――何だろう、この可愛い生き物。


「私も気をつけるけれど、私の敬語も見逃してほしい。アルゲナムの民の前では、私は基本敬語で通していたから、今からでも癖を戻しておきたいから」


 それでなくても、しばらく傭兵たちと行動して言動が砕けたものになっているから、とセラは言った。


「そっちはそっちで可愛いと思うけどな」

「……っ!」

「あっはははっ!」


 とうとうサターナが笑いをこらえられずに、声を上げた。ちら、と彼女と目が合い、セラは笑われた原因が自分にあるのを悟った。


「聞いていたの!? ひどい! 笑わないで!」


 セラがサターナにもとへ走り、彼女もまた逃げ出す。慧太はとても微笑ましくなった。


 王女様がここまで砕けた表情を見せたのが実に久しぶりだったから。近くにいたのに、思えばずっとセラは緊張していたのかもしれない。


 この笑顔がもっと見られるといい。慧太は思ったが、自然と眉間にしわが寄った。おそらくこのアルゲナム潜入中は、たくさん彼女を悲しませるだろうことが容易に想像できたからだ。

不定期更新(来月はちょっとわからない)

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