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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四五三話、行動前夜


 リューヌフォール防壁の情報を得て、慧太(けいた)たち斥候部隊は、本隊に戻った。


 リーベルの町の拠点化が進められる中、慧太は仲間たちとの情報共有を図り、これからの話をする。


「防壁突破のための策は追々始めるとして、今は、春のアルゲナム奪回に向けての情報収集期間だと考えている」


 そう言った時の、セラの感情を削ぎ落としたような表情は、ある意味見る者に不安を与えた。

 キアハや、セラ付きの侍女という扱いになっているマルグルナも、セラが何か言い出すのではないかと注視した。


 ここにいるウェントゥス傭兵軍の中で、一番、アルゲナムに執着しているのがお姫様であるセラだ。魔人に故郷を奪われ、その故郷が目の前にあれば、季節など関係なく足踏みなど我慢のならないことだろうから。


 だがセラは、何も言わなかった。言いたいことは山ほどあるだろうし、言ってごらんと催促したら、雪崩の如くそれをぶつけてくるに違いない。


 ただ、それが感情的なものであり、王女として、リーダーとして相応しくない行為だという自覚がセラにはある。


 ――この娘はいつだって、我慢しているんだ。


 慧太もそれをわかっていた。リッケンシルト国も冬のうちに奪回してしまったから、春まで待たされる理由は、セラには理解できないし、したくないことだろうことも。


「本音を言ってしまえば、兵站がきつい」


 慧太は告げた。


「季節的に、もうしばらく冬は続くが、現状、食料事情はカツカツだ。アルゲナムへ入って集落を解放していった際、保護した民に食事を用意してやることができない」

「……」


 リッケンシルトでは、リッケンシルト軍に自国の民の面倒をみてもらった。だからシェイプシフターが大半で、食料の備蓄が極少数でも動けるウェントゥス傭兵軍は、レリエンディール第四軍に、兵站問題を押しつけつつ相手に縦横無尽に暴れ回ることができた。


 だがアルゲナム国となると、奪回した土地の面倒は、王族であるセラ、そしてウェントゥス傭兵軍で面倒を見なくてはならない。敵から奪った食料はあるが、それでもすぐに底をつくことが予想される。安易に助けて、その後、民を飢え死にさせるようなことは当然、セラも望んではいないだろう。


「でも、何もしないとは言っていない」


 慧太の発言に、セラの目が瞬きで反応した。彼女は不満や言いたいことを心の中に溜め込んで、思考をそちらに取られていたのかもしれない。


「春にアルゲナム国を奪回するが、それまでにアルゲナムにいる住民の状況確認、場合によっては救援活動を行う。春の攻勢まで、生き長らえるように」


 冬の寒さや、食料不足の餓死者を極力減らす。そのために――


「アルゲナム国に潜入して、攻略のための偵察と下準備、そして救助活動だ。……セラ、当然、来るよな?」

「もちろんです!」


 彼女の目が、今日一番輝いていた。そのためにここにいる、と言わんばかりだ。つっかえていた靄が晴れたような、そんな表情に、サターナは苦笑し、キアハもどこかホッとしたような表情になった。


 ――うん、やっぱ、そっちのほうがいいよ、セラ。


 抱え込み過ぎて、顔を強ばらせているのは、健康にもよくないと慧太は思った。



  ・  ・  ・



 リーベルの町内、ウェントゥス傭兵軍本部。魔人軍が利用していた兵舎を流用したそこに、ウェントゥス傭兵軍の幹部たち――いわゆるシェイプシフター兵以外のための部屋が用意され、各々が休んでいた。

 将軍ということもあり、慧太も個室があるが、そこへセラが訪ねてきた。


「ご一緒してもよろしいですか?」

「一緒に寝ましょ?」

「まあ……そういうことです」


 セラは照れたように視線を泳がせた。前回は未遂だったし、それ以後は、色々あってこういうことはなかったが。


「添い寝だけな」

「添い寝だけで」


 何となく察していた。セラが、一応男である慧太の部屋にやってきたのは、男女の関係を匂わせるが、先ほどのアルゲナム国潜入を告げた時のそれに、セラは感謝の気持ちを持っている。

 お礼の気持ちが後押ししたのだろうが、守ってきた大事なものを、そういうお礼の感情でしてしまうのは、どうも後ろめたいものがあった。


 衝動ではないか。それで抱く、抱かれるのは、後で考えて後悔の種になるのではないか。そういう思いがよぎってしまうのだ。

 そしてセラもまた、部屋には来たが、添い寝だけに不満はなさそうだった。緊張なのか、気恥ずかしさなのか、しかし和やかな彼女は、それだけで満足しているように見える。


「気をつかせているなぁ、って思うんです」

「ん?」

「アルゲナムの国境まで、私が前線に行きたいと言ったから、ケイタや皆をここまで連れてきてしまった……そう思うんです」


 否定できない部分ではある。だが――


「君が春までリッケンシルトで大人しくしていたとしても、魔人からアルゲナムを取り戻すための情報収集や工作活動はやっていた。セラは何も悪くないよ」


 事前の偵察活動は、当たり前。むしろ、春まで訓練しかしないとでも思ったのだろうか?


「全部自分のせいとか思っていないか?」

「それは……」


 セラが目を逸らした。思っていたのだろうことは、お察しである。


「まあ、確かに君がいなければ、こんな形でアルゲナムに侵入することはなかったかもしれない」

「……ケイタ」

「ただ、そのおかげで、アルゲナムの民も幾ばくか救うことはできるかもしれない。君がいなければ、助けられなかったかもしれない命をね」


 セラを抱きしめる。


「一つ、約束してくれ。潜入でできるだけ、アルゲナムの民を助けるつもりだが、状況によってはそれが叶わない場合もあるかもしれない。君にとってはとても辛いことだと思うけど、それでもオレの指示には従ってほしい。お願いだから、一人で突っ走らないでくれ」

「……うん」


 セラは俺の胸に顔を埋めた。正直、民に危険が迫れば、彼女は制止を振り切って行動してしまう可能性が高い。

 本音を言えば、連れて行くことでトラブルを引き起こしてしまう恐れもあった。だがセラを置いて、それに彼女が黙って従うかといえば、これもノーだと思う。

 どうせ、乗り込むかもしれないなら、連れていく。手の届かないところで勝手に動かれることに比べたら、遥かにマシだ。


「君が無茶をして何かあったら、アルゲナムの民が悲しむからな。もちろん、オレも」


 一人じゃない、仲間がいる――それをセラが強く意識してくれれば、そういう暴走も抑えられるのではないか、と、慧太は思うのだ。

不定期更新。

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