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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第三部、アルゲナム解放編

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第四四九話、リーベルの町攻防戦


 ウェントゥス軍の先鋒である騎兵第三連隊は、リーベルの町の手前に到達した。


『何とも面倒なことだ』


 第三連隊を指揮するシェイプシフター、ダシューは思わず呟いた。彼は突獣バラシャスの背に乗り、緩やかな傾斜の先にある外壁に囲まれた町を見つめる。


『何もないように見える。おう、何もないか?』

『少なくとも、眺めた限りは』


 シェイプシフター騎兵は答えた。


『しかし、町には敵部隊が駐留しており、こちらを待ち構えています。殿軍というやつですな』


 生還を期さない足止め部隊。全滅確定の居残り組。撤退する軍において、全軍崩壊からの全滅を避けるための、トカゲの尻尾。貧乏くじ。与えられる任務の中で、指名されたくない任務の上位だろう。


『逃走した第四軍の敗残兵は、今頃、アルゲナム国境か』

『追いつけませんでしたな』

『いや、すでにかなりの残党を狩ったのだ。少しくらい見逃してやるさ』


 ――でなければ、敗残兵に紛れ込ませた工作員が潜入する分まで狩ってしまうから。


 ダシューは、慧太(けいた)からの命令をきちんと遂行していた。セラフィナ・アルゲナム姫の故郷のスムーズな奪還のため、敵の情報の獲得は重要である。

 ゼーエンら諜報部隊はもちろん、第四軍に潜り込ませた休眠工作員たちの行動は、今後の戦いを左右する。


『町にいる敵は?』

『およそ1個歩兵中隊。敗残兵という割には、元気そうな連中のようです』


 シェイプシフター騎兵は偵察報告をする。


『ほう、元気そうか。士気が高いのが残っていたか』

『まだ精神的に余裕があるといいますか、表情などにあまり悲壮感がないらしいですな』

『捨て駒ではないのか……? 妙だな』

『援軍が来る様子はありません。敵は間違いなく国境へ逃走しました。にも関わらず――』

『士気を保っている、か』


 ダシューは首をわずかに傾けた。町に立て篭もっている魔人兵たちからすれば、討ち死に確定の状況だ。援軍もなく、取り残されている現状、自分たちの命運が尽きようとしているにも関わらず、闘志を残している。目の前で死がちらついているいるだろうに。


『やる気のある兵隊は厄介だな』

『まったくですな』

『町に住民はいるのか?』

『いえ、敗残兵が荒らしていったようで、町の住民は殺されたか、逃げたと思われます。近くの森に逃げ込んだ元住民と思われる人間を複数、偵察隊が目撃しております』


 リーベルの町は、逃げてきた魔人兵によって食料などが奪われたのだろう。装備を捨て、身軽になっている敗残兵も、さすがに食料や水を確保しなければ、遅かれ早かれ力尽きる。


『住民がいないのなら、思い切りやれるな』

『人質がいないのは、何ともありがたい話であります』


 シェイプシフター騎兵は正直だった。ダシューは言う。


『まあ、人質がいれば、それを助けつつ攻略する策で行くだけだがな』


 我らシェイプシフター兵。その用兵は、変幻自在、臨機応変。


『さて、それではあの町をどう攻めるか』

『我々は騎兵です。全力で斜面を疾走し、外壁まで到達――』


 シェイプシフター騎兵は淡々と告げた。


『そこから騎兵が外壁を確保し、そこから流れ込む……。セオリーですな』


 姿を変える化け物にとって、垂直の壁も梯子なしでよじ登れる。


『セオリーだな』


 しかしダシューの声は苦味に満ちていた。


『しかし、この地形は気に入らない』

『微妙に、全部登りですからね。突獣では重みで若干足を取られます』

『コンプトゥス軽騎兵ならば、どうということはないが……』

『アレですな』


 シェイプシフター騎兵は苦笑したようだった。


『外壁手前の、丸太の輪切り』

『アレ、こっちが近づいたら、絶対に転がしてくるぞ』


 斜面に沿って切った丸太が転がってきたら、登りで騎兵の跳躍力も落ちているから回避も難しい。


『しかもご丁寧に、油が塗ってあるらしいじゃないか』

『転がす時は、火をつけてくるでしょうな。十中八九』


 物理耐性は凄まじく高いシェイプシフターだが、一方で火には弱い。矢の雨が降ろうとも死なないが、そこに火の要素が加わるだけで、途端に雑兵と化す。


『燃えない石材にでも化けますか?』


 皮肉げにシェイプシフター騎兵は言った。スライムも火に弱いが、それらと違ってシェイプシフターたちは別素材に体を変えることで、多少の火耐性を獲得できる。


『この騎兵連隊が全員シェイプシフターでよかったな』


 ダシューは皮肉げに言った。もし人間と一緒にいたなら、正体露見を防ぐために、わかっていても目の前で変身しての回避はできない。


『目の前に明らかに、我が連隊を苦しめる存在が確認されているのに、そのまま突撃するというのがよろしくない』

『しかし、我々は騎兵です。騎兵部隊の戦いは、平地で突撃をかますことです』

『こういう時、レーヴァの第二連隊だったら、飛竜で空から攻めただろうにな』

『やりますか?』


 シェイプシフター騎兵は、ダシューを見た。


『我々は、シェイプシフターです』


 変幻自在、臨機応変!



  ・  ・  ・



 突獣バラシャスに化けているシェイプシフターを、ワイバーンに変身させる。ダシューの第三騎兵連隊は、空の騎兵となって、リーベルの町に突撃をかけた。

 飛行するものに、斜面を活かした丸太転がしは、まったく効果を発揮しない。ダシューたちは、レーヴァの空挺隊に倣って、空から外壁の敵をシ式クロスボウで攻撃し、強襲兵を降下させた。

 殿軍の魔人兵たちも武器を手に対抗するが、矢による迎撃は効果なく、また乗り込んできたウェントゥス兵は精強無比。中身が人間ではなくシェイプシフターなので、その物理打撃も高く、次々に討ち取られていった。


「くそっ、くそっ!」


 魔人兵たちはヒステリックに、恐怖を貼り付けて抵抗した。


「話が違う! 奴ら、空から――あうっ」


 ウェントゥス=シェイプシフター兵の短槍に胴を貫かれ、トドメを刺されるセプラン魔人兵。

 中隊司令部も、想定を超えるウェントゥス軍の侵攻に恐慌をきたしていた。士気があるとは何だったのか、と思えるくらいに脆く、町の門を開放されたことで入り込んだウェントゥス軍大隊まで雪崩れ込み、勝敗は決した。

 地形を利用し、態勢を整えていたレリエンディールの殿軍部隊は、町の防御効果をまったく活かせないまま、烈火の如く攻められ、壊滅した。


 リーベルの町は、ウェントゥス軍によって確保された。

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