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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
アルゲナムへの道 編

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第四四四話、終着点


 慧太(けいた)とセラが、ウェントゥス軍と共に王都エアリアを離れる。

 その話は、リッケンシルト王室はもちろん、一般の王都住民に衝撃を与えた。


 何より、急すぎる。


 ルモニー王もコルド将軍も、他の幹部はもちろん、ウェントゥス軍やセラ姫目当てに集まった商人や貴族たちの動揺も激しかった。


 止める間などほとんどなかった。


 ハイムヴァー宮殿の中庭に整列したウェントゥス軍突撃兵連隊はさっさと出発をはじめ、事情を聞こうとした者たちは、その背中を見送ることしかできず、集まったリッケンシルトの民も出兵する兵たちを見守るのみだった。

 とはいえ、副団長であるユウラや、一部兵力が王都に残ったため、混乱は最初だけで、すぐに沈静化した。


 ハイムヴァー宮殿の拡張された地下区画――魔人軍第四軍が駐屯した際、ベルフェが兵器製作のための拠点としてこしらえた施設は、現在ウェントゥス軍の管理下にある。


 工房……いや、高度に近代化された工場区画は、ルガンタイプ戦闘機械の開発と運用のために広く、魔導動力で動くエレベーターは、地下で組み上げた巨大物を地上へと運ぶ能力を有していた。


 そしていま、工場には、王都の戦闘で損傷、鹵獲ろかくされたルガンが数機が収容されている。それをウェントゥス兵とベルフェがなにやら話し込みながら、点検作業を行っている。


 ユウラ・ワーベルタは、工場のキャットウォークと呼ばれる狭い通路上から眼下の様子を眺めていた。その傍らには赤毛の巨乳シスター、アスモディアがいる。


「どうです、アスモディア? ベルフェの様子は?」

「仕事には熱心に取り組んでいます」


 元魔人軍第五軍の将である赤毛のシスターは事務的に応じた。


「ケイタやサターナがシェイプシフターの変身能力を吹き込んだおかげで、新しい素材が手に入ったと喜んでおります。新型兵器の設計図を引き始めたようです」

「シェイプシフター素材の新型兵器……? やれやれですね」


 ベルフェの研究好きに、さすがのユウラも苦笑いである。


「サターナさんに魔鎧機をと頼まれましたが、僕よりもベルフェに作らせたほうがいいかもしれませんね」

「サターナが、マスターに魔鎧機製作の依頼を……?」

「あなたが楽しそうにアレーニェを乗り回すので、刺激を受けたかもしれませんね。いや、ひょっとしたら、シフェル・リオーネが当主の座をついで専用魔鎧機を手に入れたことが直接の原因かもしれません」

「……確かに、リオーネ家とリュコス家は激しいライバル関係でしたから、シフェルが魔鎧機を持っていれば、サターナも強烈に欲しがるでしょうね」


 アスモディアは両者の人間性を考え、そう答えた。


「……そういえば、先の戦いで、シフェルは専用魔鎧機を使わなかったと記憶しておりますが……。当主を受け継いでいたというなら、あの場で使えばウェントゥス軍の脅威となりましたでしょうに」

「……サターナさん曰く、シフェルはウェントゥス軍の幹部やアルゲナムの姫君――つまりセラさんの目の前で、自らの魔鎧機を召喚する様を見せ付けてやるつもりでいたようです。なし崩し的にサターナさんと戦う羽目になり、披露する機会を逸したまま敗れたようですね」

「間抜けですね」

「ええ、傲慢さが招いた失策だとサターナさんはとても楽しそうに言っていました」


 ユウラも自然と笑みがこぼれた。アスモディアも微笑みを浮かべたが、すぐに表情を引き締めた。


「今回の件でレリエンディール内でも大きな動きが見られるかもしれません」

「第二軍は再編中。エアリアを巡る戦いで、第一軍、第四軍が壊滅的大損害。残るは、本国軍に第三軍、第五軍に第七軍。そしてアルゲナムには第六軍……」


 青髪の魔術師は振り返った。


「第七軍はともかく、他の軍はどうなんです、アスモディア? いくら何でも、あなた不在の第五軍は新たな指揮官を立てているでしょうが」

「カペル家のほうは当主である父上が健在ですから、新たな指揮官を立てるにしても、魔王からの命令がない限りは前線には出ないでしょう」


 アスモディアは自らの家の状況をそう推測した。


「第三軍のリュコス家は、サターナの兄が軍を引き継いでいます。彼女曰く、兄は大したことない故、脅威ではないと」

「自分の兄でしょうに……」


 呆れも露わにユウラは言った。アスモディアも頷く。


「第七軍は海軍ゆえ、我が軍の脅威とはなり得ないでしょう。現状、兵站は陸路と空路ですし、我が軍の進路は内陸ゆえ、第七軍を動かすぐらいなら、まだ第三軍や第五軍を投入すべきかと。そして第六軍は、アルゲナムに駐留している……」

「リッケンシルトの敵を駆逐したウェントゥス軍は、この第六軍とぶつかる」

「ケイタやセラが西進をはじめたのは、レリエンディールの内情を考えると的確な判断かと。いまならアルゲナムには第六軍しかおりません」

「慧太くんなら、聖アルゲナムから第六軍を撃退するのも難しくない……?」

「第六軍指揮官のマニィ・ルナルの評価は正直微妙です。他の七大貴族指揮官たちの評価もバラバラ。ただ恐ろしく金に執着している女であることは、皆の共通認識ですが」

「ひょっとしたら、お金で買収できたり?」

「凄まじく高額でしょうが、その可能性はあります」


 アスモディアはきっぱりと断言した。これにはあいまいに笑うしかユウラはできなかった。


「まあ、何にせよ、アルゲナムは奪回されるでしょう。慧太くんはやると言ったら必ずやり遂げるでしょうし。ただ……」

「ただ……何でしょうか、マスター?」


 アスモディアは問う。ユウラは深刻ぶる。


「慧太くんもセラさんも、この戦いの終着点を見誤っている」

「……? とおっしゃいますと?」

「彼、彼女の目的は聖アルゲナムの奪回。あの国から魔人軍を蹴散らした後、どうするつもりなのか、その先のことを考えていない」

「……!」

「魔人軍を撃退した後、セラさんはアルゲナム国を復興させるでしょう。慧太くんももちろんそうするでしょう。ただ、それでいいのか? 第六軍を倒しても、レリエンディール軍はなお戦力を有しており、大陸進攻を諦めなければ、再度アルゲナムは魔人軍の侵略を受ける……」


 レリエンディールが戦争の継続を選べば、何度でも衝突を繰り返す。現状としてそれを阻止するには、魔人の国と交渉して停戦ないし終戦の約束を交わすか、魔人軍を徹底的に叩き、戦争継続を不可能にすることしかない。


「慧太くんもセラさんも、アルゲナムを戦いを終着点に見ている節がある。だがそれではこの戦争は終わらない。どこで戦いを終わらせるか、それは相手がいる故に、片方がやめる、と言って終わるものではありません。双方同時にやめる、でなければ」

「第六軍を叩いただけでは本国の戦力は揺るがず、レリエンディールの継戦能力が残る」


 アスモディアは、ユウラを見つめた。


「では、その件をケイタやセラに報せるべきでは?」

「そしてレリエンディールに攻め込みましょう、と? いまそれを言うのは得策ではないでしょう。二人の、とくにセラさんの頭には、アルゲナム奪還しかありませんし、そこで余計なことを吹き込んでも、かえって状況を悪くするだけでしょう」


 あの姫様は生真面目過ぎますから――ユウラは微笑んだ。


「でも心配はいりません。戦争の終わらせ方については、サターナも気づいています。彼女が気づいているなら、そのうちに慧太くんにも伝わるでしょうし」


 ただ、と青髪の魔術師は言った。


「この戦いは、まだまだ先の見えない長丁場。そのために戦力を増強しなくてはならない。ベルフェをこちらに引き入れたのは、そのための布石でもある」

「さすがです、マスター」


 アスモディアは目を閉じた。


「レリエンディール進攻ののちは、貴方様が――」

「アスモディア」


 冷ややかな声。ユウラの温厚な表情が、機械的なまでの無表情に変わる。一瞬で背筋が凍るような威圧感にさらされ、アスモディアは萎縮した。


「も、申し訳ありません、マスター」

「どこで、誰が聞き耳を立てているかわかりません。あまり滅多なことは口にしないように」


 正直にいって、ユウラ自身まったく疑われていないわけではない。友人である慧太もユウラの真意や正体を知れば態度が変わるかもしれない。サターナは現状ユウラの正体について疑いを持っている。リアナやキアハは……まあ彼女たちは特に影響はない。


 ユウラは、そこでにこりと笑みを浮かべた。


「そんなわけで、僕らは独自の動きをとらないように当面自粛です。慧太くんやセラさんが不在だからと勝手なことはしないように」

「はい、承知しております、マスター」


 恭しくアスモディアは一礼した。ユウラは視線を工場へと戻す。


 ――今は与えられた役目を果たしましょう。正直、慧太くんに押し付けられた雑用で忙しいのは本当ですし……。


 ふと、ベルフェが視線をこちらに向けていることに気づく。淡々とした表情。眼鏡の奥の揺るがない瞳――果たして彼女は何を考えているのやら。


 ――私にはアスモディア。慧太にはサターナ。ベルフェは契約の魔法でこちらに従うとはいえ、いまはどちらに付くか不透明。こちらの正体を告げたことが裏目にでなければいいが……。


 ユウラは心の中で呟く。アスモディアの時は、正体を明かしたら一にも二にもなく、すぐに自ら従属してきたが、ベルフェはどうやらかつての大英雄に対する崇拝はないらしい。


「世の中、なるようにしかならない、ということか」


 青髪の魔術師は呟くのだった。

 人間と魔人の戦争は、いまだ終わる気配を見せなかった――  

 第二部あとがき


『シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~』第二部、第四四四話をもって終了です。ここまでの読了ありがとうございました!

――当初の予定ではアルゲナムまで行く予定だったのですが、リッケンシルト国内の戦闘で思いのほか話数がかさみ、初期プロットもリッケンシルト国王都奪回あたりまでしかなかったこともあり、ここまでを第二部とさせていただきました。

 そんなわけで、アルゲナム奪回は、第三部扱いとなります。どうぞよろしく。

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