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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
アルゲナムへの道 編

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第四四三話、戦場へ


 ハイムヴァー宮殿、三階テラスに慧太けいたの姿があった。

 隣にはセラがいて、サターナがいる。この場にいるのはこの三人だけだ。


 先日、ベルフェと戦ったその場所は、手すりに傷やへこみ、床にすれた後や亀裂などが残っている。

 要するに、戦いの跡の修繕が行われていないということだ。宮殿のテラスよりも、もっと早く直したほうがいい場所など、ごまんとある。人の腹を満たすための設備や、安心して眠れる寝床が優先されるのは、民を優先させようとするルモニー・リッケンシルト王の復興政策の優先順位ゆえだ。


 本来なら王都を見合わせる宮殿テラスだが、魔人軍との戦闘の結果、その景観は損なわれている。魔鎧機やウルスドロウ、ルガンの戦闘により崩れた建物も多く、いまだ戦火の傷跡が物々しく残っている。


「寒くないか?」


 慧太は、右隣のセラ、手すりに肘をついて、物憂げに王都を眺めている彼女を見る。


 ここ数日、天気は思わしくない。積もるほどではないが、小雪がちらつくことも多く、陽の光はあまり届いていない。吹いてくる冬の風に、セラの長い銀色の髪が揺れた。


「うん……少し」


 静かな声だった。王都エアリアを巡る攻防戦のあと、セラはずっとこんな調子だ。

 周囲の歓喜をよそに、どこか冷めている。もちろん、魔人軍からリッケンシルトの王都を解放したという周囲の喜びは理解しているし、それに水を差すようなことを言うわけでもないが、それらから距離をとっているのが見え隠れする。


「当てましょうか?」


 サターナが手すりに行儀悪くもたれながら、言った。


「こんなところで、ぐずぐずしていたくない。早く聖アルゲナム国行って、今なお救いの手を待っているだろう自国の民を助けたい……そう思ってるでしょう?」

「何でもお見通し、みたいなことをいうのね、サターナは」


 セラは皮肉った。サターナは妖艶に微笑んだ。


「まわりの喜びに素直に同調できないのよね、セラは。リッケンシルトの解放は時間の問題。でもアルゲナムは? まだ魔人軍に支配されてる」

「うん。……たぶん、そうなんだと思う」


 セラは口調こそ静かだが、かすかに唇を噛んだ。


「何やってるんだろうなぁ、私……。ねえ、ケイタ」


 ちら、と銀髪の騎士姫は視線を向ける。


「いつまで王都にいるの?」

「いつまでだろうか」


 慧太は天を仰いだ。どんより曇った空。その雲の先の青空が見えないのと同様、慧太やウェントゥス軍の先行きは、不透明だ。


 ――いや、やることは決まってる。


 聖アルゲナム国を魔人軍から取り戻す。そのためにここまで来て、そしてこれから向かうのだ。


「いま、ダシューさんの騎兵部隊が、魔人軍を追撃してる」


 セラは手すりを掴みながら、小さく伸びをした。


「私も、そっちへ行こうかしら……」

「ずいぶんと好戦的なお姫様だこと」


 サターナがからかうように言った。


「リアナの戦闘狂なのがうつったのかしら?」

「呼んだ?」


 と、リアナがテラスへと現れた。相変わらず無表情の狐娘は、淡々と言った。


「戦場に行くなら、すぐにでも出発できる」

「戦いのない王都は退屈と言いたげね」


 サターナが皮肉れば、リアナはコクリと頷いた。

 慧太は振り返る。狐人の暗殺者、その青い瞳を見やる。まだここで時間を潰すの? 彼女の目はそう言っていた。


「リッケンシルト側との調整、獣人たちの対応、後方連絡線、兵站の維持……その他もろもろ」


 慧太は無感動な口調で告げた。やることは多いし、実際、執務室から出て、のんびりしている時間は、本当に希少だった。面会を求める人物は日ごとに増えていた。


 最近では王都解放を聞き、リッケンシルトの民が集まってきている。リッケンシルト軍に保護を求める者もいれば、商売の臭いを感じ取った商人や傭兵なども、集まりつつある。アルトヴューや周辺国から来ている者の姿も増えてきた。


「ごめんなさい」


 セラが謝った。


「アルゲナム解放のためにやってくれているのに、ケイタには全部押し付けてしまっているみたいで」

「交渉やら面会が多いのは君も同じだろう?」


 慧太は、セラも多忙であるのを知っている。慧太に対しては軍民問わずという印象だが、セラには、こと商人や爵位もちの人間が多かった。……そこは、アルゲナム国のお姫様であるためだろう。……ああ、だからか。


 慧太は理解した。そういう身分に擦り寄る輩との付き合いに疲れてしまったのだろう。こんなことをしている場合ではないのに、という思いが日ごとに強くなってきている、といったところか。


「じゃあ、行こうか」

「え?」


 その声は、セラとサターナは同時だった。慧太は不敵な笑みを浮かべた。


「ダシューの連隊と合流して、さっさとアルゲナムの国境線へ行こうか」

「いいの?」 


 セラは困惑に眉をひそめた。


「交渉事とか、他にもやらないといけないことがあるでしょう?」

「ユウラを置いておく。彼に任せる」


 もちろん、ユウラだけでなく、何人か重鎮格の仕事をこなす分身体を置いておく。


「ウェントゥス兵たちも、ここで暇をもてあましているからな。前線に出られると聞けば喜ぶだろう。……そうだな、ガーズィ?」

「はい、将軍」


 テラス入り口に控えていた突撃兵連隊長は姿を現した。  


「召集をかければ、即応大隊をはじめ、一個連隊が即時行動可能です」

「相変わらず準備のいいこと」


 サターナは意地の悪い笑みを浮かべたが、すぐに表情を曇らせた。


「……ユウラを置いていっていいの?」

「オレがいない間に何か企みを進める、とか?」


 以前から、青髪の魔法使いの行動に懐疑的なサターナである。慧太は平然と言った。


「……むしろオレが留守にしたほうが、そういうことがわかるだろう?」

「抜かりはない、ということね。わかったわ」


 サターナは手すりから身を起こした。


「行きましょう。戦場へ」


 リアナが頷き、セラも居並ぶ者たちを見回した。


「ありがとう、皆……」

「その言葉は早いわよ、セラ」


 サターナが腰に手を当てる。慧太は西の空へと視線を向けた。


「ウェントゥス傭兵軍はこれより西進。アルゲナムを目指す。――セラ、取り戻すぞ、アルゲナムを」

「ええ」


 銀髪の戦乙女は、慧太の隣に立った。


「絶対に、取り戻す……」


 いまはまだ遠い故郷――そこに通じる灰色の空を、青い瞳が見据える。

 どんな苦難の道が待っていようとも、慧太や仲間たちがいれば乗り越えられる。これまでそうだったように。


 そして、故郷と取り戻したら……。


 セラは、頼もしき異郷の青年を見つめる。

 私は、あなたに――

本当なら、今回で第二部最終話のはずだったのですが、443話というのがどうにも中途半端な気がしたので、もう一話続くんじゃよ。

9月3日、18時過ぎに第二部最終話、更新予定。


第三部、もとい改稿版『化物傭兵 ~変幻自在の化物になったオレの異世界冒険記~』9月3日17時より投稿いたします。そちらもどうぞよろしく。

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