第四二九話、魔鎧機 VS 戦闘機械群
僕らで前線に出向きませんか――ユウラの提案に、当の慧太は首をかしげた。
「というと?」
「どうにも、ベルフェ卿の狙いがつかめませんし、彼女を好き放題させておくのも、こちらの対応が後手後手になりそうでよろしくないと思うのです」
「手短に」
「我々でハイムヴァー宮殿に乗り込んで、ベルフェ卿を捕らえましょう」
サターナは青髪の魔術師を見た。
「つまり、大将首を狙うと」
「そうです」
「捕らえましょう、と言ったか?」
慧太が疑問を口にすれば、ユウラはやはり涼しい顔で言う。
「ベルフェ卿の才能は、ぜひこちらに引き入れたいと思います。だってそうでしょう? 魔鎧機に匹敵する戦闘機械を作り出すその頭脳……惜しいと思いませんか?」
「……言い回しに気になる点はあるけれど」
サターナはその唇に指を当てた。
「一気にケリをつけましょう、というのは賛成よ。正直、いまの状況、ワタシも面白くないの。ベルフェのやりたいようにやっているように見えるから」
「ハイムヴァー宮殿か」
慧太は、王都中央を見やり呟いた。
その視線の先、闇に包まれる王都で、激しい爆発音が連続して響いてきた。……どうやら、敵の戦闘兵器ルガンと、ウェントゥス軍の魔鎧機隊が交戦に入ったようだった。
「仕掛けるか」
慧太は突撃兵連隊のガーズィを呼ぶと、ただちに新目標とそれに向かう戦力の抽出を命じた。
・ ・ ・
石畳を踏み砕きながら突進するは、魔人軍の戦闘機械ルガン。太い腕、その拳に青い魔法膜のようなものをまとわせ、大型盾を構えるネメジアルマへとパンチを叩き込む。
腰を落とし、大型盾を構えた白い魔鎧機が後方へ吹き飛んだ。身構えたままの姿勢で後ろへ十メートルほど下がる。
防御に長けるネメジアルマが盾を構えてこれである。盾なしで直撃したら、一撃で胴体を吹き飛ばされてしまうのではないか。……ティシアは冷や汗を抑えられなかった。
『ティシア嬢!』
アウロラのグラスラファルが、氷柱を放った。ルガンは左腕を飛来する氷弾に向け、魔法障壁を展開、弾いた。
『あの防御は厄介……!?』
前進しようとしたティシアだが、正面のルガンは、右手のガードを下げ、肩の光弾砲を放った。近接武器しかないネメジアルマは、前進の勢いをそがれ盾での防御を強いられる。
『この機体……!』
操者がいるのか、わからないが、もしこのルガンを操っている者がいるなら、それは卓越した技量を持つ熟練者だと、ティシアは思った。機体の特性を知り、適切な攻撃と防御でこちらを翻弄している。
当然と言えば、当然だったかもしれない。
新兵器開発のために集められた優秀者たち。彼らは試作段階から機体に寄り添い、いいも悪いもすべてを把握していた。
その戦闘術開発においても、実地で動かしながら生み出されたものだ。先行型ルガンの操者たちは、全員が機体を手足の如く操ることができるのだった。
『アウロラ、左に二機回りこんでる!』
『……んなろっ』
グラスラファルが氷柱を放つのと、飛来した緑色の光弾が、彼女の青い機体に命中するのは同時だった。
被弾したのは右肩。アウロラは機体ダメージを、痛みという形で受けて、苦悶の声を上げる。
一方、グラスラファルの放った氷弾は、先頭のルガンの魔法障壁に防がれる。と、その先頭機は、両手を前に突き出した防御姿勢のまま、猛烈な勢いで突進。態勢を崩しかけているグラスラファル、そのがら空きの胴体にブチかましをかけた。
青い魔鎧機が、宙を飛んだ。
・ ・ ・
『アウロラ!?』
セラのスアールカは低高度を飛んでいた。
眼下のルガンに光槍砲を撃ち込む。両手を挙げ、魔法障壁を張り巡らせたルガンは、エイドラ・スラーの一撃をかろうじて防いだ。衝撃で、足が石畳を砕いてめり込んだが。
だがその一機に構っている間に、別の二機のルガンが肩の光弾砲を連射した。迫る緑色の光弾。セラは回避運動と同時に光障壁を展開――敵の放った光弾の一発が障壁に弾かれたが、なければ被弾は免れなかった。
高度を下げ、滑るように王都の道路へと着陸するスアールカ。しゃがみ姿勢に近いその態勢のせいで、王都の建物の影に機体が隠れ、ルガンは目視での照準がつけられなくなる。
ルガンに乗る魔人操者は、思わず舌打ちした。
『――アソー4、左だ!』
味方からの警告に、魔人操者はとっさに左腕をそちらに向けて魔法障壁を――
使う寸前に凄まじい衝撃が機体を襲い、そのコクピットを覆う透過装甲を何かが貫いた。
ルガンのわき腹を貫くは、ヒート・グレイブこと、クロ・シャルール。身体の一部をもぎ取られ、薄れ行く意識のなか、魔人操者は何故防御が間に合わなかったのか、視線をめぐらせる。
こちらへ向かってくる黒い魔鎧機――アレーニェの姿が見えた。……そうか、槍を投げたのか。
アレーニェは、クロ・シャルールが貫通したルガンに接近すると、その槍を掴み、グイとなぎ払った。胴体から上下に分断され、ルガンが倒れる。
『これで一機!』
アスモディアは視線を巡らす。それに合わせてアレーニェの単眼も左右に動く。右のルガンが肩の光弾砲を向けようとしている。
――しゃらくさいっ!
アレーニェの尻尾――棍棒型兵装のフラム・クー、その砲口が素早く敵に向き、炎の束を放った。
狙われたルガン――機体番号5号機を操るアソー5は、予想外の一撃を前に、とっさに機体をしゃがませた。
炎の柱が、機体の背中すれすれを通過、その機体表面を焼いたが、ダメージはない。
『あれは打撃武器ではなかったのか!?』
アソー5が、炎が消えたのを見計らい機体を立ち上がらせる。右手の魔法障壁を張って――!? あの黒い魔鎧機はどこだ!?
『アソー5、上だぞ!』
敵を見失ったのを察した僚機が警告したが、顔を上げた魔人操者の目には、すでに眼前まで跳んできたアレーニェの姿が大写しになった。
『なぁにぃっ!?』
クロ・シャルールがルガン5号機の首から胴を貫いた。
六脚型魔鎧機アレーニェ、その重厚な下半身から、この跳躍力は中々想像できない。
『二つ目! ……チッ!』
とっさに舌打ちをこぼすアスモディア。その瞬間にもアレーニェはジャンプして飛び退いた。
緑色の光弾が先ほどまでいた場所を通過する。狙っているのは二機――とそのうちの一機に、セラのスアールカが銀魔剣を輝かせ、急接近していた。
いまなら、敵は背中をむけて――だがアスモディアは叫んだ。
『セラ! 後ろに一機回りこんでる! 回避!』
スアールカの走る道路、その後方に、ルガンが一機飛び出す。ほぼ同時に肩の光弾砲を連射。
ほぼノータイムの一撃。背中に目がない限りはかわせない――はずだったが、アスモディアの警告を受けたスアールカは相手を見るより先に飛び上がったおかげで、被弾を回避した。
――こいつら、本当に手強い……!
アスモディアは機体を着地させながら、一番近い敵機へと向かうルートを選ぶ。
だが、次の瞬間、六脚のうちの右二番脚が被弾して、アレーニェをよろめかせた。
――なに!? 誰が狙って……?
こちらを狙っているルガンはいなかった。だが不意に、王都の民家屋上を鳥脚の小型機械が走るのが見えた。
『いまやったのは、こいつっ!?』
アルトヴュー王国のゴレムに似た戦闘機械――プーレ。そのフレイムガンの一撃が伏兵となって、アレーニェにダメージを与えた。




