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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア攻略戦 編

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第四二五話、戦闘工兵


『魔人軍の仕掛けは単純です』


 王都東門。ウェントゥス軍野戦本部で、ガーズィは前線から受けた報告を、慧太けいたたちに告げた。


『防御陣地裏に有線式の爆弾を仕掛け、我が方が陣地を奪取した際に、近くの建物に潜んでいた敵工兵が起爆させます』

「有線式……」

『一度きりしか使えないですが、近くに兵を潜ませることで、適切なタイミングで爆発させることができます』

「敵もやるものですね」


 ユウラがそんなことを言った。


 ウェントゥス軍の仕掛け爆弾は、それ自ら意識を持つシェイプシフター分身体だ。それゆえ、何か外部から操作する必要のなく、効果的なタイミングで爆発する。

 対して魔人軍の爆弾は、そうした自動爆発機能がないために、効果的に爆発させようとするなら、外部からの指示が必要だ。

 ……いや、そもそも自動爆発機能なんて、この世界の技術に存在しないのだから、むしろ異常なのはウェントゥス軍のほうではあるのだが。


「なあ、ユウラ」


 慧太は、青髪の魔術師に視線をやった。


「第四軍の戦闘工兵部隊っていうのは、技術的にこの世界の数段先を言っているようだが?」

「アルトヴュー王国だって、魔鎧機の再現や鎧機を開発しているので、その発言に全面的に賛同はできないのですが」


 しかし、ユウラは肩をすくめた。


「ベルフェ卿が、優れた技術の開発研究を行っている人物というのは疑いようがありませんね」


 有線ケーブルでは驚かない……。確かに、アルドヴュー王国の戦闘機械群を見れば、ケーブルを通しての簡単な信号伝達などの技術はあるのだ。

 世界が違えば、発展する技術も異なるということか。現代人の目からすれば、歪な進化に見えても、こちらの人間からすれば、現代人の技術進化こそ奇妙に見えるかもしれない。


 ――もしかしたら……。

 

 慧太のように異世界召喚でこの世界に来てしまった現代人か未来人あたりが技術を持ち込んだとか……? いや、まさか――


「いささか予想外の反撃に遭いましたが」


 ユウラは、敵味方の配置を駒として再現した王都地図へと視線を落とした。


「進攻は計画通りに進んでいます。六ヶ所の攻撃ルートは、南側でやや遅れているものの、王都中央へ進撃しています」

「……順調」


 サターナが思わず口に出す。


「思いのほか、早い後退よね。あのベルフェがああもあっさり陣地を引き払っているのが気になるわ」

「空と地上からの攻撃を同時に防ぐのは無理と見て、陣地防御戦を放棄したのでは?」


 ユウラが言えば、サターナは顎に手をあて考え込む。慧太は口を開いた。


「ベルフェの立場として、ここからどう反撃してくると思う?」

「……待機している西側の戦力」


 サターナは指を地図の上で這わせた。


「これを北と南に迂回させて、ウェントゥス軍の側面ないし後方へ回り込ませる……」


 縦深防御――敵を自陣に引き込んで、長くなった側面を突いて、包囲殲滅せんめつを狙う。……なるほど、手堅い。敵の正面が下がるのが嫌に早いのも頷ける。


「それに対するこちらの対策は?」

「迂回する敵部隊を叩けばいい」


 サターナは即答だった。


「要するに敵に側面や後ろをとられなければいいわけだから、王都上空の航空隊、側面に待機している即応部隊で迎え撃つ……そのために配置していたのよね、お父様?」


 六本の正面攻撃ルートの両翼に、慧太は予め大隊を配置している。主力攻撃部隊の側面を突こうとする敵に対応するためにだ。

 つまり、ベルフェが仕掛けてくるだろう反撃策に対する、準備は整っているということだ。


「今のところは悪くない……」


 旧第一軍の指揮官にして、かつての同僚を知るサターナは首をひねる。


「でも何故かしら。何か違和感が……うまく説明できないけれど」 

『伝令!』


 野戦本部に、鷹型分身体が飛び込む。


『宮殿北に展開している部隊に動きあり! 北門への道を北上する敵歩兵一個中隊、さらに王都北部の民間人居住区へと向かう同じく一個中隊の敵を確認!』

「居住区?」


 ユウラが口走れば、サターナは眉をひそめた。


「側面迂回じゃないの? ……この動きは何の意図が――」

「一〇一即応大隊に命令」


 慧太は伝令鷹に命じた。


「北門に向かう敵部隊を攻撃させろ。……航空第二連隊、強襲降下兵大隊を王都北部の居住区へ送り込め。何をするつもりか知らんが、敵から王都の人間を守れ」


 ここから北部に増援を送るなら、降下兵を空輸し、空挺降下させるのが一番早い。慧太は同時に、北部上空に待機中のワイバーン隊に地上攻撃を指令した。都合、三羽の伝令鷹が慧太の命令を告げに、各担当部隊へ飛んだ。



  ・  ・  ・



 王都南西部。

 戦火の跡が見られない民家や建物が立ち並ぶ一角。第四軍駐屯部隊の居住区となっているその区画は、しんと静まり返っていた。


 だがその細い路地裏を、背中に雑多な装備を担いだ屈強な魔人兵らが足早に進んでいた。

 彼らは、薄暗くなりつつある空を見やり、一気に外壁の下まで駆け寄ると、それぞれが運んできた荷物を降ろし始めた。


『急げ。日に入りまでに作業を終わらせろ』


 逞しい筋肉をまとった猪顔の魔人士官が幾分か落とした声で命じた。古参の魔人兵長が高い外壁を見上げる。


『こんな分厚い壁を時間内に、吹き飛ばせってのは、ちと無茶がありませんかね?』

『俺たちは、矢弾飛び交う中でも目標をぶっ飛ばす戦闘工兵だ』


 猪顔の指揮官は叱るように言った。


『突破口を開く、それが俺たちだからな』


 戦闘工兵――敵の防御陣地や障害物を味方に先んじて破壊し、後続部隊の突入を援護する魔人軍第四軍の兵科である。

 先進的な装備や兵科を運用するベルフェの下に存在する戦闘工兵部隊は、精鋭七軍中、第四軍のみに存在する。


 城攻めといえば、攻城兵器を運用するのは珍しくない。その中心は、城門破壊用の破城槌はじょうついであったり、投石器(大砲などに置き換わりつつある)で城の設備を破壊だったり、攻城塔や梯子を使って城壁を登ったりするものだ。


 だが、爆発物を取り扱う第四軍では、大砲を用いる砲兵部隊を整備し、強力な対拠点攻撃能力を得た。さらに大砲が使いにくい地形や、準備に時間がかけられない場合の対拠点攻撃部隊として、戦闘しながら破壊工作を行う戦闘工兵部隊を編成した。


 もっとも、のちの世の工兵部隊に比べれば、まだまだ初歩的なものであり、基本的に爆弾を仕掛けたり、携帯用大槌で破壊といったものが中心だ。


 だが敵の矢弾飛び交う中を突っ込んだり、工作の妨害を図る敵兵と戦うことも想定し訓練されている戦闘工兵たちは、皆、屈強で力自慢のものばかりである。


 ――とはいえ……。


 猪顔の戦闘工兵部隊指揮官は、王都を囲む外壁を下から見上げて顔をしかめる。


 ――ここまで大きい壁を吹っ飛ばすのは、初めてなんだがな。


 だがやらなければならない。第四軍指揮官、ベルフェ・ド・ゴール伯爵の命令である。彼ら工兵隊が、役目を果たさなければ、王都にいる魔人軍は全滅する。

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