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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア攻略戦 編

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第四一五話、拡大する戦域


 王都エアリア、ハイムヴァー宮殿。第四軍指揮官ベルフェ・ド・ゴール伯爵は、次々に命令を発していた。


 王都東部の奪回。

 現在、ウェントゥス軍の潜入部隊が、空からの援軍を得て踏みとどまっている。第四軍は一個歩兵連隊を投じているが、進捗は思わしくない。戦場の狭さゆえに、一度に投入可能な戦力が限られているのが原因だ。敵兵も精強であり、数では圧倒的に不利なはずなのに、よく持ちこたえていた。


 ――だがここはそう急がなくてもいい。


 ベルフェの中では、膠着こうちゃくしつつある東部は優先度は低かった。……ユウラが危惧したような建物を破壊してルートを開く、までは考えていない。壊した後の都市の復興、瓦礫の処理が面倒というのもあるが、爆薬だってタダではないのだ。


 ――それよりも外壁の奪回だ。


 王都を囲む外壁、ここを奪い返せば実質、表の第一軍の支援も、東部にいる敵部隊を挟撃も可能だ。

 攻城用の梯子を用意し、北と南、双方から一個中隊ずつを送る。それぞれ五〇丁ずつの魔石銃を持たせた。歩廊ほろうが狭いため、一度に突入できる数は限られるが、身を隠す場所が少ない場所には、命中精度の高い魔石銃は有利だ。……ついでに飛竜や空を飛ぶ魔鎧機――アルゲナムの戦乙女を牽制するのに使えるだろう。

 さらにベルフェは、それとは別にもうひとつ部隊を動かしている。


『アガッダ君。三五連隊は南門に達したかな?』

『はい、ベルフェ様。問題がなければ、連隊は王都の外に出られるかと』


 副官の報告に、ベルフェは魔鏡(めがね)の奥の瞳を細めた。


『よろしい。飛翔偵察兵の観測では、第一軍はウェントゥス軍と五分五分の戦況らしい。ここで一個連隊が援軍に現れれば、さしもの敵も慌てるだろう』


 そう、ベルフェは王都にいる第四軍の待機戦力を遊ばせるつもりは毛頭なかった。東門から外に出るのが近道ではあるが、そこは敵部隊との戦闘によって現在通行止め。だが王都には他に北、西、南の三つの門が存在している。であるなら、多少遠回りでも南や北門を使えば、第一軍への援軍に部隊を送れるという寸法だ。


『東門以外の各門は我が軍が押さえております』


 アガッダは言った。


『我が方の勝利は間違いありません』

『……本当にそうかな?』

『ベルフェ様?』

『アガッダ君、ウェントゥス軍相手に、これでよいという考えはもたないことだ』


 幼女伯爵の異名を持つ第四軍指揮官は慎重だった。コルドマリン人の副官は首をかしげる。


 ――そもそも、王都を囲む外壁を制圧する敵が、城門を見逃すのか……?


 たとえば、東門以外の各門に工作して封鎖すれば、ベルフェが今しようとしている外への援軍を防ぐことができる。そう、戦力を割かなくても通行不能にできるのだ。


 ――いや、それとも、第四軍の戦力が分散するのを狙っている?


 第一軍の援軍に部隊を送り出せば、当然ながら移動した分だけ王都内の戦力は減る。そこを未知の増援で乗り込んで、王都を制圧する……。


 ウェントゥス軍は、竜を使った兵力の空中輸送を行っている。大型竜による兵員輸送は、先から二回ほど目の当たりにしている。……あと何回、それをやるのだろうか?

 自分では妙案だと思ったが、その行動自体が敵の思惑の中にあるように思えてならない。疑心暗鬼。わからないが故に、どうにも悪いほうに思考が傾きつつあった。これはよくない兆候ちょうこうだとベルフェは思う。


 ――ウェントゥス軍の作戦を考えている者に、一度会ってみたいものだ。


 こうも不安が先行するのは、相手の顔が見えないからだ。何を考え、何を目的にしているのか。ここまでのウェントゥス軍の予想を超えた回答、それを導き出した相手が何者なのか……。

 実に、興味深かった。



  ・  ・  ・



 第三五歩兵連隊は、比較的新しい部隊だ。

 リッケンシルト攻略において、消耗した部隊の再編成にかこつけて、本土からの補充も含めて増強された部隊であり、通常の歩兵連隊に比べ、三〇〇名ほど兵の数が少ない。

 だがそれでも一五〇〇に近い兵の数は、たとえば王都の外にいるリッケンシルト軍の総数よりも多く、戦力としては決して低いものではない。


 ベルフェの命令を受け、王都南門へ移動する第三五連隊。セラの魔鎧機スアールカや、レーヴァのドラグーン隊が王都の空を舞っていたが、その視線は東側での戦闘に向けられている。

 だが、王都上空を飛ぶ、観測任務に特化した鷹型分身体の目は逃れられなかった。

 また、その南門でも――


「敵の歩兵、連隊規模が接近中」


 第四軍は王都外壁の門は、自軍が確保していると思っているが、それは間違いだった。

 第(ゼロ)浸透(しんとう)大隊――影虎指揮の潜入工作部隊が、四つの門すべてを制圧していたのだ。


「よし、ではこいつらを止めるぞ」


 シノビ部隊、影虎は南門の部下たちに配置に就くよう命じた。連中が表の援軍に送ろうとしている歩兵連隊、それを出すわけにはいかない。

 この門を守っていた一個中隊の敵兵は、昨夜のうちに始末した。一部の兵を魔人兵に化けさせて表に立たせていたので、先ほど様子を見に来た敵も、門が落とされたことに気づいていない。

 門の守備隊兵を取り込んだことで、南門のウェントゥス兵はおよそ五〇名と増えている。……百五〇人程度を喰ったにしては兵の数が少ないように思えるが、武器、爆薬へ変化させた量を考えれば、こんなものだった。


「上にいるのはレーヴァ殿の隊だな」


 伝令――影虎は部下を呼んだ。


「敵歩兵連隊、南門に迫りつつあり。……あと、セラ姫にこちらの支援に来ていただけ」


 まともに戦えば、五〇対一五〇〇。

 戦力差は三〇倍――おや、言うほどひどくないか、などと思ったのは、おそらく感覚が麻痺しているのだろう、と影虎は思った。


 通常の兵なら三〇倍の戦力差など全滅必至だが、何とかなりそうな気が一瞬でもしてしまったのは、自身がシェイプシフターであるせいだろうか。

 一人三〇人殺せばいい計算だ。一度に三〇人当たるわけでもないし、闇討ち込みならできそうに思えてしまうのが何とも。……いや、それでもまともにやったらジリ貧か。


「楽して勝とう」


 このままではとても忙しい戦闘になるのは避けられない。ぜひとも、セラ姫のスアールカに助勢を願いたい。もし彼女が来れないというのであれば……誠に不本意ではあるが、自らの消滅覚悟で、一五〇〇の敵兵を道連れにしなくてはならない。


 

  ・  ・  ・



 (ドラグーン)が王都を超低空でかすめる。無数の石造りの民家、その屋根に接触しそうなほどの降下のあと、道にいる魔人兵に魔石銃掃射をかけ、そして離脱する。

 弓やクロスボウを装備した魔人兵が反撃しようにも一撃離脱に徹するドラグーンを追うのは難しい。


 王都東部で戦う魔人軍は、立ち並ぶ民家の壁に身を寄せる。道の真ん中にいると上空から狙われるので、隊列を組まない。前衛はウェントゥス軍と交戦しているが、後ろで待機している兵たちは、ほとんど影で座り込んでいるような状態だ。

 身体を小さくしているのは、時々思い出したように爆弾が道の真ん中に落とされるからだ。吹き飛ばされる兵もいたが、座ったり伏せたりすると飛んでくる破片に当たり難くなることを自然と学びつつあったのだ。……結果として、ベルフェが思っている以上に東部奪回部隊の動きは鈍くなっていた。


 そしてそれが、慧太たちの反撃を許す形になる。


 民家の屋根を移動するリアナら少数のチームが、下を覗けば魔人兵は座り込んでいる。ドラグーンの高速爆撃では狙い難いところにいる魔人兵、その近くに手榴弾を投げ込む。あるいは、ふいに路地に降りてきて、リアナが短刀で、ウェントゥス兵がグラディウスで刺突し、数名血祭りに上げるとまた屋根に登って去っていった。

 それならば、と屋根に上がる魔人兵もいたが、するとリアナは弓矢で射殺し、空からドラグーンが舞い降りて、その爪でひっかいたり、掴んで高空から落としたりした。


 ――路地を迂回する敵兵……。


 魔鎧機スアールカは王都の低空を飛んでいた。上から見ると魔人部隊の大まかな動きが手に取るようだ。……付近に味方の姿なし。

 セラは、魔鎧機腰部の光槍砲(エイドラ・スラー)を放つ。その一撃は石畳に着弾すると吹き飛ばし、敵兵を数名まとめて吹き飛ばした。


『……ん?』


 セラは、前方をドラグーンが通過するのを見た。その操者は、赤紫色のラインの入った装備――レーヴァである。彼は、手振りで『ついてきて』と報せてきた。……新たな敵の動きでも見つけたのかもしれない。


 先導するレーヴァのドラグーンに、スアールカは続いた。青い燐光を放射する白銀の翼を持つ魔鎧機と、ドラグーンは、やがて王都南門付近に迫る大部隊の姿を捉えるのだった。

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