表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア攻略戦 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

416/481

第四一四話、戦う者、見守る者


 ウェントゥス軍突撃兵が、ニワトリ頭の魔人兵にグラディウスを突き立てる。小斧を振り回す魔人兵の一撃をかいくぐっての肉薄、そして急所への一撃。


 あたりではウェントゥス兵と魔人兵が手近な標的を見つけるや、挑みかかる乱戦となっていた。

 双方入り乱れているので手榴弾なども滅多に爆発せず、飛竜の空爆もない。兵同士のぶつかり合いである。剣戟が響き、咆哮と怒鳴り声。うめきと共に血が平原を染める。


『ガストン! 後ろだ』


 豚顔の(セプラン)魔人兵が肉切り包丁じみた斧のような剣で斬りかかる。ウェントゥス兵――ガストンは、それを頭ひとつ避けると、そのがら空きの横腹にグラディウスを突き刺す。

 がぁぁぁっ――怒号とも悲鳴ともつかない叫びを上げる敵兵に再度、剣を突き刺す。セプラン兵は白目を向いて地面に突っ伏した。


『サンキュ、モロダー!』

『いいって事よ』


 警告してくれた仲間に声をかけるガストン。そのウェントゥス兵――モロダーも魔人兵と剣で切り結んでいた。


『って、俺の後ろからもかよっ!?』


 雄叫びを上げて向かってくる狼顔の魔人兵。だがその横合いから、矢が飛来して、狼魔人が倒れる。その間にガストンがモロダーと戦っている魔人兵を側面から突き刺す。


『アシストどうも、ガストン。……ラエルもありがとな』


 クロスボウで敵兵を射殺した味方兵に礼を言うモロダー。そうしている間にも、次の敵兵が向かってくる。


『今日は大量だな! 鎧が血に染まっちまう』

『もう染まってるだろ!』


 魔人兵の血で真っ赤になったグラディウスを手に、新手に向かっていくガストン。

 白兵戦は続く。


 咆哮――狼人の戦士団が、魔人兵の戦列に飛び掛る。手に持つ戦斧で岩顔魔人兵(ヴラオス人)に連続して刃を叩き込んで仕留める。


『うぉおおおおおっ!』


 雄叫びを上げるヴルト。すると近くの狼人戦士たちも声を上げ、その木霊のような咆哮ほうこうは、周囲の魔人兵たちを怯ませる。


『ぶっ殺せェェ!』


 うおおおお――狼人たちはまるで塊のように戦場を駆け、魔人兵を倒していく。それは乱戦にあって集団を崩さず、魔人兵を刈り取っていく。

 だが魔人兵とてやられっぱなしではない。敵中突破を図れば、傷つき倒れていく者も出てくる。


『右! 敵弓兵――うぉっ!?』


 クロスボウを持った魔人兵分隊の射撃に、狼人戦士が数人撃たれ、倒れる。副隊長のエシーが喉が裂けんばかりの怒鳴り声を発した。


『てめぇらァ!!! 死にさらせェェ!』


 爪甲を振り回し、エシーは、装填作業中の魔人弓兵へと突撃をかける。だがそこへ紫鱗のトカゲ魔人兵が割り込むように突進をかけ、狼人副隊長のわき腹に爪剣をねじ込んだ。


 肉を割き、内臓をも傷つける一撃。一瞬、意識を失いかけるエシーだが、目の前のトカゲ魔人の首元に、噛み付いた。――てめぇも道連れだ、コラァ!


 トカゲ魔人の喉を噛み千切る。口の中に広がる血の味は、魔人のものなのか、あるいは自分の血なのかわからない。だがそれを理解することなく、エシーは逝った。


 魔人軍クロスボウ兵が装填そうてんを終え、さらに獣人部隊に射撃を加えようとした時、無数の矢が飛来して、頭や胸を的確に撃ち抜いた。


「狼どもを助けるなんてな」


 狐人ロングボウ部隊のボーゲンは、思わず呟いた。騎兵ほどではないにしろ足の早い狐人たちは戦場を駆け、まだ組織的に反撃してくるような敵、投射武器を持っている部隊など、脅威度の高い敵を優先的に叩いていた。


「あいつらだけで戦線をこじ開けるつもりか? 無茶しやがって」


 ロングボウを放つ。狐人の正確無比な射撃は、次々と魔人兵を打ち倒していく。


「ボーゲン隊長! もう矢の残りが――」

「わかってる!」


 戦場に持ち込める矢の数は限られている。最適位置に移動し、敵のアウトレンジから撃ち続けることも、無限にできるわけではない。


「一端、補充に下がるぞ!」


 了解――狐人部隊は、矢を補給するために戦場を下がった。



  ・  ・  ・



 前線で繰り広げられている戦いを見つめている目がある。

 ウェントゥス軍本陣より、南寄りに位置する第二陣――リッケンシルト軍1千である。


 ルモニー・リッケンシルト王が甲冑をまとい、戦場に出るのは初めてのことだった。

 グスダブ城の攻防の際も、自ら甲冑を着て戦うような状況になる前に、ウェントゥス軍が救援に駆けつけた。


 ルモニー自身、剣など幼少の時に少し触った程度で、いまではそれも忘れ、素人も同然。王になどならなければ、一生戦場と無縁だったと言える。


 表情は固い。初陣の緊張。ウェントゥス軍のハヅチ将軍は、第一軍の相手は自分たちがするので、待機していていただきたいと言っていた。戦場はリッケンシルト国だが、兵力の規模はウェントゥス傭兵軍が上であり、しかも歴戦のツワモノ揃いとあれば、戦争素人のルモニーが自ら主導権をとろうなどとは思わない。


 それにリッケンシルト軍には、王都解放のため、第一軍を撃退したのちに王都内に突入し、第四軍と戦うという重要な役割があった。


「……しかし、じれてきますな」


 リッケンシルト軍を束ねるコルド将軍が、その禿げ上がった頭を布で拭きながら、そんなことを言った。

 ルモニーのそばに立つ年配の将軍も鎧を着込んでいるが、こちらは相応に戦の経験がある。やや恰幅のある体躯は、鎧を着込んでいると強そうに見えるのは何故なのか。


「どうにも互角な印象でありますが、やはり魔人軍が数で勝っている分、ややウェントゥス軍は苦しいですな。もし、どこか崩れることになると、一気にひっくり返されそうです」

「そのように見えますか」


 年上であり、軍務暦が長い将軍の発言である。ルモニーは頷いた。コルド将軍は唸る。


「何といいますか、こう、血がたぎってくるといいますか……年甲斐もなく、いますぐ戦場に飛び込みたい気分です。あのハヅチ将軍と彼が率いるウェントゥス軍が血を流し、戦っている」

「しかし我々は、王都内の敵に備えて待機しなくては」

「わかっておりますが、どうにも……。我々の国のために、彼らは戦っておるのですぞ」


 コルド将軍は顔をしかめた。


「いますぐ彼らと共に敵と戦いたい。彼らに助けられてばかりでなく、我々も彼らを助けたい」


 その発言に、ルモニーは新鮮な驚きを抱いた。

 これまでコルド将軍といえば、軍事部門のトップとしてルモニーを支えてきたが、どちらかといえば保守的であり、あまり積極的な攻勢案を出すことはなかった。……いや出したくてもその戦力がなかった、ということもあるかもしれない。表情が固く、重々しい、どちらかといえば近寄り難い印象の人物である。若いルモニーには、少し苦手なタイプだった。

 だが、王都を目の前にして、コルド将軍のこの発言はどうだろう。


「将軍、もし私が自由にやってよい、と命令したら、あなたはどうしますか?」

「自由に、ですか?」


 コルド将軍は、一瞬表情を緩めたが、すぐに元に戻った。


「ウェントゥス軍主力の援護に前進を命じたいところですが……王都攻略のことを考えれば、部下を百名ほどにしぼった上で戦場に向かうでしょうな。歯がゆいことですが、まだ戦闘は序盤戦ですし、ハヅチ将軍の言うとおり我が軍は温存せねば」


 ただ――コルド将軍は口もとをへの字に曲げた。


「もしウェントゥス軍が敗れることにでもなれば、温存もなにもないのですが……。それゆえに、歯がゆいです」


 もし彼らが敗れたら――リッケンシルト軍は撤退することになるだろう。現在、戦場後方で待機しているリッケンシルト軍は、撤退となれば、ほぼ戦力を残した状態で離脱することも可能だろう。……もっとも、彼らが負ければ、その時はリッケンシルトの命運も尽きるだろうが。


 そんな戦場で矢面に立っているのが彼らウェントゥス軍だ。損害を被りやすい先鋒を務め、総崩れになった際は自動的に殿軍となり、おそらく壊滅してしまうだろう役割を、彼らは率先して引き受けているのだ。


 ハヅチ将軍はアルゲナム奪回のためと公言しているが、リッケンシルト国のために多大な犠牲を払う覚悟でもある。そんな彼らだからこそ、ルモニーも、そしてコルド将軍も、いまなお奮戦するウェントゥス軍を助けたいと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ