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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都エアリア攻略戦 編

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第四一二話、迂回戦法


 王都外壁に降り立った慧太けいたは、ゼーエンと即応一〇〇大隊の指揮官とその場で簡単な確認を行った。


『外壁東門の周囲二ブロックをウェントゥス軍は保持しています』


 大隊長が言えば、ゼーエンも頷いた。


「王都外壁へ登ることができる階段通路は東門近くの二つのみ。両方ともこちらで守っている」

「敵の動きは?」


 慧太は問う。ゼーエンは王都を見やる。


「敵は歩兵部隊を投じて、数でこちらをすり潰しにきてる。つい先ほど、戦闘工兵を投じたようで、大きな爆発が起きた」

「さすがに対応してくるな」


 七大貴族でもその思考力には定評のあるベルフェだけある。


「こちらもただ守るだけでは時間は稼げないな」


 慧太は振り返る。強襲降下兵を運んできたタイラント第二編隊が翼を翻し、ウェントゥス・リッケンシルト軍後方へと飛び去る。そこで待機している強襲降下大隊のB中隊、C中隊を一個中隊ずつピストン輸送するためだ。


 一方の表の戦闘は――なるほど、外壁から見るとずいぶんとわかりやすい。


 魔人軍の四個歩兵連隊はすでに半壊しており、ダシューの突竜大隊が、両翼の敵歩兵を踏み砕き、コンプトゥス騎兵は、敵の騎兵大隊を拘束している。

 ガーズィの連隊と獣人部隊が、敵正面の歩兵部隊と交戦中。巨人兵を優先的に叩いたおかげで、ティシアら魔鎧機三機が、何とか残存巨人兵を戦線を維持している状態だ。上空を旋回するドラグーン、ワイバーンが地上の敵に襲撃を繰り返している。


 そして――


 セラの魔鎧機スアールカが王都の空を駆ける。レーヴァのドラグーン小隊と共に、王都の第四軍を上空から光の槍魔法で攻撃している。白銀の翼を持つアルゲナムの魔鎧機は、青い燐光を引いて、魔人軍に死を振りまく天使と化している。

 慧太は、視線を戻した。


「戦線を押し上げる。オレが少数の突撃隊を率いて、敵の側面に迂回する。あとは適当に道なりに進んで、目に付く敵部隊を潰していく」

「了解」

『了解です』

「ここは市街地だ。ムササビやネズミもどんどん使って、敵をかく乱しろ。――リアナ」


 慧太は、控えている狐人の相棒に振り返った。


「兵を何人か連れて屋根を移動しろ。敵の不意を突くんだ」

「わかった」


 頷くリアナ。慧太は頷くと、声を張り上げた。


「第一小隊、オレに続け! キアハ、お前も来い」


 

  ・  ・  ・



 剣がぶつかる。

 サターナの角剣スピラルコルヌと、シフェルの聖魔剣リュミエール。魔法金属同士の衝突は火花を散らし、二人の美女騎士の戦いは激しさを増す。

 シフェルは聖魔剣を振るう。片手でも両手でも扱えるバスタードソードタイプ。乳白色色の刀身は魔法金属であり、長さの割りに軽く、また魔法の付与にも対応している。


『疾風!』


 シフェルの斬撃。かわすサターナだが、リュミエールからは風の一撃が放たれ追い討ちをかける。


「でも残念」


 サターナがステップを踏むように、地面をひと踏みすると、瞬時に黒い壁が地上より飛び出し、風の太刀を防いだ。


『小癪なマネを!』


 壁の裏に隠れたように見えるサターナを、シフェルは追う。だが壁の向こうに、漆黒の女騎士の姿はなく――


「どこを見ているの?」


 宙返りするように、シフェルの真上に回りこむサターナ。刹那せつな、上からサターナに見下ろされる構図に、シフェルの顔が忌々しげに歪み――

 ふっとシフェルが背中の翼を羽ばたかせて飛んだ。一歩遅れて、先ほどまで彼女がいた地面から氷のスパイクが無数に飛び出したが、死地を脱している。


『上と見せかけて下! あなたの氷は、背筋が凍るほど冷たいからわかるのよ!』


 今度はシフェルが上を取りながら、左手を向ける。光弾――放たれた白い閃光は、サターナに殺到するが、漆黒の女騎士もまた背中に竜を思わす翼を展開して、光弾をかいくぐる。


『前から、あんたが気に入らなかった!』


 シフェルは斬りかかる。サターナは角剣で斬撃を弾く。


『奇遇ね、ワタシもそう思っていた』



  ・  ・  ・



 石レンガ作りの四角い屋根の上を、リアナは身も軽く駆ける。

 以前、エアリアを訪れた時も、確かこうして屋根の上をつたって走ったっけ、と思い起こす。あの時は、王都を脱出するアルフォンソの馬車を援護していたが、いまは――


 ――魔人と戦っている。


 狐人の少女は、民家の屋根から屋根へと力強い跳躍で飛び移る。その後ろには、同じくウェントゥス兵が数名続く。並みの人間なら追従不可能な動きも、シェイプシフターの変身能力で脚を強化すれば可能だ。

 そして、眼下には魔人兵が列を成して、前線へと移動している。――手榴弾。

 リアナの合図で、ウェントゥス兵が手榴弾を下の敵めがけて放る。突然の小爆発、撒き散らされた破片と衝撃波に巻き込まれる敵兵。


『くそっ、上から……!』

『やられたっ! ぐあぁぁ――』


 悲鳴、そして混沌。その真ん中に、金髪の狐娘が舞い降りる。右手の光牙、左手の闇牙――二本の短刀が魔人兵を次々に切り裂く。飛び散った血が石畳を染める。


『気をつけろ!』

『速いぞ――』


 豚顔の魔人兵が警告を発した時には、眼前に黒い衣装の狐娘が肉薄している。何の感情も読み取れない表情、冷たい青い目と視線があった刹那せつな、振られた短刀が、音もなく首を裂いた。

 倒れる魔人兵、その肩と頭を踏み台にして、狐人の暗殺者は再び民家の屋根へと飛び上がった。


 呆然とする兵たち。彼らの見守る中、リアナと白甲冑の兵たちは去っていく。まるで風のようだ。

 だが、呆けている場合ではなかった。何故なら、すでに第二の手が迫っていたからだ。


「突撃!」


 慧太と強襲降下兵の一団が民家の壁に沿って走る。そして襲撃から立ち直れずにいる敵兵に迫ると、グラディウス型の短めの剣を手に襲い掛かった。

 鎧のないわき腹を一刺し。体重をかけての突進は、敵兵の肉を貫き内蔵をえぐった。近くの兵が倒れるのに気づいた時には、ウェントゥス降下兵が剣を急所に突き立て仕留めて行く。

 素早く、的確に。

 だがそれで全員を倒せるほど、魔人兵は少なくなく、また場も広い。


『敵だ!』


 その声に、迫るウェントゥス兵に斧や爪剣を抜く魔人兵たち。しかし――遅いっての!

 慧太は、あっという間に敵の懐に飛び込むと、剣で鳥頭の魔人の喉を切り裂くと、左手に出した手榴弾を、駆けつけようと迫る敵集団へとぶつけるように投げた。

 ウェントゥス兵が剣で敵兵を刺し、またはクロスボウで逃げる敵を射殺すると、十字路に近い道とその一帯を一時的に制圧した。


 慧太は東――即応大隊が敵兵を防いでいる陣地のほうへ視線を向ける。そこに向かいつつある敵部隊の背後をとった形だ。

 絶好の挟撃態勢。オセロで相手の石を挟み、まとめて裏返すように、一網打尽のチャンス。


「ひっくり返すぞ!」 


 声と共に、慧太は駆け出す。防衛線を攻撃する魔人軍部隊。その順番待ちしている後方の連中に、まず手榴弾を投げつけ、爆発で数名がなぎ倒されたところを切り込む。

 数を減らし、残る兵も予想外の爆発に混乱。しかも背後からの襲撃と、立ち直る余裕などなく、刺され、討たれていく。

 敵の後ろを取れ、とはよく言ったものだ。結果的に、短時間で数倍の魔人兵を殲滅せんめつした。

 慧太たちは、東側防衛線の味方が見える位置の敵部隊まで一気に叩き潰した。


『将軍!』


 降下兵のひとりが、自分たちが通ってきた道のほうにクロスボウを向けながら叫んだ。

 敵の新手だ。慧太たちがこじ開けた敵戦線。だが王都にいる第四軍の数はこちらの十倍以上。すぐにおかわりがやってくる。

 だが慧太たちのもとへ、東側防衛の第一〇〇即応大隊兵が駆けつける。今度は慧太たちがいた場所を前線に――戦線の押し上げを行ったのだ。


「よし、ここで踏みとどまれ! ……その間に、敵の死体処理。分身体の補充をしておけ!」


 降下兵小隊がシ式クロスボウに持ち替え、爆弾矢や手榴弾で敵増援を防ぐ中、即応大隊の兵たちが、魔人兵の死体を取り込み、失った矢弾の補充を行う。

 その間にも、慧太は次の迂回のための計画を立てていく。

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