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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
グルント台地地下編

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第三十八話、水晶サソリ

 

 クリュスタ・スケルピオスは無数の水晶を背負っている。

 頭頂部の高さは約一ミータ(メートル)半程度と低いが、砕けた水晶の塊をつけた尻尾まで含めると約四ミータほどにもなる。本来は地面の窪みにその身をうずめ、背中の水晶はあたかもその場に群生しているように見せかける。


 グレゴを奇襲し、強烈な尻尾のハンマーを叩きつけたスケルピオスは、そのハサミ状の腕を倒れているグノーム人に伸ばした。


 掴んで捕食しようというのか――慧太は手にダガーを持ち、突進した。

 小さな水晶がびっしりついた腕を見やり、慧太は一瞬後悔する。案の定、慧太のダガーはいとも容易く弾かれ、傷一つつけることができなかった。

 スケルピオスは攻撃の手を慧太に向ける。

 二本のハサミのある腕を突き出す。鋭く尖った先端で慧太を刺そうというのだろう。

 慧太は後退しながらダガーでスケルピオスの突きを刃に滑らせるように逸らす。……たまらなく重いのを二発。ヘタすれば簡単に力押しでひっくり返されそうだった。


「ケイタ!」


 セラが駆け寄ろうとしている。

 リアナは矢をスケルピオスに放ち、その頭部に当てたが、小さく身じろぎさせた程度で倒すには程遠かった。


「グレゴの旦那を頼む!」


 慧太はセラに言った。

 奇襲を受けたグレゴが動かない。地面に仰向けになった状態で、その腹部に重い一撃が当たったのだ。

 どう考えてもいい想像はできない。あばらが折れた程度ならまだ軽い。内臓もやられてしまったのではないか――


「ここから連れ出して手当てを! 手遅れになる前にっ!」


 セラが立ち止まる。

 慧太の援護とグレゴの治療――セラは即断した。倒れたグレゴの元に駆け寄ると、その状態を見て――治癒の魔法だろう。それをすぐに唱え始めた。


 ――運ぶ間もないほど、ヤバいのか……!


慧太は思ったが、そこまでだった。

 スケルピオスの尻尾が震えるのを視界に捕らえ、頭上から迫るそれを瞬時に飛び退いてかわした。

 ズガァッ、と砕けた水晶が先端についた尻尾が地面を抉る。

 一発打って、すぐに尻尾を振り戻すと、スケルピオスはまたも尻尾を叩きつける。

 二発、三発……慧太はその都度、後ろへ飛び退く。


 ――畜生……!


 喰らったら人間程度一撃であの世行きだろう。

 あんなものをグレゴは喰らったのだ。慧太はふつりと沸いた怒りを感じる。


 ――どう攻める……?


 全身に水晶を生やしたり乗せている大サソリ。背中に飛び乗って刺す叩くは、表面にびっしり生えた水晶のせいで効果は薄そうだ。


 ハサミ状の腕、水晶の尻尾の立て続けの攻撃。

 慧太は後退を繰り返す。グレゴや治療するセラから大サソリを引き離す。しかし同時に攻め手が浮かばずにいる。


 ちら、とセラを見やる。彼女は治療に専念していて、こちらに背を向けている。……シェイプシフターの能力を使っても見られる可能性は低いか?


 リアナは大水晶の上を足場に、つかず離れずの距離で慧太とスケルピオスを追っている。

 彼女にしても矢が効果的ではないのがわかっていて、攻撃の手が浮かばないのだろう。ただ慧太に何かあった時に備えて援護できる位置はキープしていた。


 敵の守りは堅い。こちらは打撃不足。セラが使う『聖天』、あの光の一撃なら、スケルピオスの装甲を抜けるのではないか――駄目だ。グレゴの治療から彼女をはずすわけには行かない。治癒術に関しては、おそらくセラが一番なのだ。


 ――仕方ねえ……!


 スケルピオスの足をもぎ取る。動けなくなれば、例え倒せなくても脅威にはならないだろう。


 慧太は後方数ミータへ大跳躍。距離を稼いで着地すると地面に手を付き、自らの分身体、その影を分離させる。スケルピオスは四対の足を小刻みに動かし迫る。


 ――動きが蜘蛛みたいでキメぇんだよ……!


 分離した影が地を走る。接近するスケルピオスの真下へ潜り込むか否かの瞬間、慧太は『拳で突き上げる動き』をイメージする。影は下から巨大な『拳』の形となり、スケルピオスのアゴ下からのアッパーカットを叩き込んだ。

 全長十ミータ近い巨体が、一秒のあいだ宙を浮き、その足が完全に止まった。

 スケルピオスの真下に潜り込んでいる分身体(影)は八本の触手を伸ばす。それぞれ先端をハサミ状に変化させると、関節部分から足を切断した。


 ズンと巨体が地面に沈む。残るハサミ状の腕を動かすが、それも無駄な抵抗だ。

 分身体は触手を絡め、スケルピオスのハサミ腕を押さえる。


「……」


 慧太はゆっくりと歩き出した。もがくスケルピオスに正面から。

 ――墓場モグラ=マクバフルドの時のように喰うか? いや、ちょっと影が足りないか? ……まあいい。目には目を、ってことわざあるよなぁ……。


 ふつふつと怒りがこみ上げる。


 ――よくも、オレの兄弟をやってくれたよなァ!


 自身の身体を構成する要素を操作し、斧をハンマーへと変化させる。それは両手で保持してもなお重く、常人が持つことが困難とさえ思える大鎚と化す。

「なあ、サソリ野郎……」

 慧太は悠然と近づく。スケルピオス、その(ドタマ)を叩ける位置まで。

 スケルピオスの水晶付きの尻尾が動く。一撃で慧太を叩き潰そうと――

「るせぇっ!」

 すでにその動きは予想済み。慧太が巨大ハンマーをスイングすれば、飛来した水晶付き尻尾と正面からぶつかり――スケルピオスの尾の先端を弾き飛ばした。

 きしむような悲鳴。ちぎれ飛んだ水晶付きの尾は、他の大水晶にぶつかり地面に落下する。足をもがれ、武器である尻尾を失ったスケルピオスに、もはや対抗手段はない。


「覚悟しやがれ……っ!」


 大鎚をスケルピオスの頭部に叩きつけた。水晶の突起ごと巨大サソリの頭を押し潰す。体液が口から飛び出し、慧太の靴を汚した。


 熱い吐息が漏れる。慧太はスケルピオスを仕留めた。

 動かなくなったそれから目を逸らし、リアナの無事を確認。そして――グレゴと彼を手当てするセラのほうへと足を向ける。


 治療はもう終わっていた。 


 セラはへたりと座り込み……泣いていた。


 背中を向けていたが、顔を見るまでもなく、声を押し殺し、しかし肩を小刻みに震わせていた。


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