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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
西進! 王都への道 編

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第三八五話、トレーフル町


 伝令鷹からの慧太けいたの指令を受けたダシューは、東部国境線に展開する部隊を集結させ、トレーフル町へ移動させた。


 だが広く展開していた都合と、戦闘予定のトレーフル町が離れていることもあり、全部隊の集結には、少し時間がかかる。ダシューは、コンプトゥス騎兵一個中隊を先行させ、トレーフル町入りをさせた。

 騎兵第二中隊を率いるのはコノリー中尉。彼の白い兜と甲冑にはスカイブルーのラインが入っている。


『……まあ、何事も上手くいかないということだ』


 騎兵は九〇騎。九〇名の兵に、小型竜であるコンプトゥスは、分身体二体分の合成体であるため、歩兵として展開すれば、総勢二七〇名となる。騎兵を歩兵に、馬(小型竜)も歩兵になるのが、シェイプシフター分身体の利点である。


『ようこそ、トレーフル町へ』


 町に駐留する部隊の分身体兵が、コノリーら第一陣を出迎えた。


 現地には、エサ箱作戦実行中の分身体兵が二個小隊六十名が配置されていた。これと合わせて、一個大隊の歩兵がとりあえず間に合ったことになる。


 トレーフル町は、あまり大きくはない町だ。村などに比べたら大きいが大都市というほどでもない。町中の道はほぼすべて石畳が敷かれている。

 町の周りには、高さ三メートルほどの石の外壁がそびえる。東西南北にそれぞれひとつずつ出入り口であるゲートがあり、そこだけ見張り台が設置されている。

 町の建物は石造りで、この地方ではここ数日小雪がちらつく程度だったために、あまり積もっていはいない。

 町の北東側には森が広がっているが、それ以外は平地――エンボーゲン平原が広がっている。魔人軍が一個連隊展開するのに、まったく支障はなく、平原で正面からの会戦も可能だった。


『偵察では、魔人軍本隊が、もう一時間ほどでこの町に到着するそうです』

『ダシュー隊長の後続部隊が到着するのは、もうしばらくかかる』


 つまり――


『我々は、後続部隊が到着するまで、一個連隊以上の敵兵を食い止める必要があると言うことだ』


 わずか一個大隊の兵で、数倍の敵を正面から迎え撃つのは自殺行為だ。であるならば。


『守備隊のとるべき道は、都市に敵を引き込んでの市街戦ということだな』


 コノリーは、さっそく現地の隊長と地図を見ながら、町中での即席の防御陣地の設営や待ち伏せポイント、戦闘計画の確認を始めた。

 戦闘計画については、駐屯隊長が暇つぶしに様々な状況下での対応について考察していたために、打ち合わせはすぐに終わり、準備にかかった。


『こっちは積極的に爆発物を使う』


 コノリーは、連れてきた部下(分身体)たちに告げた。


『その損耗は隊の三分の一、最悪でも半分くらい爆弾に変えて吹き飛ばすくらいやるから、諸君らも覚悟して欲しい』


 ウェントゥス兵らは、角付き兜のバイザー部分を降ろしているので皆、表情は見えない。だが反対意見はなく、皆、任務を成功させるためなら自爆も辞さない覚悟があった。

 彼らの共通認識は、自分たちは分身体であり消耗品であるということ。自分が死んでも代わりがいるというのはこういうことなのだ、という意思のもと戦地にいるのだった。


『魔人軍部隊、町に接近!』


 駐屯部隊兵の報告に、コノリーは頷くと、手を叩いた。


『全員、配置につけ』


 トレーフル町内を、ウェントゥス兵らは散っていく。西門からの石畳の敷き詰められた中央通りには土嚢どのうを積み上げた即席陣地。同じく西門から外壁に沿った道にも同じく土嚢陣地があり、門をくぐって町に入った敵は、三方向から攻撃を受けることになる。

 コノリーはシ式クロスボウを持ち、土嚢の裏に身を潜めた。兵たちもシ式と、手榴弾を用意し、じっとその時を待った。

 昼時は過ぎ、雲の間から覗く太陽が、西へと次第に傾きつつあった。



  ・  ・  ・



 魔人軍第一軍第三歩兵連隊は、トレーフル町へと到着した。先頭の中隊が、西口に立つ歩哨のもとに差し掛かる。

 部隊通過は通告しているために、特にやりとりはない。

 連隊はトレーフル町に入り、今日は休息をとって翌日、東部戦線はミューレ古城目指して進軍する予定である。

 野営ではなく、屋根のある場所で寝られると言うのは将校だけでなく兵にとってもありがたい。そもそも、冬の寒い時期に戦争をするなど、兵たちの本音でいえば嫌だった。

 魔人兵の多くにとって戦場での血は興奮材料ではあるが、寒さに凍えながらの行軍は辛いというのが偽りのない心境だった。何か、温かいものでも食べたい……。


 町に人間はいないと聞いている。西門に立っていた魔人兵が町中央を走る道を真っ直ぐ進めと示した。人の気配のないトレーフル町を、行軍隊形のまま歩く。兵の中には、すでに町並みを見ながら雑談を始める者もいた。


 誰もが、早く休みたかった。

 だからこそ、正面――進む先の道の真ん中に、突然、攻城弩(バリスタ)が現れた時、目を丸くするばかりで声を上げなかったのは、完全に油断だった。


『撃てェー!』


 バリスタから攻城矢が放たれる。槍のように巨大な矢が魔人兵の隊列に正面から突っ込んだ。先頭を行く兵らの数名は、慌てて避けた。だが雑談によそ見をしていた兵はバリスタの矢に巻き込まれ、さらに後続を巻き込んだ。

 直後、隊列の真ん中で矢は爆発した。魔人兵らがなぎ倒され、吹き飛んだその身体は左右の民家の壁に叩きつけられ、また石畳に突っ伏した。


 爆発、そして立ち上った煙は、石壁の外にいる魔人軍本隊からも見えた。


 攻撃を受けた魔人兵らは、何が起きたか理解できずにいた。何故、いきなり矢が飛んできたのか? この町は魔人軍が制圧しており、人間はいない。さっき門で町に駐屯していた味方兵がそう身振りで示していたのではなかったのか。

 傷ついた兵らが悲鳴や呻き声を上げている。怒りの声をあげる兵は、矢を撃ってきた間抜け――まだ味方だと思い込んでいた――に血の制裁を下してやろうと視線を向けた。


 白い甲冑の見慣れない兵が土嚢の影から、クロスボウを構えた。次の瞬間、放たれた矢は魔人兵らに刺さり、または爆発してさらなる災厄を撒き散らした。

 ようやく、魔人兵らは、白い甲冑(アーマー)を着込んだ敵兵――それがウェントゥス軍であることに気づいた。

 先頭の小隊があっさり壊滅させられ、その後に続いていた次の小隊は、大型盾を前に出しつつ、応戦の態勢を整えようとするが、矢継ぎ早に放たれる爆弾矢に被害が拡大して言った。


『報告! トレーフル町内で敵性部隊と遭遇! 敵はウェントゥス軍の模様!』


 本隊に伝令が駆け込んだ。

 第三歩兵連隊を指揮するデグヴェル大佐は、猛牛を思わす角以外は人に近い姿のディブル人将校である。伸ばしたあごひげをなでつつ、眉をひそめる。


『よもやトレーフルにまで奴らが進出していたとは。……北方で暴れまわった奴ら同様、足の軽いことよ』


 王都エアリアでの戦略会議にも出席していたデグヴェルである。疾風迅雷のウェントゥス軍の活動を知ればこそ、この事態にも必要以上に驚かなかった。


『後続部隊を町へ突入させよ。それと、第二、第三大隊と騎兵部隊に指令。トレーフル町を包囲せよ。もし正面制圧に手間取るようなら、西口以外からも侵入するぞ』


 伝令――司令部付きの伝令兵たちが、各大隊へデグヴェルの命令を持って走る。連隊幕僚のコルドマリン人将校が『連隊長どの』と声をかけた。


『よろしいのですか? まだ、敵の兵力について未確認でありますが』

『奴らは、こちらより少数だよ』


 デグヴェルは断言した。


『でなければ、町の外で我々を迎え撃ったはずだ。町中で戦闘をするのは……そうだな、奴らお得意の少数奇襲で進出したが、我々と予想外の遭遇をしてしまったために、たてこもざるを得なくなった、と言ったところだろう』

『はっ……』

『我々は、東を目指さねばならない。こんなところで時間を食われるわけにもいかんのだ』


 西門から後続の歩兵中隊が町へと突入をはじめる。大型盾を並べた強攻突撃隊形――はてさて、普通の軍隊なら数で押せばどうとでもなるが、ウェントゥス軍はいかに対抗するのか。

 お手並み拝見である。

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