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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
北部攻勢 編

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第三七三話、フォルトガング城攻略作戦


 城の北西側で襲撃があった時、駐留部隊の半数は休息をとっていた。

 外ではウェントゥス・獣人同盟軍が存在していたが、半分を警戒に、残りを休ませることで長期戦に備えたのだった。


 だが、予想外の形とはいえ攻撃があったことで、休息していた兵たちも一斉に叩き起こされた。そして速やかに配置へと走った。敵襲に備えていた分、集結や整列は早かった。


 その間にも、アスモディアの魔鎧機アレーニェは、城壁上の歩廊ほろうづたいに、城門側へと移動しつつ魔人兵を蹴散らしつつあった。

 城壁の兵たちは、灼熱の槍や六本の足に貫かれ、城壁裏の庭に集まる兵たちは、攻撃する手段もないまま、フラム・クーに焼き払われる。

 魔人兵らは固まると餌食になるとばかりに、盾を構えてシールドウォールを形成したり、一時的にアレーニェの攻撃範囲外へと退避した。現状、漆黒の魔鎧機の猛進を止める術はなかった。


 一方、フォルトガング城外周の城壁、その城門の開閉室では――


『裏手から敵襲だと?』


 騒動の原因を見に行かせた兵からの報告を受け、当直士官の岩肌魔人(ヴラオス人)は頭を傾けた。


『見張り、表の様子は?』

『……正面は動きがありませんな』


 ニワトリ頭のプレ人の古参兵が、開閉室から外――門の向こうが見える覗き窓から様子を確認する。昨日から城の正面の丘手前に陣を構えている敵軍に動きはない。間もなく夜が明ける。

 ふむ、とヴラオス人士官は、兵に振り返った。


『我々は、このまま待機ということでいいな?』

『はあ、門を開けろという命令は来ておりませんし、それでよろしいのでは』


 要領を得ない様子で、その兵は答えた。自分は、上官であるこの岩肌魔人の命令で、騒動の様子を見に行っただけで、門の開閉についての命令を確認しろなどというのは聞いていない。

 その時だった。開閉室の開けっ放しの扉に、豚顔魔人(セプラン人)が飛び込んできた。 


『で、伝令!』


 そのセプラン人は声を張り上げた。


『バリダ隊が城の正面に展開するため、城門を開けよとの司令より命令!』

『門を……! 開門だ!』


 ヴラオス人士官は、開閉室内の部下たちに叫んだ。


『跳ね橋下ろせェ!』


 巻き上げ機に兵たちが集まる。跳ね橋の固定具が解除され、重量物である跳ね橋が空堀のほうへ倒れる。ズシンと音が広がり、城内はおろか、おそらく敵陣にまで届いただろう。


 フォルトガング城外周の城門が開かれる。


 開閉室の魔人兵たちは、ひとまず故障もなく門を開けられたことに安堵する。……一度故障すると、箇所にもよるが大体修理に数日が掛かってしまうのだ。こういう戦闘時のそれは致命的な故障となるので、担当する者たちは気が抜けないのである。


 それとは他所に、突然、門が開いたことで、城門裏に整列していた歩兵中隊――バリダ隊の兵たちは呆然となった。

 青顔のコルドマリン人であるバリダ中隊長は、副官に視線を向ける。


『野戦の命令、あったか?』

『いや、待機だと聞いていたのですが……』


 指揮官の混乱は、そのまま部下達にも伝染する。

 出撃予定もないのに、突然城門が開いた。これは待機している自分たちに城の外へ出て戦えという意味なのだろうか?

 それとも司令からの命令が上手く伝達されていないのでは……?


『おい、副官。伝令を出せ。「城門開くが、出撃命令ありや?」』

『ハッ! ――伝令!』


 歩兵中隊が確認のあいだ、開閉室の兵たちは、一仕事を終えた気分になっていた。

 ヴラオス人士官も、覗き窓から差し込みつつある朝日に目を細め、思わずあくびを噛み殺した。昨日からずっと起きているので、いい加減眠かった。


 その時、すっと背後で気配を感じた。


 急に近づいてきたのは誰か――だが振り返る前に頭を、背後に立った人物の腕に固められる。いわゆるヘッドロックの姿勢。あっという間もなく、喉を突かれた。

 普通の種族に比べて喉が固いヴラオス人だが、他の部位に比べれば脆い部分でもある。一突きで急所を貫かれ、血が噴き出た。肌が岩のようだと言っても、中は血の流れた生物である。

 後ろから固めていた人物が、息絶えたヴラオス人士官の身体をゆっくりと床に横たえる。


「クリア」


 魔人士官を刺したそれは、黒装束に身を包んだ人型――シノビ部隊のシェイプシフター。

 見れば開閉室の魔人兵は全滅していた。立っているのは、音もなく忍び込んだシノビ兵たち。

 開閉室は、シノビ部隊が制圧した。

 あとは、ウェントゥス軍本隊が城門から突入するまでの間、門を開けっ放しにしておくのみ。

 その邪魔をする者は、シェイプシフターの能力の限りを尽くして、騙し、あるいは排除する。



  ・  ・  ・



 ウェントゥス・獣人同盟軍の主力部隊は、朝日と共にフォルトガング城正面へ突撃を開始した。

 狙いは一点、開かれた城門のみ。城壁に長梯子をかけて登る、という手は使わない。

 ティシア、アウロラの魔鎧機を先頭に一気に距離を詰める。

 城門上から、魔人兵による弓矢などによる迎撃はなかった。ウェントゥス軍の進攻にあわせ、東南側正面に移動したアスモディアの魔鎧機が、歩廊上の敵兵を一掃したのだ。


『畜生、敵が迫ってるぞ!』


 城壁内、その窓から魔人兵が迫ってくる人間と獣人の軍勢を睨む。


『上の連中は何をやってんだ!』


 クロスボウを手に構える。……だが。


『あのデカブツは何だ?』


 白いのと青いの――彼らは初めて見る魔鎧機の姿に困惑を深める。


『くそっ!』


 矢を放つ。だがそれは白い魔鎧機――ティシアのネメジアルマの盾や装甲の前には無力だった。

 では敵の兵を狙おうとするも、窓からの狙える範囲は思ったより広くない。城壁全体に押し寄せるのならともかく、城門へと集中しているために、門から離れた位置にある窓からでは敵兵を狙えないのだ。


『どけ、銃で狙う!』


 魔石銃をもった魔人兵が窓に取り付く。クロスボウに比べて直進性が高い魔石銃なら、まだ狙いやすいのでは――とその兵は思った。飛距離による威力減退について、彼はあまり詳しくなかったが、多少威力が落ちても敵兵を脱落させるくらいはできるのではと思う。

 だが、引き金を引こうとした瞬間、銃が爆発し、魔人兵射手を引き裂いた。……魔石銃を敵に使わせるな、という慧太の命令を受けたシノビ部隊によって、偽物の銃(分身体)にすり替えられていたのだ。 


 一方、城門裏に整列していた魔人歩兵中隊では――


『中隊長! 敵が迫っております! どうしますかッ!』

『……くそっ』


 バリダ中隊長は声を荒げる。


『なんで、城門は開けっ放しなのだ!? 我々に出ろというのか!』


 敵が攻めてきている。打って出ないのであれば、その門は閉ざしておくべきだ。それが開けられているということは――いや、今から門の前に出ても陣形を整えている間がない。


『跳ね橋前に隊列を組め! 兵の壁で門の代わりとする! ……司令のもとに行った伝令はまだ戻らんか!?』


 大型盾を持つ兵たちを最前列に、密集隊形で門を塞ぐ。いかに敵が集中しようともこちらも固まっているので、簡単に突破はできない。門の狭さゆえに、一度に交戦できる兵の数がしぼられるから、なお守るに有利だ。


 だが、バリダ中隊長の思惑通りとはならなかった。

 何故なら、部隊が移動を開始した直後、狙いすましたように足元で爆発が起きた。

 仕掛けられていた爆弾――シノビ部隊に与えられた第三の任務、城の要所に爆発物を仕掛けて、ウェントゥス軍攻撃時に、配置に付く敵兵の行動を妨害――それが実行されたのだ。


 結果、バリダ隊は整列どころではなく、密集したが上に被害も拡大。死傷者で溢れる中、ウェントゥス・獣人同盟軍の先鋒が城門へと突入を果たした。

 一度、隊列が乱れ、統制が回復する前に押し寄せた敵兵に、バリダ中隊はろくな抵抗できないまま壊滅、敗走した。

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