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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
北部攻勢 編

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第三六三話、魔人軍野営陣地、強襲


 リッケンシルト国北部域駐留のレリエンディール軍にとって、現在の攻撃目標は、獣人テリトリーである大樹の森とその周辺の制圧だった。


 冬は、次の戦争のための準備期間である。

 それはこの北部域部隊も同様だ。開発された新兵器『魔銃』の本格的量産のため、第四軍は魔石を必要としていた。


 だが、順調に行くかに見えた大樹の森攻略は、いま一歩のところで失敗。聖域攻略に投じた一個大隊がほぼ壊滅したことで、再編成を余儀なくされた。


 大樹の森の外、魔人軍の野営陣地があった。森を攻略するための前線補給拠点である。

 ウェントゥス軍と獣人同盟は、この魔人軍拠点を強襲した。


 無数の天幕が立ち並んでいる。陣地周辺には先端を槍のように尖らせた木の柵をぐるりと配置。猛獣はもちろん、敵騎兵や歩兵の突撃に対する防御設備として機能していた。


 森の端から、ウェントゥス兵と狼人戦士らが陣地のある平原へ突撃をかけてくる。

 魔人兵らも陣地東側の門周辺に兵を集めつつ、弓やクロスボウを手に、柵の後ろへと走る。接近する敵兵を矢で射殺いころそうというのである。


 だが、森から無数の矢が飛んできて、逆に魔人兵らを襲った。

 前衛の突撃部隊とは別に、狐人のロングボウ部隊が、その正確無比な射撃で援護したのだ。迎撃しようと配置につきはじめていた魔人兵らは、飛来する矢によって的確に刈り取られていった。


 もとより弓の扱いに長ける狐人(フェネック)だが、その中でも大弓であるロングボウを扱う者たちは、間接射撃の熟練者が揃っている。


『突撃! オレに続け!』


 陣地へと殺到する突撃部隊の先頭を行くのは、レーヴァである。

 赤紫の線が入った白い装備をまとうウェントゥス兵の突撃隊長が持つのは、魔人軍から鹵獲ろかくした魔石銃。彼と直属の分隊員に支給されたそれは、すべてが部隊の最前列に配置されていた。


 射撃武器にも関わらず、一番前に置かれている理由は単純である。射線がほぼ直線なので、前に誰かいるとそいつの背中に当たってしまうからだ。


 弓を使って、向かってくるウェントゥス兵と狼人兵を撃とうとする魔人兵だが、それよりも素早く、ウェントゥス兵の持つ魔石銃が火を噴き、倒していく。

 狐人の弓による援護も加わり、突撃部隊は、ほとんど損害なく、陣地を囲む木の柵のもとまで到達した。


 だが柵は先端が尖らせた上に、高さは二メートル近くある。登るのはもちろん、単独で飛び越えることも不可能だ。……単独なら。


 ウェントゥス兵の前列が、防柵の内側めがけて一斉に手榴弾を投擲とうてきした。柵の裏に待機し、迫る敵兵を攻撃しようとしていた魔人兵たちが、その爆発によってひるむ。


 その間に、防柵の手前に達した先頭の狼戦士が、柵に対して背を向ける。


『よし、来い! おし、行け!』


 やってくる後続の同族兵に合図すると、自らを足場に、彼らを柵の向こうへと飛び越えさせる。次々に柵の向こうへと侵入を果たす狼人兵士たち。


 それを援護すべく、レーヴァら魔石銃持ちの兵らが柵の隙間から、内部の魔人兵を撃つ。

 赤い光弾が独特の飛翔音と共に、魔人兵の胴や頭に命中の火花を上げさせる。矢継ぎ早に光弾を浴びせられて、侵入する狼人戦士たちの迎撃に失敗する魔人軍。

 乗り込んだ狼人戦士らは手にした小型斧や爪で、手近な敵兵を切り裂いていく。


『レーヴァの旦那!』


 足場となって味方の突入を助けた狼人戦士が、手招きする。次はオレたちの番――察したレーヴァが一度柵から下がって、狼人戦士の補助を受けて、防柵を超えた。

 陣地内に踏み込んだレーヴァ、そして後続のウェントゥス兵は、先に飛び込んだ狼人らと共に敵の掃討にかかる。

 狼人戦士団を率いるヴルトは、手にした片手斧を魔人の返り血で赤く染めながら、敵意も露わに咆えた。


『殺せ! 魔人どもに、おれたちの怒りを叩きつけてやれ!』


 狼人らの咆哮ほうこうが重なる。故郷と家族の復仇に燃える彼らは猛々(たけだけ)しい。陣地の魔人軍は完全に圧倒された。


 防柵だけでなく、四方にある陣地出入り口もウェントゥス兵が突破する。狐人のロングボウが、雨のように降り注ぎ、魔人兵に組織的な抵抗を許さなかった。


『……っ!? あぶねっ!』


 狼人小隊の副隊長であるエシーは思わず、身をすくめた。魔人兵を倒している最中、近くを矢が掠めたのだ。敵が撃ったものではない。矢を見た瞬間、思わず犬歯を覗かせた。


『狐のヤロウ……!』


 こっちを殺す気か。誤射で死んだなんて洒落にならんぞ――


 一方、ヴルトとその兵らは、敵を殺しつつ、ある大天幕の裏へと到達する。陣地の外側から見えないそこには、無数の肉がぶら下げられていた。


『肉……!』


 机の上に並んでいたそれを思わずつまみ食いした者がいたが、それ以外の者は、ヴルトを含め、顔面を強張らせていた。

 それもそのはず、家畜を解体して吊るすそれにぶら下げられていたのは、どう見ても人型――首のない獣人のそれだったからだ。


『くそったれェェッ!』


 狼人戦士たちの怒りの咆哮が木霊こだました。

 本来、死肉に関して狼人は緩いところがある。それが肉であるなら、動物だろうと獣人だろうと同じとのたまう者もいる。

 だがヴルトらハント族の狼人たちは、獣人の死肉について強烈な拒否の感情を持っていた。


 何故なら、彼らの集落が魔人軍によって壊滅した際、村にいた同族が、食用肉として解体されたのを見てしまったからだ。ヴルト自身、家族をそれで失っている。


『ぶち殺せ! 魔人を皆殺しじゃあっ!』


 怒りに目を血走らせ、狼人戦士らは魔人軍野営陣地は駆け回り、敵兵を狩り出した。戦場の常として、命乞いをしてくる魔人兵もいたが、怒りに我を忘れた狼人らにそれは通用しなかった。……もっともこれらは相手の言葉がわからない故に、降伏のそれと気づくのが難しいというのもある。


 とはいえ、結果的に狼人に出くわして、生き残った者は皆無だった。



 ・  ・  ・ 



 野戦陣地は陥落した。

 慧太とセラは、先陣を切ったレーヴァから報告を聞いていた。


「駐留していた魔人兵は、およそ百三十。陣地内は制圧――敵は十数名が逃亡しました。ヴルト隊の半分とこちらの小隊で、逃げた敵を追っています」


 兜を小脇に抱え、頬に傷がついている分身体の中隊長は事務的に言う。


「前衛としてウェントゥス兵と狼人小隊、後衛の狐人のロングボウ部隊――この組み合わせは非常に有効だと思われます。特に我々は、遠距離から正確に敵兵だけを撃つことは得意としてませんでしたから」


 これまでのウェントゥス軍では、前衛の支援はシ式クロスボウに爆弾矢を装填そうてんして放つやり方をとってきた。

 これは野戦において、手榴弾を遠くから放つのと同じ効果があり、敵兵にまとめて被害を与えてきた。


 だが一方で、敵兵のみを撃たねばならないような場合には不向きであった。例えば集落で、近くに一般人がいたり、可燃物があってそれを避けなければならない場合などだ。クロスボウは、使っている矢が弓のそれと異なるため、距離が離れるほど弾道が安定しない面もそれに拍車をかける。


 そこに熟練のロングボウ使いである狐人が加わったのは、大きな戦力であると言える。


「ただ……」


 レーヴァはそこで眉をひそめた。


「今回、狼人たちの魔人兵に対する報復があまりに血生臭かったことに、眉をひそめる者たちがいます」


 狼人らは徹底的に魔人兵を殺害した。その鬼気迫るやり方は、同じ戦場に立った者たちでさえ、異質なものに映った。

 だがその原因が、魔人軍によって食用解体された獣人のそれを発見したから、と聞かされた他の獣人たちの多くは狼人の行動に一定の理解を示した。

 ただ、狐人の戦士たちだけは、それでも狼人に軽蔑の視線を向けるのをやめなかったが。


「……まあ、気持ちのいいものではないな」


 慧太はそう言うだけに留めた。死体処理の名目で敵兵を喰っているシェイプシフターとしては、あまりどうこう言えるものでもない。

 一方で、セラは難しい表情のまま黙り込んでいる。ただ、どこか同情しているようにも見えた。


「しばらくは、様子を見るしかないだろうな」


 戦果は申し分ないが、個々の感情面となるとそう簡単に処理できるものではないのだから。

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