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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
ザームトーア攻略戦 編

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第三三八話、異形たちの行進


 ザームトーア攻撃の前作戦『鳥かご』作戦と、食糧輸送作戦を遂行すいこうしたウェントゥス軍は集結を果たした。


 すっかり日が落ち、静けさがあたりを包む頃、兵たちは姿を変え、ザームトーア城へと向かった。雪上を進むのは白い塊。……いわゆる雪上迷彩である。かすかな月明かりが一面を照らし出す。

 スライム状に変化したシェイプシフターたちは城を囲むように、全周囲から迫る。


 まず行動を起こしたのは、南に面している城門側と東側――城壁が無事な部分にたどり着いたシェイプシフターたちだった。

 彼らは壁に貼り付くなり、身体の色を雪上迷彩から、ふだんの黒に変えると、垂直の城壁をぺたぺたと登り始める。

 十五メートルにも達する高さを誇る城壁。これを外から登るのは難しい。特に城攻めとなれば、梯子をかけるにしても守備隊と戦闘しながら登るのは至難の業だ。

 だからこそ、戦闘にならないよう忍び寄り、道具も使わず、自らの身体の変化で城壁を突破するのである。

 それは一種、不思議な光景だ。城の外からみれば、城壁を這うように登っていく異形物体の姿が視認できる。何ともいえない不気味さがある。


 シェイプシフターたちは、何の障害もなく城壁を越える。

 城壁の通路――歩廊ほろうを、魔人軍の見張り兵が巡回している。また城壁塔とも見張り塔とも言えるより高い位置にある塔には、同じく見張りが遠方を監視していた。


 塊たちは、それらの兵の目に留まらないように壁に貼りついたりして、タイミングを計る。見張り兵の視界をはずれたその時、塊は瞬時に死角から飛び掛った。魔人兵が声を上げる間もなく頭から包まれ、喰いつかれる。

 一分ほどかけて全身を取り込まれる魔人兵。やがて黒い塊は、人型――捕食したばかりの魔人兵に姿を変える。そして何食わぬ顔で歩廊を歩き出す。



  ・  ・  ・



 城の晩餐ばんさん室は、いわゆる士官食堂ともいうべき扱いで、部隊長クラスの魔人が食事を摂る。

 守備隊司令のアローガンから、新年の前祝いの会があるということで、駐屯部隊の各隊長が集まりつつあった。

 ふだんは数名単位で時間をずらして利用しているので、夜になると着いた者から、料理番の用意した食事にありつける。だが今は、その食事番たちの姿はなく、テーブルの上にはワインボトルとカップが置かれているのみだった。

 隊長たちは、着いた者から適当に席に着き、酒を飲んだり、近くの者と談笑する。晩餐が並んでいないのは、何か特別なものだからかもしれない。あるいは司令と一緒に到着するのでは――各々勝手な想像をしつつ、その時を待った。


 やがて、アローガン司令が、美人副官を連れてやってきた。さらにその後ろから数名の給仕兵が、木製のワゴンを押して晩餐室に入ってくる。

 ワゴンの上には無数の皿と料理を覆う鉄の蓋が置かれていて、肝心の料理の姿を隠していた。


 なにやら特別な料理――士官たちの期待は否が応でも高まった。



  ・  ・  ・



 その頃、城壁が崩れ、増強された部隊の野営地となっている城の北西側。

 十五メートルを超える城壁こそないものの、野営地を囲むように、高さ一メートルほどの石垣が即席の壁となっている。

 城の外に当たる野営地には、移動式軽砲である6ポルタを扱う砲兵大隊と、重装歩兵部隊、およそ六五〇人ほどがいた。

 この二つの部隊は、それぞれの指揮官から変わった命令を受けていた。


 まず砲兵大隊には『早朝の日の出と共に訓練があるので、就寝時間を早めよ』という命令だ。

 一方の重装歩兵たちは『オストクリンゲ遠征部隊として従軍した諸君らに軍司令のベルフェ様より特別な報酬が配給されるので、天幕内で待機せよ』と通達された。


 砲兵たちは、朝一に起きて訓練とは洒落にならないと愚痴をこぼしつつ、その分早く寝れるだけマシだと自分たちを慰めた。


 対して重装歩兵たちは報酬が何か期待に胸を膨らませた。十四連隊の連中はオストクリンゲで多くが戦死し、十五連隊所属の自分たちは特に何か戦果を上げたわけではない。だが、冬の寒さに耐えて従軍したそれでも充分な苦労だったと思っていた。

 だがら報酬が城の駐屯部隊にはなく、自分たちだけというのは納得だった。そして城の連中に知られないように野営地の天幕で待機というのも何の疑いももたなかった。


 かくて野営地をねぐらにしている全兵士が、天幕内にこもった。|

 全員・・が、である。

 警戒当番である哨兵も、誰も立っていない(・・・・・・)。当番の兵が天幕内にいることを同室の兵が尋ねれば、『城の兵士が代わってくれたんだ』と答えた。何せ特別な報酬だもんな、と言われれば、やはり彼らはそんなものかと関心を失った。

 実際のところ、哨兵は立っていた。城からやってきたという魔人兵が。


 そんな北東側の雪原を、白い塊がヘビのような列を作り進んでいた。野営地石垣の見張り兵は、ザームトーア城を見上げる。

 北側と西側――崩れていない城壁上の尖塔と歩廊を見つめる。松明の光が左右に揺れている。まるで旗を一定の範囲で振っているようなそれは、あらかじめ決められていた合図だった。

 それを見た野営地の哨兵も、近くの松明を手に取ると、雪原方向に同じく左右に振る。

 雪原を進んでいた大蛇の列が三つ、石垣へと接近し、それを乗り越えた。哨兵である魔人兵は、それを黙って見過ごす。

 大蛇は、先頭から次々に分離すると、順次形を変える。小さな丸いそれは、たちまちネズミの姿になり、そのまま陣地内を駆け抜ける。その数はあっという間に十数から、数十へと増えて野営地内に広がっていく。それらは総勢百を超え――最終的に二百近くとなった。

 それらは、魔人兵らの天幕に二匹から三匹、侵入を果たした。


 朝の訓練に備え、床に就こうとしていた砲兵。

 特別な報酬を仲間たちと談笑しながら待っている歩兵。

 それらの元に、突如乱入するネズミ。


『うお、なんだ、こりゃ!?』

『ネズミか?』


 飛び跳ねるように腰を上げる者や、ネズミを捕まえようとする者――対応はそれぞれだったが、共通していたのは、そのネズミが彼らの最期に見た光景だった。


 ネズミは一斉に爆発した。天幕内にくぐもった爆発音が立て続けに響いた。それはまさに連鎖反応といっていい。音を聞きつけた途端にネズミ型分身体はそれぞれ自爆し、天幕内の魔人兵を殺害したのだ。



  ・  ・  ・



 静かな夜に聞こえた爆発音。晩餐室にも、かすかだが立て続けに起きたその音に、隊長たちは怪訝な表情を浮かべた。……中には既に酒をあけ、酔って気づかなかった者もいたが。


「始まったか」


 アローガン司令は晩餐室の上座に置かれたテーブルを前に座って、各隊長を見回す。それぞれ席についていた各隊長は、魔人語ではない言葉を呟いたアローガンを見やる。


『司令、何か?』

『何でもないよ』


 魔人語で司令は答えた。その間にも、外の爆発音と思しき音を気にしている者が隣の者の肩を突いた。


『なあ、外の音って――』

『あれだろ、砲兵の夜間演習』


 ああ、そういえば――そんな話があったと頷けば、アローガン司令は席を立った。


『諸君、では始めようか。新年を迎える前ではあるが、ささやかな料理を用意した! ……さあ、各自、ふたを開けたまえ』


 とても刺激が強いものだ――司令の声に、待ってましたとばかりに隊長たちは、自らの前に置かれた料理、それを覆っている蓋を取った。

 皿の上に置かれたのは、一つの黒い塊。


『……?』


 皆が一様に首をかしげた。

 その瞬間、塊は破裂――いや、爆発した。テーブルの上のそれがすべて爆発し、魔人指揮官たちの頭と上半身に無数の破片と衝撃と熱を与えた。

 肉の焼ける臭い。焦げ臭さが晩餐室を満たす。アローガン司令は美人副官を連れ、室内をゆったりと歩きまわる。


「とても刺激的だと言っただろう?」


 な、なぜ……? ――か細い声が聞こえた。見れば、岩肌の魔人であるヴラオス人のエパル大隊長が爆発で顔を焦がしながら、息も絶え絶えながら生きていた。

 爆発を抑えたら、まさか生き残りがいたとは。岩のような頭をしているのは、飾りではなかったようだ。


 アローガンは静かに歩み寄ると、瀕死ひんしのエパル大隊長を見下ろす。


『ああ、大隊長。これまでご苦労だった。今日でその任務を解く。ゆっくり休んでくれ』


 永遠にな――アローガンのその言葉と共に、給仕兵がエパルの背中から剣を突き入れた。ヴラオス人の身体はやや硬かったが、剣は心臓を貫き、その命を奪った。


「では、城内の掃討にかかろうか」


 アローガン――慧太けいたは宣言した。

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