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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
ザームトーア攻略戦 編

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第三三六話、一人残らず仕留めることの難しさ


 ウェントゥス傭兵軍がグスダブ城を離れる――その行動には、慧太けいたたちの危惧どおり、城内で動揺する者が相次いだ。


 リッケンシルト軍上層部はもちろん、守備隊兵、難民と身分を問わず。来た時同様、飛竜を使って去っていくので、嫌でも目に付いたのだ。


 将軍や幹部の中には、この食糧事情の厳しいグスダブ城から自分たちだけ逃げるのでは、と口にする者もいた。兵たちは魔人軍を打ち払った友軍が去っていくことに不安を抱き、難民たちは心細く感じる者がいう一方、見捨てられたのではと考える者もいた。

 ……正直に言えば、ウェントゥス軍にリッケンシルト軍の食糧事情に対する一切の責任はないので、見捨てた云々というのは半ば言いがかりもいいところだが。


 とはいえ、混乱が早々に収まったのは、アルゲナムの姫にして戦乙女であるセラが残ったことが大きかった。

 彼女は残り、ウェントゥス軍が食糧物資支援のために離れたという話が伝わることで、大きな騒ぎにはならなかった。……もっとも、完全に不安が拭い去れたわけではない。果たして、今から必要な食料物資を確保できるのかと危惧を抱く者もいたのである。


 飛竜を使って空を飛ぶ――それができなければ、時間的な都合をみても、グスダブ城にいる民を救うことはできない。シェイプシフターの軍でなければ、数日以内にそれを果たすことは不可能だろう。


 だが、いくら変幻自在のシェイプシフターであろうとも、いきなり敵地に飛び込んでいくのは無謀だ。

 時間にあまり余裕ないが、失敗しては元も子もない。攻撃目標であるザームトーア城の現在の状況の確認。駐留兵力に、実際の食糧備蓄状況――これの大小はグスダブ城にいる人々に影響する。必要以上にあれば問題ないが……。

 少なければさらに追加で調達する必要がある。まあ仮に不足だったとしても、しばらく猶予ゆうよはできるだろうから、次の手を打てばいい。


 ザームトーアの城を偵察している間、慧太は残るシェイプシフターたちを遊ばせなかった。

 ハイデン村に貯蔵してある食糧物資を飛竜を使った輸送を行わせる。その貯蔵は駐屯魔人部隊が一人三食食べたとして一ヶ月分の量があった。

 だがこれがグスダブ城の全員に供給すると三食だとわずか二日、二食にしても三日分にしかならないと予測が立った。辺境の村と、難民を含めた三千人規模の城では一日当たりの食糧消費に雲泥の差があるのはわかりきっている。

 すべてはザームトーアの駐屯兵力次第。多ければ、それだけ城に蓄えられた食糧備蓄が増える。……が、あまりに多すぎると、制圧するために倒すべき数もまた増えてしまう。何とも歯がゆい。



  ・  ・  ・ 



 ザームトーア城の偵察は昼夜を問わず行われた。

 鷹型の上空からの観測、ネズミ型による城の外の様子、スライム型での夜間城内の調査。丸一日かけた成果により、慧太たちはザームトーアの状況を把握した。


「敵兵は一四〇一名。歩兵が一一〇〇、砲兵がおよそ二〇〇、残りは雑用係」


 慧太は、雪原のど真ん中にあるザームトーア城を遠くに見渡せるダマオン山の山頂にいた。山といってもそれほど高くはないが、目的の城周辺の様子を一望できる。

 場には、ユウラ、サターナ、アスモディア、リアナにキアハ、ガーズィがいた。

 シェイプシフターの身体の一部で作ったザームトーア城の模型を、円陣で囲みながら説明を行う。


「本来は、一個大隊の歩兵が駐屯していたが、いまはベルフェの置き土産に重装歩兵と砲兵が追加配備されている。……この兵力でリッケンシルト軍をオストクリンゲに押し込めていく算段だろう」


 慧太は、ザームトーア城の北側と西側を差す。その部分の城壁は、ごっそりと何かに抉られたようになくなっている。明らかに城壁としての機能をはたしておらず、城攻めの際の弱点だと素人目にもわかった。


「魔人軍がザームトーア城を占領した際に、ご自慢の18ポルタで破壊した跡が修理されないまま放置されている。城としての守りについて、どうなんだと思うが……」

「しばらく攻めてくる相手がいないとたかをくくっているんでしょうね」


 ユウラが軽口にも似た響きで言えば、サターナは鼻を鳴らした。


「リッケンシルト軍は、あのていたらくだし」

「だが、オレたちのやろうとしていることを考えると、実はあまり嬉しくない」


 慧太は、片方の眉を吊り上げ、城の外、城壁が崩れた一帯を円で囲むようになぞった。


「ここに、敵の歩兵大隊と砲兵部隊がキャンプを張っている。要するに城に入りきれない連中がここで陣地を作っているというわけだ。だから城門を介さず、この崩れた一帯を攻めようとしたら、敵部隊が正面から待ち構えているということになる」

「砲兵がいるいうのが曲者ね」


 サターナは唇の端を吊り上げた。


「もし数で圧倒できるからと城門を避けて、この部分を狙おうとすると、砲の正面に飛び込んでしまう。むしろ、弱点ではなく、攻撃拠点だわ」

「まあ、あくまで普通に人間の軍隊が攻め込もうとしたらヤバイ、という話だな」


 慧太は目だけを動かして、一同を見回した。


「オレたち、シェイプシフターは城の全方位から接近して、魔人兵を手当たり次第、始末する。普通のいくさにはしない」

「敵地に浸透し、不意打ちですな」


 ガーズィが言った。慧太は笑みをこぼす。


「予行演習は済んでるな?」

「もちろんです」


 ハイデン村や周辺集落を攻略した際に、敵に気づかれないまま倒し、制圧するという攻撃を、シェイプシフター兵たちはこなしている。基本的にやることは同じだ。ただ、これまでとは規模がまるで違う。


「それで――」


 アスモディアが、その大きな胸の下で腕を組んで口を開く。


「あまり嬉しくないことって?」

「大きすぎる胸?」


 シスター服の女魔人の巨乳を見ながら、真面目くさった顔で見上げれば、サターナがふき出した。


「貧乳派にはあまり嬉しくないわね」

「邪魔」


 無口がデフォルトのリアナが、ボソリと言えば、アスモディアと同じく巨乳側のキアハが思わず自身の胸を庇うような仕草を見せた。

 アスモディアが口をへの字に曲げた。


「もう、そういう意味で言ったんじゃないのに」

「すまん、つい、反射的にな」


 慧太は詫びつつ、模型を見下ろした。……ガーズィが忍び笑いを浮かべていたが、無視する。


「オレたちは城を手に入れるが、城の外に兵が数百人規模でいると、包囲していたとしても誰かしら逃してしまう可能性が高くなる。後方の魔人軍に通報されないように制圧しなければならないから、これはちょっと面倒な問題だ」


 ちら、とユウラを見やる。


「城の外の砲兵陣地もろとも、魔法で吹き飛ばしてしまうと簡単なんだが、あまり大きな魔法を使うと今度は城内の兵に襲撃を気取られる。城の中には、もっと多くの兵士がいて、これらも掃討しなければならないから、応戦されるとこれまた面倒なんだ」

「城の外と中、同時に攻める?」


 サターナが言えば、慧太は首を小さく振った。


「あるいは、中か外、どちらかに気づかれないまま片方を始末して、その後に残る片方を片付ける」


 ユウラが倒壊している城の北西部分を指し示した。


「もし内か外、どちらかずつ叩くなら、まず外側から潰すべきでしょうね。……外さえ片付ければ、あとは閉じ込めて中を掃討していけばいい」


 アスモディアも頷いた。


「そもそも同時に叩くだけの数がこちらにあるの? 分身体の数だって、千を超える兵より遙かに少ないんだから、優先順位を決めるべきだと思う」


 うーん――慧太は黙り込む。そんな顔を見やり、サターナは口を開いた。


「そんなに難しく考えることでもないんじゃない? 要は、敵を逃がさなければいいわけでしょ? 万が一に備えて、城の外へ逃げ出す奴を待ち伏せする兵を少人数、配置しておけばいい」


 漆黒ドレスの少女は、リアナへと視線を向ける。


「城の周囲は開けた場所だもの。彼女の広い索敵範囲なら、闇夜に紛れて逃げる敵も狩り出せる……そうよね?」

「うん」


 こくり、とリアナは頷いた。


「だけど、もし数人が同時にバラバラに逃げられると、わたしでも逃げられるかもしれない」


 狐人の暗殺者は慎重な意見を口にした。当たり前といえば当たり前だが、彼女とて万能ではない。


「そういうことなら――」


 アスモディアが自身の赤毛をかいた。


「城攻めを遅らせることになるけれど、城外に逃げられても、報告されずに始末できる方法があるわ」

「本当か?」


 一同の視線がシスター服の女魔人に向く。


「ええ、逃げる敵を追跡するのはわたくしの第五軍の得意とするところ――あなたも経験あるわよね、ケイタ? 一度はセラやあなたたちを見失ったわたくしが、先回りしていたことがあったのを」


 そこで赤毛の女魔人は妖艶に微笑んだ。


「視野を広く持ちましょう。何もフィールドはザームトーア周辺の平野だけではないのよ?」

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