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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
ザームトーア攻略戦 編

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第三三五話、ザームトーア攻略計画


 一度それが浮かんだら、行動は早かった。

 慧太けいたはグスダブ城内に与えられた部屋に、ユウラ、サターナ、アスモディアを呼びつけた。

 グスダブ城の危機を救ったウェントゥス軍の将軍ということで、中々上等な部屋だ。慧太と机を挟んで、ユウラ、サターナが座り、アスモディアは二人の後ろに立っている。全員揃ったところで、さっそくグスダブ城の状況とザームトーア城攻略の話をした。


「あらゆる点で、反対する理由がありません」


 ユウラは賛意を示した。


「リッケンシルト軍の食糧事情を差し置いても、ザームトーアを奪回しなくては、この国の兵たちをオストクリンゲ地方に遊ばせておくことになります」

「魔人軍の警戒部隊を貼り付けておく、という意味では、ここで遊ばせておくのはまったく無駄ではないけれど」


 サターナが皮肉った。この漆黒のドレスをまとう少女の姿をした女魔人は、リッケンシルト軍に対する評価がすこぶる低かった。


「とはいえ、ここで彼らが飢え死にしてしまえば、連中にとってはこれ以上の手間をかけさせられないで済んでしまうわね」

「それはいただけないな」


 慧太は眉をひそめた。


「オレは連中に楽をさせるつもりはない」

「同感ね」


 サターナは頷いた。アスモディアが口を開く。


「それで、ザームトーア攻略はいいけど、わたくしたちだけ(・・)呼ばれた理由は?」


 この場にセラがいないことを疑問に思ったようだった。慧太が答える――より先に、サターナが首を小さく横に振った。


「鈍いわね、アスモディア。セラには聞かせられない方法で城を手に入れるからに決まっているでしょう?」


 シェイプシフターによる攻城戦。慧太やサターナ、分身体たちの正体を知らない者はこの場に呼んでいない。


「現在のザームトーア城の敵兵力や詳細な情報は改めて収集するとして、攻略自体は、これまでの魔人軍集落や拠点を手に入れた時と同じく、夜間に浸透して城内に入り込み、敵を奇襲、掃討していく」


 慧太は三人を見回した。


「注意すべき点は三つ。まず、敵が溜め込んでいる食料備蓄は無傷で手に入れなければならないということ。これが最優先。次におそらく、これまで落としてきた集落や拠点以上の敵兵がいること。敵に察知されずに城を掌握するには一工夫が必要だと思う」


 最後に――慧太は声を落とした。


「第二とも関係あるが、敵兵は一人残らず始末すること。これはザームトーアを奪回されたことを魔人軍に悟らせないためだ。一人でも逃亡を許して後方に通報されたら、魔人軍から補給を手に入れる作戦は流れることになる」

「占領自体はできるけれど、一人残らず殲滅せんめつとなるとハードルが高くなるわね……」


 サターナは思ったことをそのまま口にした。アスモディアも頷く。


「これまでの小さな集落ならともかく、重要な拠点であるザームトーアにいる兵をすべて始末するのは……不可能じゃないかしら?」

「そうだろうか?」


 慧太は首を捻る。ユウラが言った。


「念には念を入れるべきでしょうね。城の魔人兵をどう倒していくか。すべてはそこからですね」



  ・  ・  ・



 グスダブ城の難民のための食料調達計画を建てた、と慧太が告げた時、セラは心底ホッとした表情に浮かべた。

 少し歩きながら話そう、と慧太が提案すれば、セラは頷いた。

 グスダブ城本城から中庭へと通じる通路を通る。傷を負った兵士や難民が座り込み、手狭な上に、少々臭いがするそこを、慧太は先導するようにセラを連れて外へと向かう。


「何とかなりそう?」

「そのつもりだ」


 慧太は平静を装いつつも、内心では緊張していた。というのも、これから少々もめると思われることを、彼女に告げなければならなかったからだ。

 ウェントゥス傭兵団の団長兼将軍と、アルゲナムの麗しき銀髪の騎士姫が歩くさまは、全てではないが、ある程度の人数からの視線を集める。


「オレたちは、食糧物資を手に入れる。ここの、皆を飢えから救うためだ」


 淡々と、しかし断言するように口にする慧太。


「そのために、ウェントゥス軍はここを離れる」

「ええ」


 セラは慧太の後に続きながら、首肯した。

 ここにいても食糧がない。ハイデン村や、ライガネンのドロウス商会から輸送するにしても、ここに残る理由はなかった。傭兵団あげての大輸送作戦が始まる――セラはそう思った。


「だが問題がある」

「問題?」


 セラは眉根を寄せた。慧太は門から中庭へと出た。外は晴れていたが、冷たい風が肌をなで、思わず外套がいとうの襟元を締める。


「リッケンシルト軍は余裕がない。オレたちの食糧調達でも、数日がかかる。そして城の備蓄はギリギリだ」


 アーミラから、もって数日と聞かされている。具体的に数日とは、と聞けば現在の状況だと四日。何とか切り詰めて六日が限界とのことだった。


「オレたちは何とかして食糧を手に入れるが、難民の我慢が限界に近づいている。配給を受けている難民たちは、自分たちの食糧を減らされていく一方だ。これ以上減らされたら、おそらく軍に詰め寄るだろう。最悪、暴動になる」

「でも、ルモニー陛下やアーミラだって民と同じものを食べているわ!」


 セラは言った。中庭に座り込んでいる難民の何人かが、その声に顔を上げた。慧太はそれらを気づかないふりをして言った。


「そう、陛下も民と同じく、食事を切り詰めていらっしゃる。だが民はそれを知らない。実際口で言っても見てないところでは本当にそうなのか疑うのが人間だ。一番いいのは、難民たちと同じ場所で食事をしてみせることだが、それは難しいだろう」


 慧太は歩を進めた。中庭から東側の城壁――その先にある難民たちがより集まっているキャンプの方向へと。


「リッケンシルト軍も同じだ。兵が何をどれだけ食べているか、難民は知らない。たとえ同じものでも、どれだけの量を食べているのか……」


 実際、戦闘を担う兵たちは食事の量や質が優遇される。貧しいは貧しいのだが、いざという時のためにも彼らは食べなくてはならない。それがわずかな差だったとしても、自分たちより優遇されている相手を見ると、嫉妬するのも人間のさがである。


「そうなると、難民たちにとって、リッケンシルト軍に対する信用度も現状あまりよろしくないということだ。待遇が改善されない限り、軍の人間が何を言っても民は信用しないだろう。そこでだ――」


 慧太は、難民キャンプが見える位置で立ち止まった。セラも止まる。キャンプからは、魔人軍を撃退した慧太やセラへの視線が伸びてくる。


「君は我慢強いと思うんだ、セラ」

「……何か言い難いことでもあるのかしら?」


 あまり愉快ではない話だろうことを察したのか、セラはわざとらしくそう言った。慧太はそんな彼女に手を伸ばし、その銀髪を撫でる。……人前での親密アピール。


「うん、非常に言い難い。君は反対するかもしれないが……ここの難民たちのために、オレの言うことを聞いて欲しい」

「……そういう言い方されると」


 セラはほんのりと顔を赤らめる。――わかってる? 私たち、見られてるわよ?


「君はここに残ってくれ」

「は?」


 案の定、セラは表情を強張らせた。慧太は予想していたから、表情には出さない。


「オレたちが食糧を運び込むまで、リッケンシルトの軍と民が衝突しないよう、立ち回ってほしい。……人の命がかかってる」

「……っ」


 反対の言葉がでかかったようだが、セラはそれを自ら押し殺した。人の命がかかってる――彼女にとって、それは最大の殺し文句かもしれない。


「君はアルゲナムの姫で、リッケンシルトの人間ではない。今回の戦いでの率先しての活躍は皆の知るところだし、ゲドゥート街道での英雄譚を知っている者もいる。……いま、おそらくこの場で信用できる人間といえば、君を置いて他にいない」


 だからこそ。


「セラに、皆が争わないように間に入ってほしい」

「……話はわかる」


 セラは視線を俯かせた。あからさまに悲しそうな顔。――いいのか、人が見てるぞ?


「どうしても、残らないとダメなの……?」


 置いていかれるということを、すんなり受け入れたくないようだった。これまで苦楽を共にしてきた者たちと離れることの寂しさ。特に慧太に対してそばにいたいと口にしている彼女からしたら、簡単に頷きたくはない事柄だった。


「オレたち全員がここを離れたら、『見捨てられた』と思う人間が現れると思う」


 慧太は危惧を口にした。ユウラに言わせれば、セラの身柄を置いていくのは、一種の人質みたいなものだ。……もっともそれを彼女に面と向かっていう神経はないが。本音を言えば、置いていくこと自体不安である。これは過保護だろうか?


「ティシアとアウロラも残す。魔鎧機は必要ないからな。あと、マルグルナをこちらに呼ぶ。おそらく魔人絡みの襲撃はないだろうが、くれぐれも気をつけてくれ。もし最悪、暴動になったら、とばっちりが怖いからな」

「……うん、わかった」


 セラは何かをこらえるような顔で頷いた。目が少し潤んでいるようだが――頼むから、そういう顔をしないで。こっちも苦しくなるから。


「すぐ戻るよ。数日の辛抱だ」

「ええ……。頑張って」


セラは両手を合わせて祈るように、慧太を見つめた。


「待ってる」

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