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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
救援! グスダブ城攻防 編

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第三三一話、第一撃


魔人軍部隊の先頭を行くのは、第四十一軽騎兵連隊第一大隊所属の前衛(バンガード)小隊だった。


 主に主力部隊より先行し、敵の待ち伏せなどを警戒する騎兵部隊である。

 聴覚や嗅覚に優れたウェルセプタ――青い毛並の大型の狼に似た魔獣――を使役し、一定数、夜目が効く者が配属されるバンガードを最先頭に配したのは、ベルフェの用心のなせるわざだ。


 夜目の効く飛翔偵察兵を警戒に放った上に、バンガード小隊を配置。ふだん昼戦で視界の聞く中、重装歩兵連隊をそのまま前進させる彼女も、夜襲をかける一方、敵も警戒して斥候せっこうを配置しているのでは、と考え、注意を払ったのだ。


 速足で先行する魔獣騎兵の前衛小隊は、暗がりの中、グスダブ城へ続く道を進んでいた。

 その先頭が人間の臭いを感じ取る――魔人騎兵の合図は、たちまち後続に伝わり、遭遇ないし待ち伏せに対する警戒を深める。


 もしリッケンシルト軍の単独、ないし数人の見張りと出くわしたら、始末する。それ以上の部隊なら、後続する主力に合図の信号を飛ばして『奇襲不可』を報せるのだ。


 ふと、進路上に障害物が見えてくる。木……? 柱か――魔人騎兵らは近づきつつ、目をこらす。

 それは氷の柱だった。先の尖った氷が複数本、三メートルほどの高さに伸びていた。まるで地面から生えているように見える。……何故こんなところに?

 青狼らが、盛んに鼻をひくつかせる。人間の臭いがそう遠くない場所から漂っているのを感じているのだ。この氷の柱の向こうか――魔人騎兵らは顔を見合わせる。待ち伏せに備え、速度を落とし、慎重に柱を迂回……。


 高速で風を切る音がした。


 闇の中、突如飛来した矢が、魔人騎兵を穿うがち、ウェルセプタに突き刺さった。


『待ち伏――』


 声をあげた魔人兵のその顔に矢が刺さる。

 臭いもなく、雪に潜伏していたウェントゥス兵による半包囲からの集中射撃。いち早く敵に敏感な青狼ですら察知できなかった分身体兵――嗅覚に優れる獣人であるリアナも気づけないそれに待ち伏せされ、魔人兵らはわけがわからないまま次々に撃ち倒されていく。なまじ、氷柱の向こうから人間の気配を感じたがために、かえってそれより手前に潜伏していたウェントゥス兵らに気づけなかったのだ。


 十秒にも満たない時間。最後尾の数騎が身をひるがえす。人間の軍に待ち伏せされたという事実。どれほどの敵が潜んでいるのかわからないままだが、それを確認しているあいだに全滅してしまう。『敵』の存在を後続に通報しなくては――


『逃がすと思った……?』


 魔人語で聞こえた女の声。次の瞬間、槍のように鋭く尖った氷柱が地面から突き出し、また宙を飛んできた氷塊が、魔獣を引き裂き、魔人兵の胴を貫いた。


 すっと暗がりから、現れるのは、漆黒のドレスをまとう黒髪の美少女。それは夜闇の魔女か、あるいは女王の貫禄を漂わせる。

 魔人軍先鋒のバンガード小隊は全滅した。


「まずは『鈴』を始末、と――」


 警告役を殲滅せんめつし、サターナは視線を、道の中央にそびえる氷柱へと向ける。その裏から、慧太やセラたちが現れ、雪上を赤く染めたバンガードらの死体を避けて進む。


「もうじき、何も知らない敵主力の先頭がやってくるわ」

「ここからが本番だ」


 慧太は、一同を見回した。


「ここを起点に敵を待ち受ける。右翼をティシア隊、左翼はアウロラ隊が展開。中央のセラが、接近する敵の先頭に一撃を放ったら、両翼から後続に側面攻撃をかけろ」


 ティシア、アウロラが頷く。


「中央はセラとユウラを中心に向かってくる敵を火力で制圧しつつ、押し上げる。サターナとアスモディアは遊撃として、支援が必要なところで魔法による攻撃だ」


 展開――慧太の合図で、それぞれが与えられた役割を果たすべく、移動を開始した。

 一方、中央に留まるセラ。銀髪の騎士姫は、白銀の鎧をまとった姿だ。銀魔剣を手にしているが、魔鎧機は具現化させていない。白銀の戦乙女――その横顔には、かすかな緊張と共に、凛とした涼やかさが垣間見える。

 彼女にとっては、久しぶりの魔人軍との交戦だ。慧太は、セラの隣に立った。


「もう少ししたら、魔人軍の主力がやってくる。……怖くないか?」

「……ゲドゥート街道のことを思い出してた」


 セラは小さく柔らかな笑みを浮かべた。


「あの時、迫る魔人騎兵の前に五十人くらいで待ち構えた。あの時に比べたら――」


 ふと、その青い瞳が慧太に注がれる。


「まだ平気かな。……あなたもそばにいるし」


 不意打ちだ。慧太は視線を正面に向けるが、自然と顔がにやけてしまうのを、何とか抑え込む。

 やがて、夜闇の中、多数の足音が聞こえてきた。雪を踏みしめ、時々、金属同士のこすれた音を立てながら。


「それじゃあ、一丁頼むぞ」

「ええ」


 セラは銀魔剣アルガ・ソラスを掲げた。光よ――その詠唱にも似た声に応え、白銀の刀身に光が宿りだす。

 それはおそらく魔人兵の目にも映っただろう。唐突に、浮かんだ一つの光点。それが何かいぶかしんでも、大軍の先頭であるという意識から立ち止まったりはしなかった。敵なら、圧倒的多数の兵力で押し潰せばいいだけだ――と、魔人兵らは思った。


 やがて、彼らは、光の正体に気づく。

 白銀の戦乙女(ヴァルキリー)――アルゲナムの騎士姫。その銀魔剣の輝きに。


 ……だが、敵の姿を認めても、急には止まれない。


「聖天、一閃――!」


 闇夜を照らす白き光が溢れた。それは先頭集団を形成する百を超える魔人兵を一瞬のうちに飲み込んだ。圧倒的な光源と熱に、魔人兵らの身体は焼け、炭化する。


 その光は後ろの集団でも見えた。闇の中、あれだけの光が走れば、誰の目にも留まるというものだ。

 だが、それが白銀の勇者の攻撃であることを理解したのは、先頭で実際に被害にあった大隊程度であった。数秒間の光の傍流ぼうりゅうが何だったのかわからないまま前進する魔人軍主力。

 だがヘビの頭に相当する先頭集団は、前衛一個中隊が消滅したことで足を止めざるを得なかった。


 敵の待ち伏せ。


 指揮官が光の攻撃によって先頭が消滅したことに動揺している間に、左右双方から、無数の矢――爆弾付きのそれが襲い掛かった。多数の爆発が走り、兵らがなぎ倒される中、敵が姿を現した。

 魔人軍から見て、右側より青い機械巨人。左側から白い騎士のような姿の機械巨人。

 青い機械巨人――魔鎧機グラスラファルの中のアウロラは歓声をあげた。


『さっすが、セラフィナ様! こっちも負けてらんねえぜ! 突撃ーっ!』


 氷を思わず青い槍を手に、グラスラファルは両肩の増幅器から氷柱を具現化させて、魔人兵部隊に放つ。二メートルを超える巨大氷柱は魔人兵を貫き、引き裂いて、隊列を乱させる。

 走るグラスラファルに遅れることしばし、ウェントゥス兵らが自動装填のクロスボウを手に射撃しながら前進する。


『うらぁぁーっ!』


 敵部隊へ肉薄したグラスラファルが氷槍を振るう。その一撃で、重装備の魔人兵が五人、まとめて吹き飛ばされた。

 人間とは比べ物にならないほどの力を持つ魔鎧機。その一撃を正面から生身で受けるなど自殺行為だ。


『かー、やっぱ夜だと見えずれぇ……』


 どうしてウェントゥス兵の連中はあんな真っ暗な中でクロスボウを平気でぶっ放せるのか、アウロラにはわからない。ジパングーの連中ってのは夜目が効くんだなぁ、ちょっと羨ましい。……とはいえ。

 夜の川がくうごめいて見えるような魔人の大集団が、視界の中にある。


 ――適当に振り回しているだけで当たるだろうな、こりゃ。


 グラスラファルが魔人兵を蹴散らしているあいだ、反対側から攻めるティシアの白騎士ネメジアルマも、その長剣を振るい、魔人兵を次々に両断していく。重装歩兵の鋼鉄の鎧すら両断する魔鎧機のパワー。防ぐことも反撃することも叶わず、魔人兵の屍だけが量産されていく。

 ネメジアルマの中で、ティシアは初めて戦う魔人相手にも、確かな手ごたえを感じる。

 基本的に、ティシアの魔鎧機は長剣と大型盾のみというシンプルな装備で、あとはティシア個人の魔法を補助する増幅器のみという構成だ。だがそれでも近接戦において、魔鎧機は魔人兵を圧倒して――

 その矢先、視界に、ぬっと巨人が現れた。魔人側の巨人兵だ。その身長は、ネメジアルマより頭ひとつ高い。その巨人兵が手にした巨大な戦斧を振り上げてきた。

 左手の大型盾が反射的に、敵の一撃を受け止める。ずしりとした重い一撃。――油断大敵、ですね!

 攻撃の反動の間をついての長剣での斬撃。あっさりと一撃が巨人兵の胴体を斜めに切り裂く。


 パワーはあるが、あくまで力任せ。素人も同然の隙だらけだ。……同時に複数相手にしない限りは、巨人兵といえども負ける気がしない。

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