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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
救援! グスダブ城攻防 編

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第三二九話、作戦前の晩餐


 日が沈もうとしている。

 グスダブ城本城の来賓用の食堂に、セラはいた。ルモニー王とアーミラ姫と同じテーブルにつき、晩餐ばんさんに招待されたのだ。


 王室招待ではあったが、出されたのはパンと肉を溶かし込んだスープと大変質素なもので、とても一国の王族が出すものとは思えなかった。


「招待しておいて、このような食事しか出せずに申し訳ない」


 ルモニー王は詫びた。

 いえ、と返事をするセラだが、目の前の青年王は、こんな時でも威厳とは無縁な人物に映った。


「恥ずかしながら、グスダブ城の食糧備蓄(びちく)は厳しいものがある。この冬を越えられるかも怪しい」

「そうなのですか……」


 セラはテーブルの上のスープに視線を落とす。

 具材が溶けるほど煮込まれたスープ。王族がこれを口にしているのでは、他の兵や城にいる者たちはどのようなものを食べているのか心配になる。


「わたくしたちが食べているものは、グスダブ城にいる民たちと同じものです」


 アーミラが、セラの心配を察したか、そのように言った。亜麻色の長い髪を持つ少女は、ここのところの貧しい食事のためか、以前に会ったときよりも心なしか痩せているようだ。


「……まあ、ルモニー兄様は、最近食が細くて、これくらいしか食べられないようですけど」


 茶目っ気たっぷりに言うアーミラに、ルモニー王は苦笑いを浮かべた。


「これでも頑張って食べているのだがね」

「そうですとも。食べてください。兄様が倒れられては士気に関わります」


 兄妹の会話だ――セラは少し羨ましく感じる。……あんな風に家族と会話していた頃はあった。

 ――父上。……お兄様。


 聖アルゲナム国が魔人軍によって侵略される前、まだ生きていた家族のことが脳裏をよぎり、セラは目元に涙がたまるのを感じた。あぁ、いけない……。


「セラフィナ姉様?」


 アーミラが小首をかしげる。セラは笑みを浮かべた。


「何でもないわ」

「そうですか。……ともあれ、セラフィナ姉様が駆けつけてくださり、わたくしたちは命拾いいたしましたわ」


 アーミラは、明るい口調だった。


「あのハヅチ様。ずいぶんお若い将軍なのですね。でも同じ将軍なのに、我が国の将軍たちと違って、てきぱきとなさって判断がとてもお早い」


 ケイタが褒められた――セラは自然とうれしくなる。


「あのような方が、リッケンシルトにいらっしゃれば、わたくしたちもここまで追い詰められることもなかったでしょうに」


「本当に」と、ルモニー王は、疲れた目でスープへと視線を落とした。


「あのような若き才能に溢れた者がいてくれれば、また違った展開になっただろうね」

「たしか、あの方は傭兵でしたわね?」


 アーミラが問うた。


「エアリアを訪れになった時、セラフィナ姉様の警護をしていたとか」

「ええ。……ライガネンに行くという私の旅を助けて、無事果たしてくれた人。そして、アルゲナムを取り戻すために、全てを投げ打って助けてくれる人」


 セラは目を細める。彼に出会わなければ、いまのセラはいない。ライガネンにたどり着くことは叶わず、ここに来るまでに起きたことを振り返れば、アルトヴュー王国は怪獣の蹂躙を許し、アーミラやルモニー王らのリッケンシルト軍の運命もまた終わっていたかもしれない。

 ……そういえば、ジパングー国も救ったんだっけ、ケイタは。


 いまウェントゥス傭兵軍に合流しているジパングー国の兵士たち。彼らもまたケイタに恩義があり、アルゲナム奪回のために命を賭けてくれている。


「忠臣だね」


 ルモニー王は言ったが、すぐに首を振った。


「あぁ、アルゲナムの民ではないのか」

「遠い遠い、ニホンという国の出身と聞いています」


 この世界の人間ではない――ユウラから聞かされた言葉が、胸の奥を疼かせる。彼は故郷を離れ、帰ることもままならない。だがそれをまったく表に出さない。


 ――私は、彼に何をしたあげられるのかしら……。


 ケイタは力になってくれる。だけど私は、彼の力にはなれないのかしら――それを思うと、とても切なくなるセラだった。



  ・  ・  ・



 グスダブ城の中庭。崩れかけた城壁を少しでも補強しようと動くリッケンシルト兵らを他所に、慧太けいたたちは作戦の確認を行っていた。


「――敵陣に乗り込むわけだが、直前で敵に察知されようが、あるいは気づかれずに接近できたとしても、まず最初にやることは派手に一撃を浴びせることだ。ティシア、アウロラ」


 慧太は、二人の魔鎧騎士を見た。


「先制にウェントゥス兵で擲弾てきだん射撃を行う。その直後に先頭きって敵部隊へ突撃をかけろ。目に付く魔人兵は片っ端から倒せ」

「了解です」

「やっと出番だな! 腕が鳴るぜ!」


 金髪碧眼の騎士令嬢が頷けば、銀髪褐色肌の女騎士は、手を打ち合わせた。


「とはいえ、無理はするところじゃないから深入りはしないように。君らの援護にウェントゥス兵がつくから、ヤバイと思ったら下がってもいい」

「なあ、将軍さんよ。援護つけてくれる気持ちはありがたくもあるけど、兵をつけられると魔鎧機の機動性を殺すことになると思うんだが?」


 アウロラが言った。……何気に協調しようという姿勢は窺える意見である。慧太は小さく笑みを浮かべる。


「つまり、そういうことだ。兵の支援を受けられないようなところへ突っ込むなってことだ。……って、そう腐るな」


 口をへの字に曲げたアウロラに、慧太は好意的な態度を崩さなかった。


「今回は、セラも前線に出る。言うまでもなく、彼女は最重要護衛対象だ。こちらの総大将であるわけだから、万が一があっても困る。いざという時、彼女を援護できるように二人には注意してもらいたい」

「わかりました」


 ティシアは実に素直な返事だ。一方のアウロラも、渋々ながら頷いた。


「まあ、セラフィナ様はお守りしないとな。……だけどそれなら、姫様は後ろに置いておくべきじゃないか?」

「なら、お前が説得するか? 結果は見えてるけど」


 慧太の言葉に、サターナ、ユウラ、キアハらが同意と言わんばかりに笑みをこぼした。セラの一途な、いや頑固な面は、ウェントゥス傭兵団の面々は知っている。


「それにあまり前にお前たちを突出させないのは、セラの力を活かすためでもある。……怪獣戦で見ていたかもしれないが、セラの光の攻撃の威力は凄まじい。巻き添えは御免だろう?」


 それで納得したのか、アウロラはそれ以上は言わなかった。

 最終確認だ――慧太は一同を見回した。


「今回はあくまで敵の兵の数を減らすのが目的だ。戦いはこの一戦で終わらず、明日以降も続く。だからこの夜戦で無理はする必要はない。深追いはするな。オレが撤退と言ったら、速やかに戦闘を切り上げてグスダブ城へ下がれ」 


 アウロラはもちろん、戦闘に関しては積極的なリアナにも視線をやり、釘を刺しておく。……まあ、彼女に関しては、慧太の指示を無視することはめったにないが。


 一通りの説明を終えた後、解散する。

 城を出るのは、もう二、三時間先の予定だ。リッケンシルト軍が食事を用意しているというので、ティシアやアウロラが移動を始める。リアナも続こうとして、ふと、キアハが立ち止まっていることに気づく。


「どうしたの?」

「……もうじき、夜なので」


 キアハは額から角がはえる様子を、両手の指で再現して見せた。……なに、いまのポーズ、可愛い。


 とはいうものの、キアハの危惧は理解した。半魔人化する時間帯が迫る中、リッケンシルトの人間が多い場所に行くのが嫌なのだろう。……先日、アウロラとゴタゴタを起こしたばかりだ。


「アスモディア」


 慧太は、赤毛のシスターに声をかけた。


「悪いが、キアハの分の食事、持ってきてもらっていいか?」

「ああ、仕方ないわね」


 ため息をつく偽シスター。少なくとも修道女姿の者にヘタな絡み方をする者はいないだろう。

 キアハが「すみません」と頭を下げると、いいわよ、とアスモディアは手を振って食事を取りに行った。


「魔人貴族のわたくしに給仕の真似事させるなんて、感謝しなさ――」

「うるさい」


 サターナが、アスモディアを小突く。


「いったぁ、何するの――」


 文句を言いかけた彼女の襟元を、サターナが掴んで引き寄せる。


「……こんな人の多い場所で、魔人云々などと口にしないの。わかった?」


 低い声で脅しつけるサターナ。彼女の言うとおり、誰が聞いているかわかったものではない。


「……こいつはお仕置きものか?」


 慧太は腕を組んで、青髪の魔術師に聞いた。


「ええ、お仕置きものですね、これは」


 ユウラが同意する。そのやり取りが聞こえたのか、何故かアスモディアは頬を染めて期待のこもった視線を寄越してきた。

 いや、何故かではないな。わかってる。この魔人女は、変態なのだ。

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