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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
救援! グスダブ城攻防 編

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第三二八話、ベルフェの戦術


 レリエンディール第四軍オストクリンゲ攻略部隊の本営天幕内。

 ベルフェ・ド・ゴール伯爵は、椅子に座り、のんびりとお茶を飲んでいた。その正面に張り出されているのは、グスダブ城近辺の地図。

 天幕の中は重苦しい空気に満たされている。副官のアガッダをはじめ、第四軍幕僚、各部隊の上級指揮官らが並び立ち、第四軍司令官の言葉を待っていた。


「……我々は、今頃、グスダブ城に乗り込み、リッケンシルト残党にトドメを刺しているはずだった」


 魔鏡(めがね)の奥で無感動な目を、正面の地図に向けている。


「明日までにケリをつけて、温かくして休めるはずだったのに。……依然として我々は野宿だ、諸君」

「……」


 魔人指揮官らは押し黙る。この事態に陥っていることに関して、誰が悪いとか、そういう問題ではないのだ。


「シフェル姉様は、春のアルトヴュー攻略に集中するため、この冬のうちに邪魔なリッケンシルト残党や抵抗組織を潰すと明言された。そのために我々はわざわざオストクリンゲなどに足を運んだのだ」


 だが――ずずっとベルフェはお茶をすする。


「我々は、攻城戦の切り札たる18ポルタ砲を失った。おかげで諸君らはこれまで相応に楽ができたわけだが、生憎と今回はそうはいかない」


 幾多のリッケンシルトの拠点を破壊してきた第四軍の黄金パターンは崩れた。


「だからといって、我々はこのままおめおめと王都へ帰るわけにもいかない。たかが砲兵陣地ひとつと18ポルタを四門、騎兵二個中隊に損害が出たが、主力の重装歩兵の損害は軽微。城攻めに十分な戦力を残しているからだ」


 ベルフェは地図から、指揮官たちに視線をやった。何とも冷めた目だった。


「とはいえ、この寒さで兵も限界が近い。あまりのんびりしている余裕もないわけだ。新たな重砲を用意している暇もない。よって、我々は今夜、総攻撃に移る。つまり、明日の朝日を迎える頃には、グスダブ城を陥落せしめるというわけだ」

「ははっ!」


 上級指揮官らは頭を下げた。ベルフェはつまらなさそうに視線を地図へと戻す。


「重砲はないが、軽砲を有する砲兵大隊がある。夜間に城に近づき、城壁の弱い部分を叩いて突入口を作る。もし地形に阻まれるというのであれば、戦闘工兵による爆破でもよかろう。侵入口を作ったら、重装歩兵を突入させ、一挙にケリをつける。……なあ、いつもと大して変わらないだろう?」


 その言葉で、ようやく指揮官たちの間に笑みがこぼれた。しかしベルフェは笑わない。


「だが、気をつけたまえよ諸君。今回乗り込む城には、例のアルゲナムの騎士姫がいる。第二軍の蛮族どもを叩きのめし、あの悪食姫が深手を負わされた相手だ。くれぐれも、連中の二の舞にはなるなよ」


 ふだん無表情のベルフェのそれには、明らかに怒りに直結する響きがあった。今の彼女の警告を守れなかった場合、この幼い外見の伯爵が容赦のない制裁を下すことを部下たちは知っている。


「連中に、我々第四軍が重砲だけで勝ちを拾ってきたという思い込みを見返してやろうじゃないか……なあ、諸君?」



  ・  ・  ・



「夜襲を提案する」


 慧太けいたは、居並ぶ一同にそう告げた。

 グスダブ城会議室。ルモニー王に、アーミラ姫、リッケンシルト軍幹部のほかは、セラ、ユウラ、サターナ、アスモディアがこの場いる面々である。


「敵重砲を叩いたが、依然としてその戦力はこちらの三倍以上。砲兵陣地を叩く前に打ち込まれた18ポルタ砲弾によって、西側の城壁も脆くなっている。当然、敵はその弱い部分に戦力を集めてくる。守りに入ればジリ貧だ」

「しかし、ハヅチ将軍」


 リッケンシルト軍の将軍であるコルド――五十代半ば。頭髪のない頭に、髭を生やした彼は口を開いた。


「魔人どもの数が多い。城にこもって戦うべきでは? 外に出れば、それこそ物量で押し切られて全滅してしまう。敵の重装歩兵の隊列は崩せない」


 この年の差二倍以上の相手から、それなりに敬意をもって話をされる。冗談でつけた将軍というのが、ここで役に立つとは。


 いや、それだけではないだろう。魔人軍重砲陣地を潰した戦いぶり、それを指揮した者という戦果を、彼らも目の当たりにしていればこそか。


「そのための夜襲です」


 慧太は答えた。


「彼らもこちらが守りに徹すると見ている。よもやこちらから仕掛けてくるなど思いもしないでしょうよ。あなたのおっしゃるとおり、地の利を捨てて出てくるなど」


 その思い込みを利用する。


「お父様――ハヅチ将軍に賛成」


 サターナが軽く手をあげた。


「第四軍を指揮するベルフェは堅実な戦術を好むわ。奇抜な策に頼らず、確実性をとる。それゆえ読みやすいけど、手堅いからまともにやるといつの間にか押し込まれている」

「サターナに同意」


 アスモディアも挙手した。


「第四軍に定石どおりの戦い方をすれば負ける。とくに、ベルフェ本人が指揮している場合は」


 旧第一軍、第五軍の指揮官である彼女たちが賛意を示す。ベルフェ本人を知る彼女たちが言うのならそうだろうが、リッケンシルト側は、二人の美女が魔人であることを知らないために、どう受け取ったらいいかわからず困惑する。

 シスター服の美女は、ルモニー王やコルド将軍を睨むように見た。


「定石どうりに対応したから、リッケンシルト軍はここまで追い込まれてしまったのでは?」


 コルド将軍は眉をひそめた。年下の、しかもシスターとおぼしき女に非難するように言われては面目丸つぶれである。

 ユウラが口を開いた。


「しかし、慧太くん。夜襲となれば、暗さに慣れない者にとっては戦いづらい状況です。さらに規模が大きくなると誤認による同士討ちの可能性も出てくるのでは?」


 青髪の魔術師の言葉に、コルド将軍は同意するように頷いた。夜間に打って出て、はたして口で言うほど上手く行くのか――リッケンシルトの将軍らの危惧。


 これは、ユウラはわかっていて発言したな、と慧太は思った。おそらく、アスモディアの立ち位置を掴みかねている将軍らの態度が、いまの彼女の発言で硬化する前に風向きを変えようという魂胆だろう。


「夜襲には、オレたちウェントゥス傭兵軍だけで向かう」


 ルモニー王、アーミラ姫は驚いた。現在のウェントゥス傭兵軍は、第二次増援を得たがそれでも一個中隊程度である。魔人軍はまだ三五〇〇人以上の戦闘戦力を有している。わずか一〇〇名程度でどうするというのか、と。


「幸い、こちらには魔鎧機がある」


 慧太が言えば、セラが視線を寄越した。……わかってる、自分も行くというのだろう? 今回は当てせざるを得ないから、体調不良でもなければ参加してもらう。


「敵の重砲以上の火力がある魔鎧機がくさびを打ち込む。そこから夜の闇をついて敵陣をかき回す」

「そのまま一気にベルフェの本営を突く?」


 サターナが挑戦的に言った。慧太は首を横に振った。


「それはこの夜襲に何に重きを置くか、に変わるだろうな」

「敵の指揮官を撃つための夜襲ではないのか?」


 コルド将軍が聞いてきた。数で劣勢だからこそ、敵本営を討って形勢を逆転させる――そのための夜襲だと思っていたのだ。

 慧太は腕を組んだ。


「この夜襲で敵の戦力を削ぎ落とす。それ以上は望まない」


 というのも。


「魔人の戦意の高さは侮るべきじゃない」


 ゲドゥート街道での第二軍、ベルゼ・シヴューニャ直属の連隊と交戦した記憶。

 森の砦で待ち伏せしたあの夜、魔人騎兵は、初手で部隊の大半と指揮官を失ったにも関わらず、なおも騎兵を集め反撃をもくろんだ。指揮系統を分断したことで、歩兵部隊は壊滅させたが、戦意旺盛な魔騎兵の連中は、なお戦闘を続けたのだ。

 仮に本営のベルフェを叩いたとしても、次席指揮官が戦いを選択する場合も考えられる。……兵の数が城攻めに足る充分な数が残っていたら。

 そうであるなら。


「はじめから敵戦力の消耗を目的とする。派手にはやるが深追いはしない。ある程度の敵を叩き、明日以降の戦いの数の差を縮める」


 それに――慧太はサターナとアスモディアを見た。


「お前たちの言うとおり、ベルフェが堅実な指揮官なら、戦力差が縮まった状況での城攻めは嫌がるはずだ。重砲というアドバンテージを失っているし、何より――」

「春以降のアルドヴュー攻撃に向けて、戦力の損耗はもっとも魔人軍が望んでいないことだから、ですか」


 ユウラが後を引き取った。アスモディアが手を叩いた。


「なるほど。それなら案外、半分どころか三分の一の戦力を失った時点で、作戦を中止し引き上げる可能性もありますね」

「大事の前の小事」


 話を聞いていたセラが頷いた。


「魔人軍の考え方次第、といったところね」

「ベルフェがまともな指揮官で、その戦術が定石どおりというなら」


 慧太は意地の悪い笑みを浮かべる。


「ヘタに倒して、考えの分からない奴が指揮官になるより、残しておいたほうがかえって先が読みやすいというものだ」

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