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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
浸透! リッケンシルト進攻編

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第三一三話、不満


 セラたちがハイデン村に到着した時、慧太が率いる部隊はいなかった。


『団長たちは、接近する魔人軍の迎撃に出撃しました』


 出迎えたウェントゥス兵の言葉に、セラは驚いた。聞けば、敵は中隊規模。前線を越えて乗り込んだ慧太たちは、およそその半分以下――数の上では明らかに劣勢。その戦力で戦場に向かったと言う。

 同じく話を聞いていたティシアとアウロラもまた、色めきたった。


「すぐに救援に向かうべきでは?」

「ったくよぉ、だからアタシら前に出せばよかったんだよ……」


 彼女らの言葉をよそに、セラは、その兵士に聞いた。


「場所はどこです? すぐにケイタたちを助けに行きます」

『あー、それなんですが、姫君。救援は今のところ必要ありません』


 角付き兜をかぶったその兵士の表情は見えない。だがどこか困ったような仕草をとる。


「必要ない?」

『はい。団長は、みなさんに留守になるこの村の防衛強化をお願いしたいと。……戻ってくる場所がなくなると困りますので」

「……」


 押し黙るセラ。アウロラは額に手をあて、さも小馬鹿にしたように言った。


「ケッ、数で負けてんのに、自分たちだけで充分ってか」

「何か秘策があるのかしら」


 ティシアは顎に手をあて、考える。魔鎧機の一機でも到着次第、増援によこしてくれ――それが普通の反応に思えた。

 金髪碧眼の白騎士は、ちら、とセラを見やる。

 白銀の姫君は表情が硬かった。頭の中でさまざまな思惑が渦巻き、しかし感情の暴走を抑えているようにも見える。……明らかに、何か言いたいことを敢えて押さえている感じだ。


「――まあ、心配はいりませんよ。慧太くんですよ」


 青髪の魔術師、ユウラ副団長が、赤毛のシスターと共にやってきた。


「セラさん、魔人軍が本部としていた使っていた民家があります。そこで慧太くんたちが戻ってくるのを待ちましょう」

「ユウラさん……」


 セラが視線を向ければ、ユウラは飄々(ひょうひょう)とした調子で告げた。


「敵は中隊規模でしょう? 慧太くんなら、その程度の敵など問題ありませんよ。それにリアナさんやキアハさんもいるんです。……ええ、何も問題ありません」

「これくらいのことで心配していたら、後が持たないわよ、セラ」


 赤毛のシスター――アスモディアがお姉さんぶって声をかける。


「ケイタもサターナも、この程度でどうにかなるほど柔ではないわ」

「……二人とも、心配していないのね」


 セラが視線を俯かせる。対して二人は肩をすくめた。


「ええ、ぜんせん」

「薄情なのか、それとも信頼が篤いのか」

「もちろん、後者ですよ、セラさん」


 ユウラはきびすを返した。


「万が一はないとは思いますが、それに備えるのも仕事のうち。いまは体力を温存しておくべきです」


 アスモディアと去っていくユウラ。セラは無言でその背を見やり、アウロラは首を捻った。ティシアは白銀の姫へと顔を向けた。


「よろしいのですか?」

「……ええ」


 セラは、短く呼吸をして気持ちを静めると歩き出した。


「心配ではあるけれど、今まで彼が期待を裏切ったことは一度もないわ」


 待ちましょう――アルゲナムの姫はそう呟いた。



  ・  ・  ・



 慧太たちは、ハイデン村に帰還した。その数五十。

 ハイデン村での一戦や街道での待ち伏せで確保した分のおよそ半分は、分身体兵の影に入り余剰分とした。残りは、援軍を兼ねてミューレの古城へと派遣した。……もっとも伝令の鷹型の報告では、城の制圧は間もなく終わるとのことだった。


 騎乗していたコンプトゥスは馬へと姿を変えている。小型竜だと、それをどうやって確保したのか、セラやティシアら質問されるかもしれないからだ。馬なら、魔人軍が村で飼っていたのを鹵獲ろかくしたとか適当な言い訳ができる。


 村に戻ると、すでにセラたちがいて、出迎えを受けた。しかし当のセラは、どこか拗ねているような顔をしていた。……大方、自分の知らないところで勝手に戦いに行ったことで言いたいことがあるのだろう。

 こちらにも都合というものがあるが、だからといって彼女をないがしろにしていいというものでもない。この当たりはきちんとケアをしておかなければならない。……投手を盛り立てる捕手の思考。


「お疲れ様。怪我がなくて何よりだったわ」


 それでもセラは労いの言葉を忘れなかった。


「昨日から働きづめだったでしょう? 話を聞きたいところだけれど、少し休む?」

「実は村を出る前に少し寝てる。……話を先にしようか」

「……あまり無理はしないでね」


 セラの青い瞳によぎる影。


「戦場にいる時は、私の見える位置にいてね。……そうでないと危ない時、助けられないから」

「できるだけ気をつける」


 慧太はセラと共に、旧村長宅――魔人軍駐屯部隊司令部へ向かった。

 途中、背後に控えるガーズィに、警備兵の配置と、魔人軍から回収した戦利品の整理をするように告げ、終わったら、カルヴァンを呼べと言っておいた。

 村長宅の居間の大テーブルには、ユウラとアスモディア、ティシアとアウロラがいた。


「お帰りなさい、団長」


 ユウラが挨拶を寄越した。

 アスモディアはテーブルの端で、なにやら紙を覗き込んでは、それを別の紙に書き写していた。

 ティシアは席を立ち、一礼したが、アウロラは座ったまま、睨むような目を慧太に向けている。


「戻った早々悪いですが、今後の打ち合わせも兼ねて、お話いただけますか?」



  ・  ・  ・



 慧太の報告は簡潔だった。

 ハイデン村での夜襲は、敵の警戒が手薄で攻めやすかったこと。

 街道での魔人軍増援部隊への待ち伏せは、ただ地形に合わせて伏せ、爆弾矢などを用いて不意を突いて敵を殲滅せんめつした、と細部は省いた。

 結果が肝心であり、どう倒したかの話は、この場ではさほど重要ではないと思ったからだ。


「……まあ、傭兵らしい小賢しい戦い方なんだろうな」


 アウロラがそんなことを言った。このあたりでは珍しい褐色の肌、短く刈った銀色の髪を持つ女騎士は、しかし騎士らしからぬ口調である。明らかにトゲを含んでいた。


「何が言いたい?」


 慧太は冷ややかな言った。アウロラは肩をすくめた。


「別に。……ただ、アタシなら、もっと上手くやれただろうなーって思っただけさ」

「魔鎧機は温存する」

「それは前も聞いたよ」


 アウロラは、慧太を睨んだ。


「国王陛下直々に、アンタの指揮下に入るように言われてる。……だけどアタシはアンタがそれに足る能力があるか疑ってる」

「アウロラ!」


 ティシアが顔をしかめれば、アウロラは片手をあげて、金髪の女騎士を制する。


「言わせてくれよ、ティシア嬢さま。この任務は色々気にくわないことだらけなんだ」

「いいだろう、聞いてやる」


 慧太は席につくと、離れてはいるが目線を、アウロラに合わせた。


「不満を聞くのも仕事のうちだ」

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