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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
浸透! リッケンシルト進攻編

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第三〇七話、ハイデン村攻撃


 リッケンシルト国東部、ハイド川にほど近い場所にある小さな集落。

 家屋の数は一〇。他に貯蔵庫や家畜用の小屋が三棟。村の周囲には石を積み上げた高さ一メートルほどの石垣がある。


 ハイデン村――


 分身体が事前に集めた情報によると、現在、村人はなし。魔人軍の進撃を聞き、避難した者は難を逃れたが、残った者は労働用の奴隷以外は殺害されたという。その労働奴隷もまた、劣悪な環境に耐えられず全滅したらしい。


 要するに、ハイデン村にいるのは魔人しかいないということだ。


 村の東側にある森を慧太けいたとウェントゥス兵は進んだ。途中、森をうろついていた魔人兵を発見し、気づかれる前に始末した。

 村を視認できる距離まで近づいた時、慧太は、ダシュー以下二〇名を右方向から迂回させ、ガーズィら十五名を左方向より進ませた。自身はキアハと十五名を連れて、ハイデン村を監視する。


 石垣の切れ目、村の東口に、見張りが一人立っている。何とも暇そうで、石垣にもたれて、あくびをしていた。

 慧太の傍らにいるウェントゥス兵が小声で言った。


『何とも緊張感に欠けてますな』

「……前線から下がれば気も緩むさ。国境線には部隊がいて、そいつらがドンパチやらなきゃ自分たちが襲われるはずがないって普通は思う」


 それに、今のこの時期、誰が魔人軍に戦いを挑むというのか――彼らはそう思っているに違いない。アルトヴュー軍は国境線から下がっているし、攻撃の兆候もない。

 その油断につけ込む。そのための浸透突破であり、警戒心に乏しい前線後ろを襲撃するのだ。これぞ奇襲。


「あの哨兵しょうへいをまず始末しろ」

『了解』


 兵は頷くと、身体を低くする。足音をしのばせ、しかし小走りに移動しながら見張りの側面へと回り込む。

 慧太はその様子を見守る。木の裏に隠れる他の兵も、シ式クロスボウを構え、万が一、哨兵が気づいた時にすぐに射殺できる態勢をとっていた。……撃ったほうが速いと思うかもしれないが、接近して喉を切り裂くほうが仕留め損なっても通報される確率がグッと下がるのである。


 数秒後、ウェントゥス兵は、見張りの魔人兵に肉薄し、その命を絶った。……本当にうたた寝していたのかもしれない。人形のようにぐったりと倒れこむ死体を、ウェントゥス兵は静かに地面に横たえ、石垣から周囲を窺う。危険なしと判断し、待機する慧太たちを手招きした。


 行くぞ――慧太とキアハ、十四名の兵は一気に石垣まで駆けた。遮蔽しゃへいになる石垣を盾に、村の様子を眺める。……出歩いている敵兵はいないようだ。建物にはほのかな明かりが漏れていて、笑い声なのか、はたまた喚いているのか、喧騒けんそうがかすかに聞こえてくる。


随分ずいぶんとにぎやかだな」


 慧太は呟くと、傍らにいるキアハを見た。

 半魔人である彼女の目は、金色に輝いている。それは夜の闇のなかでも月明かり程度でも充分な視界を得ていることを物語っている。額に伸びる小さな一対の角に、灰色の肌。いわゆる鬼である。……美人な鬼だな、と改めて慧太は思う。


「大丈夫か?」


 突入を前に、あいさつ代わりに聞けば、キアハは視線を村の建物に向けたまま「ええ」と頷いた。……少し緊張しているようだ。


「オレの後についてくるだけでいい。先鋒は周りがやってくれる。……いざという時は指示するから、その時は頼む」

「はい……!」


 敵地を前に声を落としているが、返事は元気だ。慧太は分身体(ウェントゥス)兵らを見た。


「打ち合わせどおり、五名ずつで建物ひとつを制圧する」


 行け――指揮官(慧太)の合図に、兵たちは石垣の間の入り口を通り、一列となって村へと侵入を図る。

 足音を立てない静かな走り。装備同士がぶつかって立てる音すらも聞こえない。彼らはシェイプシフター――その装備はすべて自分の身体。

 ほぼ同じ時に、ダシュー、ガーズィの隊もそれぞれ侵入を開始している。


 土を踏みしめ、石造りの民家――その木製の扉の前へとやってくると、まずは壁に張り付き、間を取る。ここまでの気配を感知した魔人たちが何か動きを見せていないか……。


 変わりなし。


 暢気のんきに酒でも飲んでいるのか、騒がしい。扉が開いた時に備え、正面にクロスボウを構えた兵士。扉の蝶番ちょうつがいにしゃがんだ兵は、そのわずかな隙間に自身の指を挟ませ――中の様子を確かめる。


 素早く室内の魔人兵の配置を仲間たちに伝達。それが終わると、扉の取っ手に手をかける。別の兵が手に爆弾(手榴弾)を両手にひとつずつ持ち、合図を待つ。

 扉を少しだけ開ける。わずかな光が漏れた瞬間、爆弾を持った兵は室内にそれをそれぞれ放った。

 すぐに扉を閉める。続いて中からくぐもった爆発が二回と、魔人兵の悲鳴が上がった。


 突入――取っ手を掴んでいた兵は扉を全開にし、待機していた残る兵四名が民家の中へと飛び込んだ。


 痛みに呻く魔人兵。豚顔のセプラン人に、鬼型、狼型――息のある兵にクロスボウを脳天や心臓に叩き込み、トドメを刺していく。


 ウェントゥス兵は無言で、室内を捜索する。爆発を聞きつけ、別部屋にいた魔人兵が何事かとやってくれば、突然頭をつかまれ喉を割かれたり、あるいは角付き兜の見慣れない兵士に眼前から矢を撃ち込まれ倒された。


 制圧にさほど時間がかからなかった。一番人数の多かった大きな建物――おそらく村長の家だったのだろうが、そこの制圧も問題なく進んだ。

 慧太は二階へ上がり、駐屯部隊指揮官のが使っているとおぼしき部屋を捜索する。なにやら金品を溜め込んでいたようだが、こんなところに置いて使い道があるのだろうか、とふと疑問に思ったりする。


『団長』


 兵のひとりが一階から上がってきた。


『死体の確認終わりました。指揮官も一階で死亡しております』


 この部屋が無人であることを考えれば、そうなるか――慧太は頷くと、下へ降りた。リビングに横たわる魔人兵の遺体。だが慧太は検分しなかった。


「ここは任せるぞ。キアハ、来い」


 慧太はキアハを連れて外に出る。次は村の外側に配置されている砲とそれを見張る魔人兵らを沈黙させなくてはならない。

 室内の爆発音が、はたしてどのように外の魔人兵らに聞こえたか。いくら気を抜いている連中とはいえ、さすがに警戒しているだろう。

 家の外に出ると、村の建物から、ウェントゥス兵が三人ずつ小走りでやってくる。次は砲兵陣地と、彼らもわかっているのだ。


 砲が三台、置かれているのは村の北側だ。慧太は左手方向に見えたガーズィとその分隊に西へ回り込むように手で合図した。自身はキアハと、合流した九人を連れて村の中央から北へ。

 一番北側の民家の影、魔人軍の砲が見える位置に六名のウェントゥス兵の姿が見えた。そのうちのひとりの兜と甲冑には、銀のラインが入っている。


 ダシューである。彼は振り返り、慧太が近くに来るのを待って言った。


『北側に一個分隊を回しました。敵は十名ほど。気をとられたところを、一気にります』

「わかった。援護する」


 慧太は首肯した。ダシューは再び砲兵陣地を見やる。

 まわりを背の低い石垣で囲まれているそこには、車輪付き大砲が東の方向へ砲門を向けて並んでいる。現代人視点の慧太から見れば、ずいぶんと古めかしい砲である。

 この位置からでは……国境線に届くのだろうか。射程内であったとしても、目の前の森の木が邪魔をしているような気がしないでもない。


 それはともかく、暗闇のなか、魔人兵のシルエットが不審げに動いていた。村で何か起きたようだが、それが何かわからず困惑しているのだろう。誰か様子を見に行かせたほうがいいのではないか――彼らがどんな会話をかわしているのか、目に浮かぶようだった。


 その時、魔人兵らは不意に一方向――おそらく北側にまわったウェントゥス兵が立てた音に一斉に向いた。


「突撃……!」


 ダシューが命じ、先頭きって駆け出した。兵らも石垣に囲まれた砲兵陣地へとなだれ込む。

 それに気づいて振り向いた魔人兵は真っ先にクロスボウの一射に射殺され、思わず伏せた兵は、肉薄したウェントゥス兵のショートソードに斬られ、もしくは貫かれた。


『敵兵が逃げるっ!』


 石垣を飛び越え、魔人兵のひとりが背を向けて陣地から飛び出した。ダシューは悪態をつく。


『くそっ、逃がすな!』


 追いかけるウェントゥス兵。近くの魔人軍部隊に通報でもされたら厄介だ。

 だが兵たちは石垣のところで止まった。逃走した魔人兵は、回りこんできたガーズィらが放った矢に蜂の巣にされたのだ。


『始末した!』


 サムズアップで、お互いに確認したウェントゥス兵。


『陣地を制圧しました』


 ダシューの報告に、慧太はほっと息ついた。


「まあ、滑り出しとしてはこんなものかな」


 ハイデン村の駐屯部隊を叩いた。今頃、家屋に残してきた兵が周辺の捜索と、残る貯蔵庫や家畜小屋を見ている。

 ダシュー、そしてガーズィに村の捜索と、生き残りがいないか念入りに確かめるよう告げる。敵に奪回を知られるのは、遅ければ遅いほどいい。


 慧太は魔人軍の大砲を見やる。敵の兵器と砲弾一式を無傷で鹵獲ろかくした。その使い道については……まあ、そのうちあるかもしれない。

 慧太は村に戻ろうとして、ふと、手持ちぶさなキアハが立っているのに気づいた。彼女は視線に気づくと、恥ずかしそうに頬をかいた。


「あの、えっと……特に何もすることがなかったですね」


 慧太も少しばつが悪くなる。彼女を上手く使ってやれなかった――使う機会がなかった。役に立てなかった、と気に病まなければいいが。


「そういうこともあるな」


 来いよ――と慧太は歩きながら手招きした。


「ちょっとオレを手伝ってくれ」

「はい!」


 嬉しそうについてくるキアハだった。

次話、『ミューレの古城』


その古い城は、魔人軍の拠点として国境線をにらんでいた。そこに迫るのは狼の群れ――

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