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第二十八話、ひざ枕

 グノーム人の宴は盛況のうちに終了した。

 酔いつぶれてしまったセラとは対照的に、ほとんど酔わない慧太けいたはグノームの酒豪たちと飲み比べをして、彼らすべてを打ち負かした。……ゲストとしてのお返しは、果たせたと思っている。


 お開きとなった後、寝ずにグノーム集落を眺めて気づいたこと。

 クリスタル状の大型魔石灯は集落のある空間にいくつも設置されているが、操作をしないと一定時間で消える。

 そしてその光りの点灯時間から、おおよその時間を割り出していた。グノーム人がそれによってグループを作って集落を出たり、食事の支度をしているのを見ながら、太陽の光りの届かない地下でも時間があるんだ、と妙な感心をする慧太である。


 結局、慧太は、昨晩の宴が行われた集落の中央広場から動けずにいた。その原因は酔った上に眠ってしまったセラが慧太の膝を枕にしていたからだ。


 膝枕。


 女の子が膝枕をしてくれている、ではない。女の子を膝枕しているのである。

 麗しき銀髪のお姫様は、すやすやと寝転がっている。……そういえば初めて会った日の夜も、この無防備な寝顔を見たんだっけ。


 ――って、まだ二日した経ってねえじゃん!


 慧太は頭を抱えた。朝が来たので三日目だ。傭兵団のアジトでは結局朝が来る前に出発したし、昨日は昼ごろにはすでにここの地下をさまよっていたのだ。


 ――ユウラたちは、どうしているかな……。


 ちょっと意識を集中してみる。彼らについている黒馬――アルフォンソは慧太の分身体だ。そこから様子を見ることも――


「……」


 薄ぼんやり、光りが見えたような気がする。だがそれだけだった。

 アルと分離してからしばらく放置していたので、繋がりというか制御がかなり甘くなっているようだった。……もうしばらく放っておいたら、ひょっとしたら独立して独自の意識、つまり自我を獲得するのではないか、と思ったりする。


「地下にいるのが悪いのか……別に電波飛ばしているわけじゃないから関係ない……よな」


 一人呟いても答えが出ない。まして誰かが答えてくれるわけでもない。


「ん……んん……」


 もぞっと、膝の上でセラが動いた。長いまつげにふちどられた瞼がかすかに動く。

 どうやらお目覚めのようだ。誰も見ていないのをいいことに、慧太は膝ポジションをあぐらから、正座へと変化させた。……膝枕はこうでないと、と謎理論。本当は自分が女の子に膝枕されたい。


「おはよう、セラ」

「……ケイタ……」


 うーん、と小さく声を漏らしながら、その青い瞳で見上げる。セラは逆さの慧太の顔をぼんやりと眺め、バッと顔を赤らめた。

 拳が来る予感がしたので慧太はすっと顔を上げた。セラが飛び起きたのは、そのわずか後だったので顔面衝突は避けられた。危ない危ない……。


「あ、あのケイタ……! わ、私!」

「おはよう、セラ」


 慧太はにっこりと笑った。セラは赤面したまま同じく正座して向き合う。


「お、おはようございます。あの、私、ずっとケイタの――」

「膝の上で眠ってた。……可愛かった」

「か、かわい……!?」


 両手を頬に当ててセラは動揺する。――うん、可愛い。


「ごめんなさい、ケイタ。その……重かったですよね」

「え、頭乗ってただけだから重くはなかったよ」

「ずっと、起きて、ました……?」


 恐る恐るといった感じで言うセラ。慧太は次にくるだろう反応を予想し苦笑。


「ああ、起きてた」


 嘘はつけない。慧太が認めたのでセラはさらに「ごめんなさい!」と頭を下げるのだった。そこへ若いグノーム女性がやってきて、朝食の用意ができていることを教えてくれた。

 おさの家に案内され、朝食に用意されたスープとクッキー――例の食用土入り――、アルコール成分なしの水をいただいた。


「地下に清んだ水が流れておりましてな」


 長は言うのである。


「セラフィナ様、よければ水浴びなどいかがですかな? 我が集落には温泉もありましてな。旅の疲れを癒されては」


 ちらと、銀髪のお姫様は慧太を見やる。――何でオレを見た? 

 慧太が口に出すより先に、察したらしい長は言った。


「もちろん、男女別です」

「あの、ケイタ――」


 セラが耳打ちするように、慧太に近づき小声で。


「……ひょっとして私、臭ってます?」

「あー……それほどは――少しだけ」


 嘘はいけないな、と思う。まだ軽いうちに言っておいたほうが、後々のことを考えればいいだろう。


「一応、先を急ぐ身ですので……水浴びだけ」


 ぼそぼそと、セラは長に答えるのである。年頃の娘だし、清潔に保とうという意識があるのは、育ちのよさゆえだろう。慧太は土入りクッキーを食べる。……堅かった。


 ――味がよくわからんなぁ。


 全部が土ではないようだが、そうなると残りの部分は何でできているのか。

 地下で穀物が育つとは思えないが。そう考えて、たぶん地上人との交易で手に入れたのだと気づいた。

 慧太は関心が薄かったが、そういえば傭兵団でもグノーム産の金属武器が人気だった。鉱石やら金属加工に秀でる彼らと地上の品を交換したり商売も成り立つわけで。……そもそもグノームの長や、食事の世話してくれた女性はこちらの言葉を問題なく話していた。戦士の一団は訛り(・・)があったけど。


「それで、道順ですが――」


 慧太が切り出せば、長はかぶりを振った。


「ライガネン方面に抜ける道中は昨晩話したとおりですな。少々危険な道じゃが、腕の立つ案内人をつけますので、迷うことはないはず」

「ご厚意、感謝いたします」


 セラがすっと頭を下げる。地上へ戻る道筋が具体性を帯びたので安堵しているのだろう。


「じき、こちらに寄るので、それまでゆっくりしてくだされ。……ああ、そうトリー、セラフィナ様を水場に連れて行ってあげなさい」


 トリー、と呼ばれたグノーム女性は会釈で応えた。長は慧太を見る。


「ケイタ殿も如何かな?」

「あー、オレは遠慮しておきます」


 そっけなく辞退する。水場で他の誰かが居合わせる可能性を考えたのだ。実は人前で脱ぐというのを極力避けたい慧太だった。

 何故か? 慧太が身に付けているのは自身の身体から分離させて構成しているもの。頭で考えればすぐに身体に取り込めるのに、わざわざ脱いだり逆に着たりするという動きは実に面倒臭いのだ。

 基本、慧太は服を着ているように見えて全裸(・・)のなのだから。


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