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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
邪神召喚 編

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第二八三話、異界の大怪獣


 地下通路を抜け、地下神殿――その外観を形成する遺跡群に出たセラたち、ウェントゥス傭兵団は、トラハダスの武装信者の出迎えを受けていた。


 身体強化された改造人間である半魔人と思しき戦士が、足を刃に変えて、跳び蹴りを放ってくる。狙いは銀髪の戦乙女――


「死ぃぃねぇぇぇー!」


 地面がえぐれる強力な蹴りを、セラは飛び退いてかわす。砕けた石の破片を無視し、前へ。銀魔剣アルガ・ソラスに光を宿らせたセラは、半魔人を一刀両断のもとに切り裂く。


 崩れた建物の屋根、壁の影に潜む武装信者らがクロスボウを撃って来る。対するウェントゥス兵もクロスボウで応射しつつ、遮蔽しゃへいに取り付く。

 迂闊うかつに顔を出した信者に、リアナが必中の矢を浴びせて倒す。……正直、照明もわずかな地下にあっても、狐人は器用に敵を仕留めていく。


「セラさん!」


 キアハがセラのそばで左腕の小型盾(バックラー)をかざして守りを固める。夜に半魔人化するキアハだが、地下とはいえまだ昼のためか角は生えていない。だがその瞳は闇にも対応しているのか金色に光っていた。


「右上に敵――!」


 おおざっぱな指示だが、キアハの向いている方向から、敵の姿を捉える。クロスボウを構えようとしている。


「光の弾、敵を貫けッ!」


 左手から凝縮した魔力を光に変換。光弾を撃ち放つ。さすがに大規模な教団拠点だけある。武装信者の数が多い。


 爆発音。見れは廃屋に潜んでいた敵が、ウェントゥス兵の投げた爆弾で吹き飛んでいた。……そういう使い方もあるのか。

 ガーズィ隊長が、建物の窓に爆弾を投げ込む。すると隠れていた敵兵を一網打尽にする。


「右側面! 魔獣が来る!」


 ウェントゥス兵の警告。右建物の影から敵の増援。双頭の狼のような獣が二体と、武装信者が数名駆けてくる。


「次から次へと……!」


 セラは新手に対処すべく光の槍を具現化させる。その間に、後ろから追い抜いた矢が双頭の魔獣の頭の片割れを貫通した。


 リアナだ。次の一射がもう片方の頭の眉間を打ち抜いたその時、異変が起きた。


 地の底より響くような震動が、波のように地面を揺さぶった。魔獣や武装信者が混乱し、セラや仲間たちもまた、何事かと目をみはる。


 地震はすぐに収まった。だが地響きは依然として聞こえ、遺跡群の奥のほうから光のようなものが漏れ、天井へと伸びていく。


「……どうやら、儀式は終わってしまったようですね」


 ユウラの声。セラは振り返る。儀式、終わった? ということは――


「魔力が溢れている……何か、とてつもなく大きなモノが来ます!」


 青髪の魔術師は声を張り上げた。


「退避を! ここも危ないかもしれない。……後退っ!」


 後退? ――不気味な地響きは続いているが、いまいち実体を掴みかねているセラ。トラハダス兵らも動揺したままだ。「後退!」と珍しく怒鳴るユウラの声に、ガーズィが反応した。


『後退だ! 退避!』


 それが引き金になったように、ウェントゥス兵は戦闘を切り上げ、素早く後退に移った。

 いや、待って――セラは慌てる。慧太とサターナが、先にこの地下神殿に潜入していたのではなかったのか。いまここで引いたら、彼らは――


「セラさん、急いで」


 ユウラがやってきて、セラの肩当てを軽く叩いた。


「でも、ケイタが――」


 轟音が響き渡る。地面が割れる音がした。深部で何か巨大なモノが遺跡群を内側から突き破って現れた。

 きしむような咆哮が地下空洞内に木霊し、思わずセラは耳を塞いだ。揺れが大きくなり、その巨大なモノが地下の天井にぶつかり、崩し始める。


 ここは地下だ。天井が崩落すれば、圧死もしくは生き埋めの可能性大だ。事ここに至って、セラもやむなく退避した。



 ・  ・  ・



 地震は王都全体を襲った。

 アリシリーニュ城――邪神教団の地下秘密拠点発見の報告を受け、討伐隊を編成していたアルトヴュー軍警備隊も、その揺れを感知した。


 直後、すさまじい大地の割れる音が響き渡り、城にいたアルトヴュー王フォルトナーは、その塔のようにそびえる天守閣(キープ)から、王都全体を見回した。


「なんだ、あれは――!」


 東地区。トラハダスの地下拠点があると通報された場所で大規模な陥没が起き、そこにあった建物が崩落した。だがフォルトナー王の注意を引いたのは、王都の景観ではなく、姿を現した巨大な異形物体にだった。


 厚い雲のあいだから差し込む光を浴びて、その鋼のような表面が銀に輝く。

 竜を思わす頭が三本、長く首に支えられてそびえる。中央の竜頭は銀、左右の頭はやや小ぶりで青い機械的な皮膚を持っている。

 その曲がったような背中は亀の甲羅のように盛り上がり、また蚯蚓腫みみずばれのような模様が縦横に入っている。

 太く逞しい四本の足。それぞれの足は、三階建ての建物すらすっぽり入るほどの大きさがあり、それがいかに全体の大きさが規格外であることを物語っている。


 災厄といわれた銀竜ズィルバードラッケすら子供のように思えるほどの巨体。天を切り裂かんばかりに咆哮ほうこうが響き渡る。

 アリシリーニュ城の展望台からそれを見る王の表情は強張り、冷や汗が流れる。


「古代文明時代の機械のような身体……」


 ぐっと、拳をかため、歯を剥き出す。


「鋼鉄の化け物ともで言うのか……!」


 陛下――後ろで家臣らが、異形の化け物に動揺を露にしながら言った。


「ここは危のうございます……! 避難を――」

「避難? どこに逃げろというのだ」


 あんな化け物から――そう言いかけた時、再び機械のような身体を持つ異形の化け物、その三つ首がそれぞれ吠えた。

 そのうちの一頭、左側の青い竜頭が、アリシリーニュ城を見やった。その大きな口を開け、その口腔内の青白い光を蓄えると……次の瞬間それを放った。


 光線、いや熱線は渦を巻くようにアリシリーニュ城の塔状の天守閣の下の部分を貫通した。


「おおっ……!?」


 天守閣が揺れた。王も、家臣や騎士らも目を閉じ、伏せる。


 やられた? 死んだのか? ――自分らがまだ生きていることを自覚するまでにしばし。


 天守閣はやや傾いていたが健在だった。フォルトナー王は、いま一度、展望台から見る。上からでは見えないが、天守閣の低い階層部は、化け物の光線によって貫かれ、大穴が開いていた。上と下への通路も光に飲み込まれ、往来の手段を失った。


 機械の異形化け物は、王都への攻撃を開始した。一歩を踏み出すたびに地面が揺れ、三つの頭から吐く、熱線が建物をいとも容易く吹き飛ばしていく。


 この世の地獄が、具現化したようだった。


 このまま王都ドロウシェンは、得体の知れない化け物に蹂躙じゅうりんされるのか。

 いや王都だけではない、アルトヴュー王国は、いや、この大陸は灰燼かいじんに帰すやもしれん――フォルトナー王は、ただ見ていることしかできなかった。

 どうしろと言うのだ。あんな化け物を!



 ・  ・  ・



「あっはははっ――!」


 トラハダス大幹部、メンテリオは歓喜していた。

 大召喚は成功した。五百人の信者を生贄に、異界におわすトラハダス神をこの世に呼び込んだのだ。


 神は、大きかった。


 神殿深部を突き破り、地下の天井すら破壊して外へとその巨体を飛び出した。

 メンテリオら幹部らいた建物をも揺さぶり、気づけば天井の一部が崩れて、潰された者もいたが、幹部らは無傷ないし軽傷で済んだ。


 地下にいながら空が見える。が、視界の大半は銀に輝く体を持つ異界の魔獣、いや神の姿だった。


「素晴らしい! これこそ、世界に破滅をもたらす神の降臨だっ!」


 神が一歩を踏み出すたびに、そのそばにいる彼らの身体は揺さぶられた。だがそれは頼もしくもあり、トラハダス幹部たちは、恐怖よりも興奮がその身体を支配していた。


「さあ、トラハダス神よ! この世界に破壊と混沌を! あははははっー!」

次回、『大怪獣トラハダス』


王都を破壊する機械の巨大怪獣。対する慧太たちの反撃は――

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