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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都ドロウシェン 編

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第二七六話、黒犬の双子


 金髪少女――エンビ姉さんとか片方から言われたほうは、慧太の打撃に耐えた。

 一方、ロコと言われた銀髪少年は、腕をシェイプシフターみたく変化させ槍とした


「お前ら、何者だ?」


 慧太けいたは問う。外見はともかく、普通の人間には思えない。


「ボクらの正体なんか聞いてどうするの、おにぃさん?」


 ロコがさも馬鹿にしたように言う。エンビも両手を腰に当てて胸を張った。


「これから死ぬのに」

「誰が……死ぬのかしら?」


 サターナの紅玉色の瞳が獰猛どうもうさを帯びる。


「ここにいたアルトヴューの兵を始末したのは、あなたたちね?」

「そうだ、と言ったらどうする?」

「どうもしない」


 慧太は淡々と答えた。


「だがオレたちに牙を剥くなら、ブチのめすのみ」

「ハッ! だったらやってみなよ!」


 ロコが再び突進した。狙いは慧太だ。再び手を槍化させての突き――であるなら!

 慧太の腕に盾――カイトシールドが具現化する。槍の突きと盾で滑らせて、先ほど蹴りあげたのと同じパターン。

 だが今度は蹴らない。シールドから無数のトゲが出現。そのまま突っ込んでくるロコの身体に体当たりを喰らわせる。


「ぐあっ!?」

「ロコ!」


 エンビの声。今ので何回目だ――弟の身を案じる姉に対して慧太は思った。


「……まさか、オマエぇ! ボクと同じ力を……」

「はて、同じとは?」


 慧太はロコに問う。腹にスパイクを受け、血を滴らせる銀髪少年。


「……悪魔化。トラハダス様の力だ!」

「トラハダス……そうか、お前は半魔人か」


 キアハ同様の――

 ロコの手の形状変化も、改造手術による力。そうした常人離れした能力を移植ないし改造して怪物を作るのが、トラハダスという邪神教団だ。


「半魔人? ふざけるな。ボクたちは『悪魔』だ!」


 ロコは、慧太の言葉に激昂した。


「偉大なるトラハダス様の地上支配の尖兵、それがボクたちだ! 出来損ないの魔人と一緒にするな!」

「出来損ない……? 聞き捨てならないわね」


 サターナの低い声。見れば彼女はエンビの頭を掴み、地面に叩きつけていた。


「人間と獣を掛け合わせた『魔獣もどき』が、何をほざくのかしら?」

「ね、姉さん!? オマエぇ! 姉さんから離れろッ!」


 いつの間にかサターナに捕まり、倒されている姉の姿にロコはこれ以上ないほど取り乱した。


「放してあげてもいいわ。ただし、こちらの質問に正直に答えること。それが条件よ、ロコ」


 サターナは笑みを浮かべた。物語の主人公を脅すような、完全な悪女顔である。

 だが――


「痛いじゃないの、あんた……!」


 エンビのドレス、その背中部分が内側から破れ、ハリネズミの如く無数のトゲが突き出る。それはサターナの腹部に刺さる!


「……この!」


 虚を突かれるサターナ。手が頭から離れたのを幸いと、エンビはサターナの腹部を蹴り上げ、距離をとった。


 ――姉も形態変化するのか。


 エンビの背後のトゲは消え、いまは白い背中が露になっている。慧太はサターナに声をかける。


「そっちは大丈夫だな?」

「ええ。あれくらいのトゲ、どうってことはないわ」


 物理耐性に強いシェイプシフターである。サターナはその長い髪を払い、鬱陶うっとうしげな顔になった。


「というか、面倒臭くなってしまったわ。もう、倒してしまってもいいんじゃないかしら?」

「まあ、そうだな」


 決して手を抜いたわけではない。だが、突然の襲撃、さらに半魔人である二人と、トラハダスと聞けば、他にも色々聞きたいことがあるのだ。

 問題は、このエンビとロコの姉弟が、押さえ込むには少々面倒な能力を持っているということだ。


 慧太は姉弟を注視する。半魔人と言えど無理やり戦わされているような雰囲気もない。戦場を楽しんでいるような奴には何の遠慮もいらないだろう。……聞き出さなくとも、情報を得る手段はあるし。


「……まいったなぁ、おにぃさんたち。ほんと、強いよ……」


 ロコは、しかし笑っていた。


「エンビ姉さん、これ本気出さないと、たぶん勝てないと思う」

「ええ、まったく」


 金髪少女――サターナに打ちつけられたせいで、額から血が流れていた。だが彼女もまた動じていない。


「聞かせてよ、おにぃさんたち。いったい何者? トラハダスでは見かけない顔だけど、普通の人間でもないんでしょう?」

「オレたちの正体を聞いてどうするんだ?」


 慧太は淡々と告げる。


「どうせ、死ぬんだろう?」

「やり返したつもり!?」


 エンビの手に青い光が灯る。


「凍れ……!」


 彼女の身体を中心に、強烈な寒波が衝撃波となって放たれる。荒れた冷風による一瞬のひるみ――だが慧太は視界の端で、銀髪少年が飛び上がったのを捉えた。


 ――また、連係……!?


 石畳が、またたく間に凍っていく。それは慧太とサターナへと伸びていく。


 ――足元を凍らせる腹か!


 寒風に負けず、慧太は前進する。氷つく地面が達するより前に前方に跳躍。足裏にブレードを具現化させ、凍った表面を滑るようにさらに前進。

 エンビは狂気を含んだ笑みを、迫る慧太に向ける。


「やっぱり超えてきたぁ~!」


 死になさい!


 直後、凍った地面から無数の氷のスパイクが飛び出した。避ける間もなかった。慧太の身体を氷が貫いた。


「あはっ! やっぱり人の身体がバラバラになるところって、素敵ぃ~!」


 臓器はつぶれ、無数に氷が身体を貫けば、どんな人間でも助からない。あとは女――エンビは、サターナへ視線を向ける。 

 漆黒のドレスをまとう魔女は、やはりエンビの氷の絨毯じゅうたんを飛んでかわしていた。まったく何て反応をするのか。普通、そこは動けずに足元から氷づけになるところでしょうに――


「でも、ざんね~ん!」


 先に飛び上がっていたロコが、その両手を漆黒の魔女娘に向け、放った。サターナは目を剥いた。


「投げ槍!?」


 彼女の左ふとももを、ロコの放った槍状のトゲが貫いた。氷の上に落下、滑るサターナ。ロコもまた着地し、切り離した腕部――その骨の先から再び槍を具現化させる。


「ボクたちを侮ったねぇ、おねぇさん」


 子供特有の無邪気な笑みを浮かべるロコ。


「謝ってよ。ねえ、姉さんを傷つけたこと、謝ってよ」

次回、『利用される者たち』

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