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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
王都ドロウシェン 編

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第二七一話、地下にうごめくもの


 ウェントゥス傭兵団は王都内の被害箇所周辺に散った。

 人々は瓦礫がれきを撤去し、下敷きになっていた人を救助したり、自分の家から必要な品をかき集めている。なにやら喧嘩をしている者たちもいれば、口論じみたやりとりがあったりと、どこかざわついていた空気だった。


「……すまない、手を貸してくれー」


 助けを求める声に、ガーズィは後ろに続く兵たちに『行け』とジェスチャーした。


「モロダー、ガストン」

「了解。ロングポルト、お前も来い」


 分身体(ウェントゥス)兵が三人、半壊した建物へ駆ける。壁は崩れ、一人の男性が天井の板をどかしながら、下にいる家人を助けようとしていた。


「おい、ガストン、そっち持て」


 わらわらとやってきたウェントゥス兵。鬼の面じみたバイザーを降ろして素顔が見えないため、男性はギョッとしたが、すぐに救助に来てくれたと分かり、それ以上は言わなかった。兵たちと瓦礫をどかすと、下から意識のない十代半ばの少女が出てきた。男性は、わっと泣き出した。たぶん娘だろうか。


「まずいな、近くの救護所に運ぼう」


 モロダーが、おろおろしている男性に代わり少女を担ぐ。


「おい、おっさん、娘さんを助けるぞ。救護所への近道を案内しろ」


 泣きながらコクコクと頷く男性の後に続くモロダー。そして彼の持っていた武器をガストンが拾い、後を追う。


「ロングポルト。ここはいい、隊長のところに戻れ」


 後を追おうとして、確かに手を足りていると思ったロングポルトは、仲間たちを見送り、ガーズィらが行った方向へと速足で進んだ。……何となくやることがなかったので、少し気まずかったり。


「……?」


 ふと、ロングポルトは立ち止まる。周囲で片付けをしている住民たちをよそに、黒いフードをすっぽり被り、全身黒のローブに身を包んだ者たちが数人。あたりをそれとなく窺うようにしながら、建物の間の路地へと消えていく。


 ――なんだ?


 どうにも嫌な予感がした。このあたりの住民ではなさそうだ。新手の火事場泥棒、盗賊のたぐいだろうか。まるで周囲から目立ちたくないとばかりにすみのほうを歩く一団。

 衣装からすると、どこかの宗教、あるいは魔術師のようにも見えるが……。複数人同じ格好でいたところからすれば、前者だろうか。 


 ――聖教会の人間なら、もっと堂々と歩く。


 後ろめたいことはないから、むしろ積極的に周囲と関わり、救助に手を貸すだろう。それをしないということは……。


 ――トラハダスじゃないだろうな……!


 黒い衣装、なんともきな臭い。

 ロングポルトは肩にかけていたクロスボウを手に持った。路地裏へと消えていく黒ローブたちを追う。見つからないよう、距離を一定に保ちつつ、振り返られても隠れられるよう、壁などの遮蔽しゃへいに沿って移動する。


やがて、路地の奥、地下に通じるだろう扉を開け、彼らが入っていくのが見えた。最後の者が、目撃されていないか周囲を確認した後で扉を閉めながら入る。

 たっぷり十数秒ののち、ロングポルトは、その扉の前へとやってくる。


「地下か……」


 いったい何だというのだ。地下に隠れ教会でもあってミサでもあるのだろうか。


 どうしたものか。


 ヤバイ連中か、あるいはそうでないのか。何もなければ問題ないが、もしトラハダスのような連中の集まりだったら、通報せねばならない。


 ロングポルトはしゃがみこみ、扉を探る。

 とくに鍵などはない。内側からかけられれば外からは開けられないだろうが、扉を開けてみないとわからない。が、迂闊うかつにあけたら、もし中に人がいれば、すぐに気づかれてしまうだろう。


 そっと人差し指を、扉の隙間に入れる。ぐにゅ、とシェイプシフターの本性を現した指先は、扉を開けることなく内部の様子を探る。……とりあえず正体を掴まないことには始まらないのだ。


 だが、その時だった。


 ふと、背後に気配を感じ、ロングポルトが顔を上げた瞬間、炎の塊が襲い掛かり、彼の身体を包み込んだ。

 あっという間に火だるまとなったロングポルトは、その場で炎上、すぐに動かなくなった。

そこへ、二人の人影が近づく。黒いローブをまとった男たち。


「おい、やりすぎじゃないか?」


 一人が、もう一人に言う。


「いや、こんなに燃えるとは……」


 言われたほうも困惑したような顔で返した。

 初歩的な炎弾の魔法だった。端的に言えば、炎の塊ではあるが、あそこまで激しく燃えあがることは、ほとんどないはずだ。


「何か火種でも持っていたかもしれない」


 そうでなければ説明がつかないと、魔法を放った術者は言った。


「しかし参ったな。何者かわからないぞ……」


 アルトヴューの兵士かと思ったが、見たことのない装備だった。もう片方の男は首を横に振る。


「何者にせよ、我らのアジトを探っていたのだ。王国の手の者に違いない! ご報告せねば!」


 頷きあった黒ローブの男たちは、地下への扉を開けると、中へと入った。



 ・  ・  ・



 王都ドロウシェンの地下にある旧時代の遺跡――ここは古くは魔術師たちの隠れ家だった。


 だが百年以上前に、古代魔法の失敗で危険物質が地下を汚染した際、魔術師たちは地下を封鎖した。もとより秘密主義な彼らは地下遺跡のことを秘密にしており、アルトヴュー王国の古い文献資料にわずかに記述がある程度で、大半のものが王都地下の存在を知らなかった。……アルトヴューの現国王でさえ。


 この地下遺跡が、邪神教団トラハダスの秘密拠点として使われるようになったのも、かつての魔術師の末裔が教団にいたからだと言われている。


 遺跡を改造しはじめたのが数年ほど前。現在ではアルトヴュー国内のトラハダス勢力最大の拠点として稼動している。古代魔術や技術の調査、生体実験などの研究施設と、教団の宗教施設や居住区などなど……。

 彼らは、この施設をドロウシェン地下神殿と呼んでいる。そしてその地下神殿に、いまトラハダスの大幹部が集まっていた。


 メンテリオ・カリオは、十二人幹部と呼ばれるトラハダスの最高決定機関の一人である。教団内での身分は、大司教。

 昨今の魔人の大陸侵攻などによって、『地上は、一度綺麗に一掃しなくてはならない』とする破滅派の筆頭でもある。


「ツヴィクルークを用いた攻撃により王都守備隊は混乱し、その監視網はあってないようなものだ」


 会議場の上座につくメンテリオは五十代半ばだが、痩身ながら若々しい強さ発していた。

 灰色の髪を後ろで束ね、その白い肌はあまり血色がよくないが、それはふだんから太陽の光を浴びていないせいだろう。冷たさを帯びた鋭い視線は、同じく席に着く大幹部たちを見た。


「追加の信者二百人も、騒動に乗じて王都に入った。いよいよ、審判の日は目前となった」

「五百人の生贄いけにえを用いた、大規模な召喚術……」


 十二人幹部のひとりが重々しく口を開いた。


「いよいよ、この世界に『トラハダス神』が降臨なさる……!」


 おお、と居並ぶ大幹部たちは声を漏らした。メンテリオは席を立った。


「この不浄なる世界の破壊と、新たなる再生の時だ」


 その声には力がこもり、周囲に『熱』が伝播でんぱする。


「魔人などと言う不完全な出来損ないや、権力にしがみつき弱者から搾取することしかしない世界の指導者を一掃し、同時に虐げられている者たちをトラハダス神の名の元に救済するッ!」

「トラハダス神の御心のままに」


 幹部たちは口々に呟いた。ここにいる者たちは、世界の破滅を願うトラハダス教団内の強硬派ぞろいである。享楽にふける穏健派がいないため、音頭をとるメンテリオの話に異を唱えなかった。


 だが、その会議場に、一人の武装神父が入室した。大幹部たちの会議の場に現れるのは、何か重要な報せがある場合のみだ。メンテリオは視線を向けた。


「何事か?」

「はっ、地下神殿をかぎまわり、侵入しようとした者を発見いたしました!」


 神父の報告に、大幹部たちは目を見開いた。


「なんだと――!」

「アルトヴュー兵か!?」


 邪神教団であるトラハダスと国家は敵対している。まさかツヴィクルークの襲撃をトラハダスと関連付け、拠点の洗い出しを行っているのかもしれなかった。

 メンテリオは歯噛みした。この大事な時に――

次回、『水面下』


戦災後の救助活動、その裏で――

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