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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
アルトヴュー横断 編

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第二五四話、ゲドゥート街道の奇跡


「食糧を買う、か……こりゃ傑作だ」


 カシオンは笑い出した。部屋のギャラリーを眺めていたセラとサターナが眉をひそめる。ドロウス商会の若頭は、「失礼」と言いながら自らの額に手を当てた。


「いや、すまない。傭兵がメシを買うとは珍しいと思ってな。悪名高き傭兵とくれば、食糧は現地調達が一般的だろう?」

「そうですね。現地調達という名の略奪行為が傭兵全体の印象を悪くしているのは事実です」


 ユウラは淡々と認めた。


「ただ我々が必要としている分をまかなうには、現地調達だけでは不足していると言わざるを得ません。足りない分は、他から調達する方法を見つけなければ」

「それで我々に取り引き――いや、仕事を持ってきたと。それもでっかい注文。俺たちドロウス商会でなければ扱いきれない量の」

「今はともかく、いずれはそうなると思います。ただ、その時になってから方法を考えては遅い」

「なるほど。一応、先のことを考える頭はあるわけだ」


 どこか小馬鹿にしたような言い分だ。傭兵というのを、頭の悪い野蛮人とでも思っているのかもしれない。……割と、否定できない面があるのが何とも。


「そんな大量の食糧を買い込んで何をしようってんだ? 戦争でもおっぱじめるのか?」

「まさに」


 ユウラは頷いた。


「魔人軍と戦争を」

「マジか!」


 カシオンは驚いた。演技などではなく、素の反応のようだった。ユウラは平然と言い放った。


「冗談を言うために、あなたとの会談を強引にねじ込んだわけではない。我々は本気です」

「魔人……」


 カシオンは顎に手をあて考え込む。


「いまアルトヴュー王国国境線に迫っているあの魔人の軍勢と戦うっていうのか、あんたたちが?」

「ええ、あちらにおわすのは――」


 ユウラは後ろにいる銀髪の少女を指差した。


「聖アルゲナム国の王女、セラフィナ・アルゲナム殿下です。我々ウェントゥスは、彼女のアルゲナム奪回に協力しているのです」

「姫殿下、だと……」


 きょとんとするセラ。カシオンは密談をするように顔を下げ、声を落とした。


「本当なのか? 彼女がセラフィナ姫だというのは」

「彼女がライガネンに来ていることはご存知でしょう?」


 ユウラは口もとをゆがめた。


「そして王都を離れたことは、あなた方の情報網を駆使すれば裏が取れるのでは?」

「……今からでも、ひざまずいて挨拶あいさつすべきだろうか?」

「お構いなく。あくまで彼女はこの場に立ち会っているだけなので」


 青髪の魔術師はそう言ったが、カシオンはずいぶんとやりにくそうな顔になっていた。


「……上等な椅子はご用意しようか。おい」

 

 控えている秘書に合図だけで指示を出すと、カシオンはユウラへと向き直った。


「話しを戻すと、つまりあんたたちは姫殿下の軍隊として、アルゲナムを取り戻す戦争を魔人軍に仕掛けるってことでいいんだな?」

「その通りです」

「話は分かった。だが、勝算はあるのか? 味方はどれくらいいるんだ? どう魔人の連中と戦うつもりなんだ?」

「それに対する答えは、中途半端なものになりますね。味方については増える予定ですが、その数については正確なところはまだわからない。魔人とどう戦うについては、手元にある戦力で戦うとしか言いようがありません」

「話にならないな」


 カシオンは首を横に振った。


「そんな不確かな話を元に、食糧や物資を調達する? あんたたちが戦争をおっぱじめたはいいが、早々に負けて全滅なんてことになったら、こちらが調達した食糧や物資が無駄になる。俺たちが大損だ」

懸念けねんはわかります」


 ユウラはまったく動じていなかった。


「ただ、あなたは勝算はあるのか、聞いた。それについては『ある』とお答えします。……なければ、そんな無謀な戦争など仕掛けたりはしません」

「勝算はある。だがその方法はまだわからない、それを信じろと」

「まあ、僕らは一度魔人軍とやりあっていますからね、リッケンシルトで」

「ほう……。結果はどうだった?」

「勝ちましたよ。ゲドゥート街道で、魔人軍の騎兵連隊を撃退しました。避難民を守ってね」

「ゲドゥート街道……避難民……!」


 カシオンは目を見開いた。


「リッケンシルトから逃げてきた奴から聞いたぞ。王都の避難民を追う魔人軍五千を、アルゲナムの姫とその護衛の傭兵たちが壊滅させた……って! その傭兵ってのは、あんたたちだったのか!」


 リッケンシルト国王都エアリアを出たあと、ライガネンを目指す慧太たちは追尾してくるレリエンディール第二軍――魔騎兵を主力とするベルゼ連隊と交戦した。セラとユウラの魔法、森に引き込んでのゲリラ戦、狼砦を囮にしたかく乱戦術で魔人軍の同士討ちを誘い、壊滅させたのだ。


「五千?」


 慧太が違和感を覚えば、ユウラは言った。


「二千五百ほどのはず。……どうやら噂に尾びれがついたようですね」

「ははっ、なるほど、そう言うことなら話は別だ」


 カシオンの顔に好意的な笑みが浮かぶ。


「銀竜退治だけじゃない。ゲドゥート街道の『奇跡』を呼び込んだ傭兵団。それが本当なら、なるほど、賭けてみる価値はありそうだな」


 だが――ドロウス商会の若頭は考え込む。


「しかし、実際にどれくらいの物資が必要か、おおよそでも見当がつかないのは痛いな。量やモノにも寄るが、すぐには用意できないことだってある。あんたたちが必要な時に、必要な量を確保できないと困るだろう?」

「まあ、多少の不足はカバーします。こちらとしても規模が大きくなる時には、極力そちらにお知らせするということで、だいたいの数を揃えていただければ」

「ふむ、多少の誤差に目をつぶってもらえるなら、何とかやりようもあるか。……それはそうと、あんたたちには支払能力があるのか?」


 カシオンの目が光る。


「これはビジネスの話だ。金がなけれりゃ、食糧や物資は買えないぞ」

「まず前金代わりに、銀竜の品々をそちらにお渡しします」


 ユウラは、すらすらと答える。


「希少価値が高いので、上手く売ればあなた方は儲けられるでしょう。僕らが売るより上手くやるはずだ」

「ああ、確かに買い手には事欠かないだろうな。鉄より硬い竜のうろこや爪、牙――武器はもちろん、コレクターたちも垂涎すいぜんの品だ。何せ現物がほとんどない銀竜だからな。……だがな」


 カシオンは不敵に唇の端を吊り上げた。


「あんたたちがどの規模、どの程度の時間をかけて魔人とやりあうかはわからんが、おそらく銀竜の品をさばいた程度では、すぐに金が足りなくなる。そこからの支払いについてはどうするつもりだ?」

「戦争で得た戦利品をそちらに流します。それらをあなた方が売りさばけばよい」

「戦利品――」


 若頭は考える仕草をとった。ユウラは意地の悪い笑みを浮かべた。


「魔人軍の武具や軍旗、その他金目になりそうなものをそちらにお安く提供しましょう。それをあなた方が売り払ったお金のうちこちらの取り分を物資の購入費用にしていただければ」

「魔人の武器か……粗悪な品だと売れないぞ」


 難色を示すカシオン。魔人というだけで、どこか蛮族という認識を人間は持っている。個々の力は強いが、技術やモノづくりでは人間が至高の存在であるという思い込みだ。そんな偏見からの発言に、ユウラは笑みを返した。


「それでも買い手はつくと思いますよ。……ほら、ライガネンや北部連合国の周辺では、対ガナンスベルグ戦争に武器や装備を必要としている人が大勢いるでしょうから」

「……確かに。戦争となれば、武器の需要はあるわな」


 徴兵した一般兵に武具を用意する必要がある軍隊。地元の自衛団や反抗組織――戦争が近づけば、たとえ質が悪かろうが武器を欲しがる者はごまんといるのだ。


「悪くない話だ……悪くない。だが――」


 カシオンは、どかりとソファーにもたれた。一気に脱力したような空気。


「残念だが、この話乗れないな」

次回、『運ぶだけでもお金がかかる』


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