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シェイプシフター転生記 ~変幻自在のオレがお姫様を助ける話~  作者: 柊遊馬
第二部、西進! ウェントゥス傭兵軍

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第二三二話、聖王と白銀姫


 会議堂を出て、王城を歩くセラ。その隣にはライガネン王であるアルダクスがいて、セラたちからやや距離を置いて近衛騎士と侍女が付き従っている。

 通路から外を見やれば、雪が積もった王都の景色を望むことができた。風は冷気を帯び、肌を刺してくる。


「なかなか君と、ゆっくり話をする時間がとれなくてすまなかった」


 聖王は詫びた。セラは慌てて首を横に振る。


「いえ! そんな……陛下もご多忙のようで。……その」


 伏し目がちに、隣を行く王を見る。


「よろしいのですか? 議会のほうは」

「よい。北の問題について話し合っているのは知っておる。……同時においそれと答えが出るものでもないということもな」


 長くなるだろう――アルダクス王は眉間にしわを寄せ、考え込むように視線を下げた。


「……ルクスは亡くなったか」


 セラの父、アルゲナム王の名前。沈んだ様子のアルダクス王につられて、セラも俯く。


「はい。……私を追ってきた魔人から、そのように聞かされました」

「彼は足が不自由だったな」

「右足を。魔獣との戦いで負った古傷で」


 目の奥がじんとくる。白銀の勇者の血を引く一族の長、ルクス王は武に優れ、若き頃は白銀の勇者にふさわしい傑物と称された。もし傷を負わなければ、おそらく今のアルダクス王同様、六〇を迎えてなお戦場に立つことにも躊躇ためらわない豪傑となっていただろう。

 アルダクス王は口を開いた。


「彼は……ルクスは我が友にして、最大の好敵手だった。ああ、もちろん剣の腕を競う仲であって、敵対していたわけではない」


 聖王は懐かしげに目を細める。


「若かりし頃は、互いにどちらがよりよき王となるか切磋琢磨せっさたくましたものだ。……もう、彼とまみえることは、ないのだな」

「はい……」


 セラは唇を噛み締める。父王――できることなら会いたい。だがそれは叶わない。もう、二度と。

 魔人の国レリエンディール。その魔人たちによって父王は死に、家族――セラが敬愛する兄も、アルゲナムの騎士たちも、そして民にも多くの犠牲が出た。


「父の……犠牲になった民の仇を」


 白銀の姫の表情が固くなる。


「そしていまなお魔人に支配されている国に残る民を救い出さなくてはいけません」

「ああ……」


 アルダクス王は頷いた。セラはその青い瞳を、隣に歩く王へと向ける。


「でも私ひとりの力では、国を取り戻すことはできません。……陛下のお力添えが必要となりましょう」

「うむ。わし個人としては、魔人どもを野放しにしておくつもりはない」


 しっかり、噛み締めるように聖王は断言した。その力強き言葉は、セラが苦労の末にライガネンにたどり着き、欲しかった言葉のひとつだ。


「だが――」


 王の表情に影がよぎる。


「北部連合国は、北の軍事大国の脅威にさらされ、我が国に救いを求めて矢のような催促さいそくだ。そしてわしは、すでにそれを了承しておる。アルゲナムは我が友の国、すぐにでも救援軍を編成したいが、諸侯らが納得せん」

「いまは、人間同士で争っている場合では……」

「その通りだ。……だが戦争とは相手がいることだ。こちらが対話を求めようとも相手にその気がなければな」


 アルダクス王は、一気に十は老け込んだような疲れた表情を浮かべた。


「北の問題が些細ささいであれば、さっさと片付けて西に注力できる。だがガナンスベルグは強大な力を持っている」

「レリエンディールも」


 セラが言えば、聖王は頷いた。


「あのリッケンシルトが開戦から十日と立たず王都まで攻め込まれた。あの国は東西に長い国だ。魔人軍の進撃速度と強さもまた脅威だ」


 何より問題なのは――


「どちらかに対応している間に、もう片方に後背こうはいを突かれることだ。どちらも軽視できぬほどの力を持つ。いっそガナンスベルグが魔人軍と戦ってくれないものかと思うくらいだ。実際は、双方の中間に我らが存在するゆえ、無理な話であるが」

「ガナンスベルグと休戦は無理なのでしょうか」

「難しいだろうな。あの国――ガナンスベルグの皇帝にとって、戦争をやめる理由がない」

「魔人の脅威が迫っている、としてもですか?」


 セラが重ねて聞く。しかし聖王の表情は晴れない。


「彼らは自らの機械兵力に絶大な自信を持っている。魔人の軍勢も機械兵団がまとめて粉砕すると信じて疑わないのだろう」

「それなら、私が――」

「ダメだ」


 セラの言葉をさえぎるアルダクス王。


「かの国に行き、直接交渉しようというのだろう? よせ、あの国の王は君の言葉に耳を傾けん。それどころか、君を辱め、卑劣な要求を突きつけてくるに違いない」


 右手で額を押さえる聖王。その言葉には怒りが含まれる。


「あの国に蹂躙じゅうりんされた国と、その王族の末路――思い出しただけで反吐へどが出る」


 そこまで下劣な人物なのだろうか。ガナンスベルグの王――皇帝は。


「少なくとも、ルクスが生きていたら同じ感想を持っただろうな」

「それならば……私もおそらく好きになれない人物のようですね」


 父の友人だったアルダクス王がそう言うのだ。セラは彼の助言を素直に受けることにした。

 だがそれは同時に、ひとつの答えを突きつけてくる。今のセラに、できることは何もないという答えを。

次回、『セラ、手紙を書く』


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